17-4.同。~その未来のためにも、滅びの輪廻に終焉を~
~~~~子どもを良いように使いやがって。その悪行、必ず返す。
「……だとして。どう止める。
再現を起こすのは、我々がやったことではない」
なるほど。
起動は神主あたり、この子たちは遠隔起動のための、ポインターみたいなものかな?
発生させた時点で、お役御免だろう。
……捨て駒ってことだ。ふざけた真似をする。
「君らはただの足掛かりなんだろ?それはわかるよ。
ああ、殺気しまいな。君らを殺したって、止まらないからやんないよ」
「あの二人を殺せば、それで済むのか?」
「殺すのはダメ、というか無駄だ。
それができるんなら、こちらだって最初からそうしてる」
明らかに、実力でマリーとダリアが圧している。
けど、どうも殺しても気絶させてもダメらしいんだ。
対応策については、マリーに頑張ってもらってとっくに検討済みだ。
ダメな理由ははっきりしていない。
ただおそらく。
「じゃ、じゃあどうするっていうのよ」
戦っている四人を、そっと見る。
あのサレスとメアリーは……エイミーとマリエッタだろうな。
役を被せられているんだ。
二人が「使われた」のは、こちらからは知り得ない、何か特別な理由があるのだろう。
魂の名を持ち、抵抗力のある二人を、わざわざ強制的に従わせたんだからな。
それも、さんざんつけ狙ってまで、だ。
特にエイミーは、結晶まで持ってる。本来なら、役の強制にはかからないと、我々は見立てている。
だが、以前の時間でのミスティという前例もある。
彼女は名を持ち、特殊な結晶を肌身離さず持っていたが、それでも役を強制され、コンクパールにやってきた。
奴らには何らかの方法でこちらの抵抗力を突破し、役に従わせる手段があるんだろう。
ボクらに接触してそれを行えば、一発で何事も解決だろうに。
そうしないのだから、制限がある切り札ってとこかね。
「あそこで役を被せられてる二人も、たぶんボクの友達でね。
だからちょっと、今後のためにも実験したいんだ。
ストック、ダリアは忙しそうだから、ボクらであれやるよ」
「ああ」「じ、実験って呑気な!?」
「大丈夫だよマドカ。試験自体は終わってる。
ただ、事件再現をこれで止める機会がなくてね」
ミマスでモザイク兵に先に気づいてれば、あそこでやったんだけどなぁ。
惜しいことをした。
「そこで見てな。もう、こっちを止める気はないんだろ?
なら」
不信と恐れに揺れる二人の目を、じっと見る。
「マドカを守ってあげて」
「……言われるまでもない」
アリサが道を開けたので、横を通り、屋根から降りる。
ストックも続いてきた。
ダリアとマリーが、それぞれ少しだけ視線を寄越す。
「二人とも、もうちょっと頑張って!頼んだよ!」
かすかに友が頷いたのを見て。
「おなかすいた」
「ああ、後で夜食にしよう」
軽口を叩きながら、ボクは左手の緑の腕輪を回した。
充填されていた魔力が流れ、輝きだす。
その手を、天に掲げた。
「『涅槃の彼方より、来たれ』!!」
中空にまだらの空間が現れる。
中から、黒い神器車が飛び出してきた。
追加装甲がすべて展開され、濃い魔力流を纏っている。
二人、運転席と助手席に乗り込む。
「ストック。呪装火砲と重魔力収束鏡を展開するから、維持よろしく」
「わかった。どんどん回せ」
よっしゃ。
━━━━『天の、星よ。』
展開している余剰魔力をもって、魔導を成立させる。
━━━━『一二三四五六七八九十。布留部、由良部、祓い給え!!』
車体の魔力流が、赤く染まる。
…………慣れてきたせいか、負担が少ない。
このまま、いける。
「オーバードライブ!『神力 災害』!!」
赤い魔力流が変化し、車体全体が卵型のレンズに包まれたかのようになった。
二つの魔導を、ストックに移す。
承認され、制御が移譲された。
って、ストックもよく二つを平然と維持できるな??
よし、なら次だ。
この滅びを回避するための――獣を招こう。
「『涅槃の 獣よ。立て』!!」
カラミティコールは、魔石変化・制御の実行。
サルベーションコールは、魔力流の制御が主。神力災害と同系統のものだ。
Phase2は出力の上昇と、展開神器を巻き込んだ強化駆動。
強化とはすなわち――黒い力の獣の、降誕だ。
ビリオンの黒い魔力流が、四足の獣のようになる。
カラミティコールのそれとは違う。
機能的に変化しているわけではないので、これはただの魔力流で、見た目だけ。
目的はもちろん、魔導拡大だ。
とはいえ、我々はすでに複数の超過駆動を起動・維持している。
このまま本番のものを使うのは難しい。
そこで、だ。
瞠目し、袖を加え――息をしながら、魔素を練り上げる。
一気にそれを広げ、戦場を睥睨するように、見渡す。
…………よし。アレは、ないな。
隙を作って、一気に行こう。
アクセルを踏み、ダリアたちの方へ乱入。
ロケットスタートからドリフトしつつ、魔力流の外側の圧を、サレスにひっかける。
避け損ねて魔力流に当たったサレスが、吹っ飛んで転んだ。ごめんね。
やっぱこっちのサレス、ダリアみたいなトラップは使ってないな。
魔力の澱みがないと思ったわ。
使われてたら、その時点でどかーん!だったけど。
「無茶苦茶するわね、ハイディ……」
「ダリア、あれ頼んだ!」
窓を開けて、叫ぶ。
「しょうがないわねぇ」
赤い魔女がにやりと笑い、二本の杖を掲げ、その先を合わせる。
━━━━『フラスコの中より、願う。』
いつもと違う詠唱から、黒い力が巻き起こる。
━━━━『一と七を巡り十に至れ。子と牛よ、開け!!』
力がビリオンの獣の魔力流に接触し――ボクは流れを制御し、一気に広げた。
この街も、場合によっては国すらも含めるように。
彼方へ!
黒いまだらの空間が一瞬だけ広がり……収まった。
前と後ろで、それぞれ人が膝をつき、あるいは倒れる。姿が、元に戻ってる。
サレスだったのがエイミー、メアリーだったのがマリエッタだ。
三年前。ダリアと再会したダンジョン。
あそこで遭遇した魔物・チキンチキンの眷属の一体が、ダンジョンから出て大人しくなっていた。
この件から、呪いは門を潜ると連続性を失うのでは?と我々は考えた。
事件再現が呪いの一種であるならば、これでリセットできるのではないか、というのがこの試みだ。
同じ座標に門で転移させることで、呪いを断ち切る。
一応、うまくいっているとみてよさそうだ。
しかし本当に現象が終わったかどうかは、確証を得る手段が……
「ハイディ、やりましたよ!成功です!」
マリーが、はしゃいでる。
ああ……なら、大丈夫だ。
未知を知る予言の子が言ってくれたのだから、一安心だ。
「『災いよ、また箱の開く日まで』」
終了のコマンドを受け、車体に追加装甲が戻ってくる。
ストックに向かって左拳を出した。
彼女が、にやりとしながら右拳を合わせる。
ん?遠くの屋根から何か飛び立ったけど……ありゃクラソーかな?
ほんと、疲れる一日だった。
座席に深く腰を掛ける。
寝て起きたばっかりなのに、ぐったりしてくる。
とはいえ……今後はどう納めたらいいもんだろう?
誰か後始末、引き受けてくんないかな。
ボクはそんなことより、ご飯が食べたい。
また、おなかが鳴った。
ご清覧ありがとうございます!
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