17-3.同。~不信を抱く破壊の子~
~~~~間に合ってよかった。ぐーすか寝てたらそのまま蒸発してたよ。
「そ、そんなわけないじゃない!
でも、そうしないとダメって、神主が……」
やっぱ裏で糸引いてんのは、奴らか。
「2か3の神主か。まぁやつらにとってはそうだろうな?
君にはまったく全然、利益がないけど」
「うるさいわね!あんたの言うことなんて、信用できないわよ!
神主の言うことは、正しいんだから!」
正しいことを言う、大人たち。
そのイメージがボクの脳裏で……前の時の、クレッセントの奴らと、重なる。
ボクの家族のことを隠し、ボクを手ごまに使った奴ら。
思わず、そっと彼女から見えないところで、拳を握る。
奥歯を砕きそうなのを、我慢する。
「正しいことと、君のためになることは、違うよ。マドカ」
声音が思わず、優しくなる。
マドカの眉根が寄った。
「……神主たちが、私をだましてるっていうの?」
「そうだよ。あっちのサレスの魔術が、メアリーの魔力流に衝突したら、どうなる?」
「どうって。イスターンが滅ぶって。
権力者が集まってる首都の、悪い奴らが吹き飛ぶって」
なんだそりゃ。滅茶苦茶じゃないか。
というか首都は吹き飛ぶって、そこは聞いてんのかよ。
ならなぜ来たし。
「そうだね。君ごと、跡形もなく消し飛ぶね。
本気で国が蒸発して、人が灰も残らない威力だけど。
大丈夫?」
「へ?そんな、何の冗談……」
……ちゃんと説明すれば、イメージはわくのか、この子。聡い子だ。
連中はこの子に嘘は言わず、想像がつきにくいように言いくるめ、遣わせた、と。
正しい、が聞いて呆れる。
「残念ながら。魔導拡大は、何度も実験した。
あそこで遠慮なく魔術撃ってるサレスの魔導が、魔力流に一個でも当たったら。
ボクらは国の多くの人ごと、消えてなくなる」
マドカの顔が、暗闇でもはっきりわかるくらい、青ざめた。
……こんな素直な、ほんの子どもをだまして。
奴らは爆弾のように使いやがったのか。
――――許せない。
「そ、そんなこと言ったって!
あいつら私の命令なんかじゃ止まんないわよ!?」
いい子だ。少々ヒステリックになってるが、それでも頭も回ってる。
この子は助けないと、ダメだ。
しくじれば、きっと後悔する。
チャンスはきっと、一度切り。
なら……頼りになる、相棒の力を借りよう。
「ボクが何とかするよ。
だからもしいるんなら……君の相棒を止めてくれない?
ストック――リィンジアが必要なんだよ」
「アリサ、アリサ!止まって、戦うのやめて!!こっち来て!!」
彼女が叫んでしばらく。
どっかから、人が跳んできて、マドカの隣に立った。
跳んできた子は、切れ長の目でこちらを睨んでいる。
アリサ……顔に、覚えがある。役の名はナズナ・リング、だったか。
『揺り籠から墓場まで3』の、悪役令嬢。
褐色の肌で赤紫の髪。黒い瞳に……薄く赤が見える子だ。
背が高く……クラソーを倒したのはこの子だな。
強い。
ギンナほどではないが、不可能状況を覆す執念のようなものを感じる。
ストックも跳んできた。ボクの後ろに、静かに立つ。
「どうした、マドカ」
「わ、私たち、ここが滅んだら死んじゃうって……」
「その女の言うことを、信じたのか?」
「だって……」
「横から口出すけど。神主らも同じこと言ったそうじゃないか。
彼らはそこんとこ、はっきり言ってくれなかったみたいだけど。
ボクは、イスターンが滅んだら君らも死ぬって言っただけだよ」
「ほ、本当なの?アリサ」
マドカが、すがるような目でアリサを見てる。
「……大丈夫だ。私が君を守る」
「そ」「無理だ」
何か言おうとしたマドカを遮って、断言する。
二人が、ボクを振り返る。
「マドカの祈りの力と、アリサの断絶の力。
ヒロインと悪役令嬢が持ってる、それらを当てにしているな?」
3の二人には、特別な力がある。
祈りってのは、魔導じゃなくて。
回復とか、セーブとか……そういう、ゲーム的な不思議パワーだ。
断絶、または破壊の力と呼ばれるそれは、文字通り陸を叩き割る。
ゲームでは時間経過とともに、フィールドを狭くする、らしい。
こういう、メインどころの情報はあるんだよなぁ。
細かいのが入ってきてないんだけど。不便だ。
「そ、そうよ!私たちには、すごい力があるんだから!」
「神主たちも、だから問題はないと言った」
「その時は何と質問した?」
「……イスターンが亡びる事態にあって、その場にいて大丈夫か、と」
確かに、通常火力での滅亡……最初の時なら、よかったろうな。
質問に対し、回答は間違っていない。
そしてボクの質問に答えてくれたあたり、アリサは奴らを不信の目で見ていたな。
マドカは妄信していたようだが。
「その問いに対してなら、そう答えるだろうな。
だが事件再現は別だ。
あれが起こった場合、この国で助かるのは特定の人物だけ。
他は皆、死に絶える。そういう現象だ
あそこで戦ってるサレスとメアリーによって、引き起こされた場合。
回避の手段は、ない」
これは、マリーと予言の力を使って検討、解を得ている。
助かる人間が、決まっているのだ。
マリー……メアリーは、事態を引き起こしていながら、助かった人間の一人である。
本当にただ偶然、間近にいながら無傷で生き残ったのだ。
そしてその場にいた場合、「その時助かった」以外の人間は例外なく、死ぬ。
「なぜそう断言できる」
「メアリーの予言の力で知った結果だ。
概要くらい知っているだろう?
他の子の力で、補強もしてある内容だ。
ボクらがここにいて、イスターン滅亡を再現された場合。
助かるのは、あそこで剣を振るっている方のメアリーだけ。
多数の神器を振ってる、再現の子の方は中身が違うから、助からない。
もちろん、ボクらも、君らも」
この再現の強制力は、例えメリアであっても蒸発させると予言の力で結論が出ている。
回避する手段は、再現させないか、ここにいないかのどちらかだけ。
もちろん……今から逃げたところで、遅い。射程範囲は、連邦国内全域。
そしてここは、連邦ど真ん中のイスターンだ。
次投稿をもって、本話は完了です。




