17.首都イスターン、夜。
――――その時が……向こうからやってきた。
目を覚ますと、布団の中だった。
見たことがない……いや、ちょっと覚えがあるな?
ひょっとしてここ、イスターンの離宮か??
部屋は真っ暗で、ボク以外の人気はない。
掛け布団をはいで、ベッドから出て……寝巻だな。
状況もわからないし、このままはよくない。着替えるか。
小テーブルに、適当に服が積まれている。
血がついてるし、これさっき着てたやつだな?
これは、ストックの仕業かなぁ。
ちゃんとボクに服を着せたあたりは、よくやったと言っておくべきか。
お、砂は残ってないな。そのくらいはやってくれてるか。よしよし。
間の記憶がないから、邪魔を倒した後、ボクは倒れたのかな。
舟はストックが運転して……イスターンまでやってきたと。
そう遠くはなかろうけど、なぜイスターン。ジュノーどうしたし。
とりあえず着替えて、改めて暗い部屋を見渡す。
調度に覚えがある。イスターンに来た時に泊ったことのある部屋だ。
ここはダリアの住む離宮の一室のはず。
武王の離宮なせいか、作りが豪奢で、離れだというのに確か三階まである。
窓から遠くがよく見えるので、ここはやはり三階の部屋だろうな。
夜のイスターンは暗く、そしてよく冷える。
窓の外には街並みが広がっていて、空はもちろん真っ暗だ。
星が出ていて、夜遅いことが伺える。
さすがに何日か経ってたりはしないと思う。
けど、みんなどこに行ったのやら。状況も知りたい。
というか、ミマスに置いてきた三人がちょっと心配だ。
イスターンやジュノーやらから、ちゃんと連絡が行っているとは思いたい。
窓の近くまで来た。内側に開けて、バルコニーに出る。
手すりのアイアンがいい趣味だなぁ。
ここの装飾、好きなんだよね。
…………おなかがめっちゃ鳴った。
誰もいないところでよかった。
『大食いは、変わりないようだな』
んな!?
部屋から陰になるところに、黒い結晶がいた。
「……それを知ってるってことは、やっぱボクのこと覚えてたな?
カール……じゃなくて、クラソー、だったか」
壁に背中を預けている、人型の結晶。
手にはあの、銃弾を詰められる、大きな剣。
「君は……何が目的で動いてる」
『説明する義理は、ない』
「そうかよ。
なんでもいいけど、安易に暴力に頼るのをやめろ。
君はボクと違って、才能あるんだから。
やりたいことがあるなら、力を尽くせよ」
前の時、こいつが力尽きる前に言ってやりたかったことを口にする。
『……男ならば、強くなれと言われ、育った』
「強いのは当たり前じゃボケェ。
他のこともできんと、男も女も生きていけんわ」
結晶で表情はよくわからないが、クラソーが少し、鼻白んだ様子だ。
こいつは才能はほんとあるし、物覚えよかったし、何なら雑事も積極的に手伝ってくれた。
けど考えが大雑把というか、見通しが甘いというか……そこが残念なんだよな。
半島は、人が生きていくには厳しい土地だ。
ボクは魔物におびえる、帝国の庶民の生活や。
外敵に震えて、閉ざされた社会を作る共和国の文化や。
安全の代わりに見えない搾取で、ひもじい暮らしをする聖国民を知っている。
そして比較的安定した暮らしができる二つの国は、前の時間では滅ぼされた。
ここは強い者が集まって、自助に勤めてやっと生きていける世界なんだ。
高位貴族に類するものが、ただ強いだけなど許されない。
もちろん、そこに男女の別などない。
『貴様が言うと、説得力はあるな……。
覚えて、おこう。
ハイディ、だったか』
クラソーが、こちらを向き直る。
向こう側で見えなかった半身が……ずたずただ。
結晶もほとんど割れている。
「おまっ、どうしたんだその傷!?」
『犬にかまれただけだ』
「その犬っころ、魔物ってやつだろ!?」
『魔物如きに遅れはとらん。
……騒ぐな。結晶出力が戻れば、もう一度変身し、治せる』
ん、そういえばボクも、呪文の獣になったら傷が治ってたことがあったな。
というか、結晶のエネルギーが足りなくなるほど……?なにごと??
クラソーが、北東の方角を指さす。
そちらを見ると……あれ?何か今、閃いたような。
『ストック、が、戦っている。
行け』
「がっ、また戦闘かよ!?
くそ、君は置いてくからな!!」
『それでいい』
袖を口に含み、一息。
雷光に乗り、バルコニーから飛び立つ。
なんて忙しい日だ!おなか減った!!
次の投稿に続きます。
#本話は計4回(8000字↑)の投稿です。




