16-4.同。~紫陽の絆の竜、飛び立つ~
~~~~こんなやり方ありか。滅茶苦茶だ。討滅された邪魔を再現するなんて。
「ストック。戦略目標」
「今ここで、邪魔・蛇の海を討伐する。
戻って判断を仰いでいるうちに、本物がやつの周囲に達する恐れがある」
「同感だ。作戦」
「…………私に、任せてもらえないか?ハイディ」
「どうすんの?呪文、使えないでしょ?」
彼女は、前の時間でいた組織・ラリーアラウンドの者たちと宿業が結ばれていた。
呪文は、その業と縁を頼りに、大きな力を扱う技法だ。
だが、こちらが彼らに因縁がある、と認識していないと、大きく力を失う。
ありていに言うと、恨まれておらず、仲良くやってるなら、宿業が維持できないのだ。
ストックの六人の仲間は、こちらでは前のことを覚えておらず、普通に生きているそうだが。
それゆえ彼女も、彼らに恨まれているなどという認識は、抱え続けられなくなったのだろう。
三年前は使えたが、その後に一つも獣を起動できなくなっていた。
この点は……ボクも同じだ。
そして呪文の獣を使わず、あれを倒しきるのは難しい。
一撃加えるのは、できる。だが耐久力が尋常ではないのだ。
継続的に戦える能力が、要る。
「いや、おそらくだが、使える」
「六人との宿業は切れたんでしょ?」
「祝いの獣があるだろう」
「あれ、当人がいないとまず無理っぽいし、それはそれで宿業がたっぷり必要だったよ?」
ボクが三年前、邪魔を倒すのに使った、祝いの獣。
メリアとの強い絆から、宿業が反転して起動した。
その後起動はできていないが……。
最低限、深く縁のある相手と、大きな宿業そのものは要ると考えている。
ボクらは今、宿業そのものも弱まってるとみられる。
ちょっと難しいんじゃないかなぁ。
「両方あるじゃないか」
「どこに?」
「相手なら、そこに」
彼女が、ボクを手で示した。
……は?
「宿業は、呪装火砲でなんとかならないか?」
「う”……重魔力収束鏡で、呪装火砲『を』強めれば、たぶん」
「お前に恨まれていると思ったことなど、ない。
だが、お前以上に強く結ばれた絆もまた、ない。
呪文の獣ならばともかく、祝いの獣ならば。
いける、はずだ」
ストックが、まっすぐにボクの目の奥を、見る。
んああああああああああああ!!
なんでこの場でそういうこというかなぁ!
悶え転がりたい!いっそ反撃したい!!
ええそりゃそうでしょうとも、絶対できるって確信があるよ!
何せボクらは、互いを救いたくて時間を越えて来たんだからな!!
ああああああ……顔が耳まで赤くなるぅ。
くそう。
しかもやるならストックだ。
呪装火砲と重魔力収束鏡の重複起動は、ボクじゃないと制御が追いつかない。
特に、神力災害はボクしか体得してないから、ボクが補助につかないとダメだ。
そうなると、ストック一人を出すことになる。
うがー!!
大地の遠くから、振動が響いてくる。
せかすなし!
「ハイディ」
「ああもうわかったよ!やってやらあ!
エイミー、マリエッタ、手伝って!
起動はボクがやるから、継承して維持してほしい!」
「わかったわ。ストックを送り出してあげましょう」
「お手伝いいたしますとも……初々しいですねぇ」
によによすんなし、二人とも!
操舵室を開けて、運転席に滑り込む。
後部座席に、エイミーとマリエッタが降りて来た。
ストックは制御室の船首ぎりぎりのところまで、歩いて行った。
装甲を透過して、外に出ることとかもできるんだよね。
こっから出てったほうが楽だし、早い。
深く息を、する。
重魔力収束鏡が先、呪装火砲が後。
両方を起動後、後ろの二人に制御を渡す。
うん、よし。
ロザリオの淵で、親指の腹を切った。
ビリオンのキーボックスと同じところに作った、コネクタに鮮血を押し付ける。
「『災厄よ、来たれ』!!」
エルピスの外部装甲が細かく分裂、展開。
呪いを生み出す、禁忌の箱が――開きだす。
外殻の魔力流に干渉。
ボクの魔力流制御により、無数の神器が中空に散り、船体を真球状の魔力流で囲む。
ついでに、ストックの正面の壁を、開ける。
そこに、さらに。
「オーバードライブ!『神力 災害』!!」
魔力流が変化。エルピスが卵型の巨大なレンズで覆われる。
では次だ。
━━━━『天の、星よ。』
余剰魔力で、大きく魔術を展開。
━━━━『一二三四五六七八九十。布留部、由良部、祓い給え!!』
レンズがすべて、赤く……より濃く、紅に染まる。
……くそっ、重い。
本来は二人の術師で分担する工程だ。
起動はできたが、長くはもたんな。
だが準備はできたぞ!
「行ってこい、ストック!」
「ああ。任せて置け、相棒」
ボクの相棒が、飛び立つ。
彼女が赤い膜を潜った。
まだ明るい荒野に、紫の光の奔流が溢れ出る。
<――――どうか。世界に、幸いあれ。>
世界の言葉が聞こえる。
今結ばれている絆が光り輝き……ああ、なんて暖かい。
君の気持が、芯まで伝わる。
━━━━『祝言。』
呪いが、裏返る。
━━━━『紫陽蛇獣[紫陽花]、生誕!!』
英聖に綴られた、祈りの言葉が成立する。彼女の左手から、急速に結晶化が始まる。
結晶はあっという間にその身を覆い、巨大な紫の石英となってストックを包み込んだ。
巨石が、荒野に落ちる。
その岩が黄金に染まり、ボクの……名のみを紫に遺す。
<――――縁 竜・成就。>
世界の言葉が響き渡り、その法則が小さく書き換わる。
巨大な石英が、天に向けて爆発した。
<――――神性・解法!>
轟音が鳴り響く。
石が砕け散り、巨大な獣が残る。
紫色の、竜。
かつて見たときは、その羽は虫のそれだったが。
今は大きな……空飛ぶ恐竜のような、翼。
瞳の赤は明るく……朝焼けのように、荒野を見ている。
……あれ?なんかボク、やたら細かく認識できるな?
ボクの絆を使ってるからか??
『行ってくる。ハイディ』
「行ってこい、相棒!」
操舵室から、届くとは思えないんだけど。
声をかけた竜は頷いて、空に飛び立った。
次の投稿に続きます。




