16-3.同。~太古の蛇、領土に帰還す~
~~~~変な根に滅んだ聖域。不穏なものばかりで嫌になるね。
「ジュノーでは、ない?」
「え、でも」
二人はかなり困惑しているようだ。
目の前の三角錐は、異様ではあるが聖域には違いない。
第四世代は第五世代と、機関部の見た目が微妙に違うから、見間違えようがない。
けど……違うんだよ。
「魔石が劣化しすぎてる。
第四世代で、制作年を考えると、ここまでにはならない」
魔石部分の風化が始まってる。
鉄混じりだから、純粋な魔石よりちょっと早いはずだけど。
それにしたって現役の神器船がこうはならない。
200年前のサンライトビリオンが、まだまだぴっかぴかなんやぞ。
第四世代は100年前くらいのデザインだから、こうなるなら早くてあと300年は先だろう。
「300年先かなぁ」
「いや、500年は経ってるな。第四世代後期じゃなかったか?この船。
魔鉄鋼が第五世代中期のものに近い」
「ああ、刷新されたあの……。そういや連邦の発明だったか」
「広まったのは第五世代になってからだが、その工材が試験的に使われてるんだろう」
「まってまって二人とも。どういうこと?」
エイミーとマリエッタが戻ってきた。
ボクの近くで朽ちた魔石を見てはいるが、わけが分からないと言う顔だ。
まぁ何が起きているのか、はボクも推測しかできないけど。
「これは未来に起こったジュノー破壊を、再現したもの」
「みら……!そんなことも可能なの?」
「さぁ。実例は見たことない。
ただ、ボクらが事件再現と呼んでる現象は、ふわっとしててね。
再現とは言うが、守ってるのは場所くらいなものだ。
時系列とか人員とか、かなり無視されてると思う」
前の時間では、連邦もジュノーも丸ごと滅んでいた。
少なくともジュノーが滅ばない周回があって。
その周回でジュノーが落とされたとき、の再現かな?
だとすると、まずいな。
「みんな、クルマ戻って。
これを為した存在がまわり……まずい、走れ!」
地面が、揺れてる。
ストックが走り出す。
ボクは袖を口にくわえ、一息。
雷獣を起こして、マリエッタとエイミーを抱えた。
一直線にビリオンに戻り、二人を後部座席に放り込む。
自分も乗って、シフトレバーはそのままに、アクセルを踏み始めた。
ストックが乗り込んだ。よし!
ボクがシフトレバーを後ろに倒すと、大地の震動が強くなった。
ロケットスタートで、とにかくエルピスへ走る。
ジュノーの向こう、大地から……巨大な蛇の首が天に向かって飛び出した。
「あれ、ナーガってやつ!?」
「違う、最悪だ!連邦に伝わる、伝説の邪魔だよ!!」
ナーガナーガなら、紫だ。
あの白い、ナーガよりもっと大きな蛇は。
「文献には、蛇の海、と記されているものだ。
とにかく舟に戻って離れるぞ!!」
蛇の胴体が、各所から顔を出し始めている。
こっちにかなり近いとこまでも来ていて、すごい揺れてる。
神器車だから、あまり揺れは伝わらないはずなんだけどな!?
聖域が、解体されずに倒されてるから、その原因は邪魔だろうとは思った。
だがやばいな……どうして、かつて倒されたという奴がそれを為したのかはわからないが。
こいつは、この砂漠一帯すべてが奴であったとすら言われている、巨大な蛇だ。
付近まで逃げて来たところで、エルピスのシャッターが開く。
そのままビリオンを中に入れた。
降りつつ、舟の制御を開始。エルピスが場を離れていく。
「制御室へ。様子を見ながら、対策を考えよう」
制御室まで戻ってきた。
遠くに蛇の長い体が蠢いているのが、壁に映った景色に見えている。
まだこっちに来る様子……ジュノーから離れる気配はないが、どうしたものか。
「その。ハイディ。どうする、の?」
エイミーが不安げだ。
さりげなく、マリエッタがその肩を抱いてる。
…………まぁ今は置いとくか。
「あれが偽物のジュノーなら、撤退して判断を仰いでは?」
「それがねぇ……たぶんなんだけど、この辺に本物もいるんだよ」
「「え?」」
予定航路から判断するなら。まだ東北東にそれなりの距離、離れてはいるはずだが。
突然外と連絡がとれなくなって、今どうなっているかは判断がつかない。
「役、か?ハイディ」
「そう。複雑だから、二人はそういうものと理解してほしい。
偽物のジュノーが破壊されて、今ここにある。
その事実に押し出されて、本物が我々から『認識できなくなっている』と見られる。
見えないけど、あるんだよ。
だからあの蛇が大暴れすると、本物が偽物と同じ末路を辿る」
「そん、な」
特に、事件再現に則るなら、そういう強制力に近いものがあると見るべきだ。
今あいつを倒し、あるいはせめて本物をこの辺りから遠ざけないと、まずいことになる。
だが、本物の方は、どこを見渡しても影も形もない。接触は難しいのだろうな。
たぶん、ジュノーの本物に乗ったことがあるだろう、エイミーとマリエッタがいるからだ。
一方で、あっちの偽物はエイミーらがいないと、見つからなかった可能性がある。
探しても見つからなかった、という話だからね。
強く縁のある人がいたから、活性化・顕在化したんだろう。
エイミーを連れてこなければ、本物はいずれ、食料が尽きて滅んでいた。
乗ってる人たち、丸ごと役から外れてるだろうから。
彼らが飢えて連邦内に繰り出せば、それはそれで大変なことになっただろう。
一方で、エイミーを連れて来たことで、事件再現が活性化し、危機的状況になっている。
……嫌らしい絵を描くな。
思わずため息が出る。
こういう煮詰まった時は、一人で考えてもダメだ。
頼りになる相棒と、相談だな。
次の投稿に続きます。




