16-2.同。~滅び、朽ちた聖域~
~~~~面倒事も噛んでるが、しょうがない。友をジュノーまで送り届ける。それがボクの責任だ。
「おさな……いやそんなんじゃないわよ。
確かに、初めてあったのは結構ちっさい頃だけど」
「どちらかというと、学友であることの方が大きいですね」
三人、同い年らしい。今年から高等部に通ってるとのこと。
それで、今の時期……6の月は夏季休暇で、学園はがっつりお休みだ。
5の月初頭から休みが始まり、6の月いっぱいは講義がない。
別に寮も学園も開いてて、設備も使えるんだけどね。
だいたいの子は、寮や国元に帰る。
「ああ、学園初等部か。
え、マリエッタとソラン様は魔術科でしょ?」
ソラン王子とマリエッタは連邦の王族なんだから、魔術科だろうに。
エイミーは魔力がないから、よくて魔道具科、普通なら経営戦略科で魔道具専攻だ。
そして、科が違うとほとんど会わない。
同じ講義はとれるんだけど、科ごとに時間が違うんだよね。
例外もあるけど。
科をまたいだ合同授業があったり。
成績次第では、他科の時間にやってる講義を受けられる。
「違いますよ。三人とも魔道具科です」
「なんでや」
エイミーはぎり分かるけど。
いや、分かるけどよく入れたな?実技どうした??
一応、座学が普通にできてれば、入れるのは入れるが。
「魔術なら国元で学べますし。
それよりは、神器や魔道具を学んだほうがか……ん”ん”。
国のためになりますので」
「お金は大事だから、別にそこ言い淀まんでも。
ところでマリエッタ。この船は水陸両用でね」
「そうそう、すごいの!全然揺れなかったのよ!」
「ハイディ、その話。詳しく」
良い食いつき方だ。
第五世代聖域の海洋聖域カッシーニには、揺れ防止機構はついてない。
だから移動の時は大変だそうだ。停泊時は大丈夫らしいけど。
デクレス国のファン家としては、そのあたりに知見をもっていると、大層いい商売ができるだろうな。
「……目標のものではないですが、ある種の目印が見えますね」
はい?
「なぁにマリエッタ……あれ、またあの根だわ」
「ええ、クストの根です」
おおう、ほんとだ。最近よく見るような?
というか、でかくなってるのは場所の関係か?
いや、前よりここ距離的には遠いはずでは??
本当にでかくなっているとすれば、なぜ……。
エイミーのこの間の説明の通りだと、するならば。
地中に潜り、徐々に小さくなる性質のはず。
それが大きく……あるいは、地中から追い出されている?
過去に遡るのを、妨害されているということか?
何に?
「連邦ではよく見るものなの?」
「王国からだと……ああ、山がありましたか。見えないのですね。
連邦は砂漠の先にあれがあるので、目に留まるのです。
それでも、見えないときが多いですが、最近はよく見えますし、その」
「でかい、と」
「ええ。不吉ですね」
少し振り向くと、マリエッタが眉根を寄せているのが目に入った。
「そういうもの?」
「はい。
デクレスでは、赤子を生贄に捧げることで望みをかなえる魔性だ、と伝わっているのです」
何だそのえぐいのは。
というか、デクレスでは、ということは。
「連邦でも他の国では違うんだ?」
「いえ、根幹は同じですね。
地方により、双子でなくてはならないとか。
胎の中にあるうちでなくてはダメとか……あ」
呪いにはそういう話は付き物ではある。
ただ、割とアレな方だな。クストの根。
「ああ、ボクは平気だから。ストックも血生臭いのは大丈夫。
エイミーは?」
「想像しちゃった……」
「すみません、エイミー」
マリエッタが静かに、エイミーの背中をさすっているようだ。
「……ご歓談のところ悪いが、ハイディ。見えて来たぞ。
少々不味いものが。西北西だ」
お。今度は目標物か?
ストックが向いている方に、視線を合わせる。
…………これは。
「ハイディ!」
エイミーが声を上げる。
手を挙げ、逸る様子の彼女を制する。
「もう少し近づけてから、ビリオンを出そう。
二人とも、落ち着いてね」
後ろで、エイミーとマリエッタが頷いている。
ボクらの目には……倒れた巨大な逆三角錐が映っている。
なかなか、刺激的な光景だ。
◇ ◇ ◇
サンライトビリオンで四人、近づいた。
聖域が見事に横倒しになっている。
付近には……何もなさそうだ。
間近にクルマを止めた。
エイミー、続いてマリエッタが降りる。
ボクとストックも続いた。
念のため、クルマは起動したままにしとこう。
「ソランさまああああああああああ!!!!」
エイミーが叫ぶが、反応はない。
声が木霊する。
というかそもそも……こちらから、三角錐の底面は見えている、けど。
人がいるようには、見えない。
外壁も建物も、どれもこれも廃墟だ。
命の気配が、しない。
砂地を歩き、下部構造に近づく。
…………これは。
「エイミー、そっち行っちゃダメ。マリエッタも」
街の方に行こうとしていた二人を止める。
「どうして!?誰かいないか、さがさ」
「いないよ。いるわけがない。ストック」
そばに寄ってきたストックが、外装魔石を見て険しい顔をする。
「…………二人とも。これはジュノーだが、ジュノーではない」
次の投稿に続きます。




