16.ミマス北、元魔境の砂漠。邂逅。
――――あれ?ちょっと。ボク、お昼食べ損ねたんだが??戦ってる場合じゃ、なくない?
港での戦闘後。
いろいろあって、ミマスを出て、エルピスに乗ってしばらく。
川沿いではなく、荒野のど真ん中を北上する。
一応、操舵室のシートに降りてるけど、ハンドルやアクセルは触ってない。
接触での航行制御だけ。今んとこ、見るべきものもないし、ここは魔物も出ないしね。
「……ハイディ。目印なんもないけど、大丈夫なの?これ」
後ろからエイミーが声をかけてきた。
助手席にストック、彼女の真後ろにマリエッタ、そしてボクの後ろがエイミーだ。
……別に、君らは客室にいてもええんやけどねぇ。
「前の時間、この辺は走ったことがある。
現在地も方角もわかってるから、大丈夫だよ。
ある程度いったら、しらみつぶしに探すことになるけど。
まぁジュノーの航行スケジュールは把握してるし、だいたいの場所はわかる」
「失礼ながら、なぜハイディは他国の聖域の航行予定を知ってるのですか?」
マリエッタだ。
彼女、単車乗ってるときとだいぶ口調とかが違う。
大人しくて丁寧な人になってる。
「魔境航行折衝の関係上、すべての聖域・中型神器船の航行予定は公開されています。
その予定はエングレイブ王国の魔導学園に集約されていて。
予定外航行をする・した場合は提出が義務付けられているんです。
そうしないと、学園への転送配置を打ち切られるので。
うちがイアベトゥスで作った神器船パンドラも、試験のためにその登録をしています。
だから、制作従事者のボクやストックは、学園で見せてもらえるんですよ。
各船のそれを把握した上で、折衝し、予定を提出しなければならないので」
「学園に転送路の申請をし、全神器船の予定航路をもらう。
そこから自船の予定を算出し、必要な航行折衝を行う。
取りまとめた予定を学園に提出すると、予定期間中は転送路が使えるようになる。
そういう段取りになっているんだよ、マリエッタ」
なお、基本一年単位で出すが、来年の折衝はもう始まっている。
すでに決まっている中に割り込むよりさらに複雑で、自船航行予定を出しつつ調整を行う形だ。
もちろん、だいたいの船は例年通りの航行になるんだけどね。
何を思ったのか、クレッセントは不定航行を行っていたので、ここが大変だった。
ボクやビオラ様は航路に口は出すものの、予定自体は神主を始め、幾人かの役員が決めていたんだよね。
割り込みの航路や、予定変更をしょっちゅう出してきていた。
突っぱねつつ、折衝を重ねていたものだ。懐かしい。
今のところ、パンドラは王国周辺の魔境を流す予定なので、あまりこの折衝は大変じゃない。
「なるほど。
ジュノーの予定航路には、まだかかりそうですか?」
「かなり飛ばしてるから、あと30分くらいだね。
その間休んでてもいいよ?」
「いえ。私にしても、エイミー様にしても、その。
気になりますので」
「そか」
あの後の経緯は、いろいろと説明しづらいものがある。
後始末についてはお任せ出来て、その点はよかったのだが。
それよりも、喫緊の話が出てきたのだ。
曰く、聖域ジュノーと連絡がとれない。
いるはずの場所にいっても、何もなかったそうで。
いくら探しても、何も見つからなかったとのこと。
衛兵さんたちがエイミーを捕まえようとしたのは。
急に来た皇女がそのジュノーに行こうとしたから、だそうな。
ジュノーが消えたことに、帝国が何か関係しているのではないか、と。
その情報収集の一環だったらしい。
ジュノーの領主はソラン・アーサー王子で、あの聖域はミクレス王国のものだ。
だが建造にハーシェル家が関わってるそうで、縁が深いのだとか。
ゆえ、ミマス公が調査に乗り出しているらしい。
結論から言うと。
エイミーをマリエッタの監視付きで連れて行き、ボクらがジュノーを捜索することになった。
これはボクが、連中がエイミーを浚おうとしたのが。
「彼女をジュノーに行かせたくなかったからではないか」と進言したのが大きい。
取り調べで、この点に裏がとれたのだ。
彼らを金で雇ったやつらからの要求が。
エイミーをジュノーに行かせず、イスターンに連れて行くこと、だったそうな。
ミマス公側がエイミーを連れてジュノー捜索、と相成りそうだったが。
いくつかの点からボクらにお鉢が回った。
まず、高速で移動できるエルピスの存在。
ヒーターゲーターという、魔導でも退治できない魔物をボクらが撃退した点。
デクレス王女マリエッタがいたこと。
この辺りに、イスターンの国家で唯一新型神器船に絡めなかった、デクレス王国の思惑が絡み。
ハーシェル家としても、それを言い出されると無視できない話で。
第四世代でそろそろ代替えの時期のジュノーの次に、新技術の聖域はどうですか?と勧められたことで決着がついた。
まぁボクは最初の進言をしただけで、あとはスノーとビオラ様の相談にのったくらいだ。
交渉をまとめてくれた、妹と上司に感謝を。
で、ある種の人質として、ビオラ様、スノー、エリアル様はミマスに残ってる。
「そういや結局、ソラン王子とは君ら三人で幼馴染、みたいなもんか」
一応、舟に乗ってからマリエッタにいろいろ話を聞いた。
彼らの関係とかね。
エイミーの「用事」は教えてくれなかったけど。
次の投稿に続きます。
#本話は計6回(12000字↑)の投稿です。




