15-2.同。~今、閃光は星になる~
~~~~今まで培ってきたものが――――ボクの中で、一つになる。
足を止め、息をする。
肩にかかった髪を払う。
ボクの魔素がさらに散らばり、高まり、溢れ、広場に満ちる。
魔力でもない、魔力流でもない。
……魔導でもない、不思議な力の兆しを感じる。
「『星 空 よ』」
まるで詠唱のようなそれは、自然と口から流れ出た。
遠く天に謳い上げるように、響き渡る。
魔素と魔素の間が結ばれ、彩られ、藤蔓のようになった。
無数のそれが、襲撃者たちを囲い尽くす。
左足を大きく回すように後方に引き、深く前傾する。
両手を軽く、広がる裾に添えて。
さぁ――――我が、知と武と礼の限りを、御覧に入れよう。
前を向き。
地を蹴った。
魔の粒子が、技となる。
一つの武の、極みに至る。
「『紫藤に 輝け 』!!」
信じられないような速度に達する。
ボクはきっと、ストックやエリアル様の視界からすら、消えただろう。
だが制御が失われない。定められた動きに沿って、体が動く。
走り、跳び、人を、魔導を、打つ。
広場を抜けて、振り返る。
ボクの視線の、その先で。
閃光が煌めき、藤蔓の棚が、歪な星座となる。
無数の紫の残光が、賊を一人残らず、その全身余さず貫いた。
魔導防御を展開してるやつもいたが、全員、音もなく倒れた。
三年前のドーンのときより、速やかに片づけられたな。
あの時は自分の体と思考は十分加速できたが、点き回しの補助がなく、魔導を破れなかった。
だが今、ボクの持てるすべてが花開いた。
呪法による雷速。
脳の魔素制御による高速思考。
大気中の魔素から魔を感じつつ自己を操る、自在軌道。
これぞまさしく、我が紫電の至り。
魔素が戻ってきた。瞳が暗い赤になる。
……あれ?使う前より増えてる??
あれか、倒すときに多少相手の魔素を飛ばしてるから、その分かな?
あるいは、自然収集ではなく、使った後に自力である程度戻せたから、そのせいかもしれんが。
熟達すると、できることが増えそうだな。
……なんかちょっと遠くで、エイミーがキャー言うとる。
ま、声援には応えられたかね。
「姉上ェ……」
妹はなんでそんなにげっそりしてるん?
ええやん、全部片付いたし。
お?なんかふらつく。
頭、いたい。
気づくと、ストックに支えられていた。
「ハイディ、大丈夫か?」
「ん。この技、からだのふたんおおきい。
魔素は戻ってくるけど、連発できない」
ぐらぐらして、落ち着かない。
酔ってる感じ?
あとなんか、妙に暑いなぁ。
「スノー。敵戦力はこれで瓦解。エイミーも奪還。
あとは任せても……」
……いや、暑すぎる。
体温じゃない。周りが暑い。
湿度も、急に高くなった。
「ん?いいけど、どうしたの姉上」
「なんかさ。湿度高くない?暑い」
「水辺だからでしょ??」
そうじゃない。これは――
勘が、働く。
エリアル様が、港側に回っているのが見える。
「ストック、エリアル様のフォロー!
スノー、雷光!倒れてるやつらを陸に投げ飛ばすぞ!
マリエッタ!少し離れてて!!」
まだきついが、袖を咥えて再び紫電雷獣を起動する。
動き出すと同時、後ろ……港の方から、水しぶきが上がった。
たぶん、船がいくつか、巻き添えで破壊されてる。
水の向こうに……僅かにワニのような巨体が見える。
その奇妙な手足、それにこの温度。間違いない。
「なぁ!?」
「ヒーターゲーターだ!」
くそっ。シャドウでは戦わなくて済んだと思ったのに!
こんなところに出やがった!!
全員に聞こえるよう、声を張り上げる。
「流れが効かない!
弱点の目がない!
魔導が効かない!
数十体現れる!以上、状況開始!!」
「滅茶苦茶でしょ!!??」
文句を言いながら、スノーが再び動き出した。
ボクらが倒したやつらを引っ掴んで、堤防の向こうまで素早く運んで投げ込んでいる。
ボクも二人ほと引っ掴んで、投げ込みにいった。
僅かに後ろを振り返ると、二体、三体と巨大なワニが水から出てきている。
ワニだが……手足が人間みたいな、四つ足の獣なんだよね。
そして頭部には目がない。どうやってあれで、周りを知ってるんだろうか。
こいつらはヒーターゲーター。シャドウの街で出た奴らだ。
あっちでは倒されていたけど、一級の警戒をされる非常に危険な魔物である。
流れが効かず、神器も通用しない。水を越えて人里にやってくる。
しかも魔導に対して非常に高い耐性を持っていて、さらに数十体まとまって行動する。
水路から突然現れ、街を壊滅に追いやったりするのだ。
ただ、スローポークほど頻出はしない。
百年くらいに一度、出現の記録がある。
シャドウもこちらもおそらく……過去の再現だろう。
皮膚が固く、また高い熱を保っている。
浸かっているだけで、水が沸騰しかかるくらいの温度なのだ。
本来、素手で相手する魔物ではない。
ストックは拳が赤熱しており、呪法を使っているのがわかる。彼女は大丈夫だろう。
彼女の赤い拳が当たると、一体が倒れ伏せ、そしてぐずぐずに崩れ始めた。
あそっか。
「こいつら、魔導でない熱に弱い!
ストック、がんばって!」
すでに限界近い温度に達しているらしく、さらに熱せられると体組織が瓦解するんだったかな。
だから、普通の火矢を浴びせて倒すと、物の本で読んだ覚えがある。
魔導は効かないからね。
エリアル様の斬撃も、効いているようだ。
二体、三体となますになる。
そして三体、四体と水の中から追加が出てくる。
……多いな。水の中にどんだけいるのやら。
次の投稿に続きます。




