14-5.同。~単車に乗って、王女が来る~
~~~~やりやがったな?加減はしない。エイミーは――返してもらう。
「なっ!?チッ、追っ手か!」
声とともに……バキッという何かを割ったような音がした。
む、ひょっとして通報の魔道具か?仲間でも呼んだのだろうか。
さらに5人を点いて倒す。
あと3人。
エイミーを抱えているやつが、入り口すぐのところにいる。
その手前に喋ってるやつと、もう一人。
ちょっと奥に待機しすぎたな。
魔導師の存在を警戒して、倒す方に意識を割き過ぎたか。
残りの者たちは、この期に及んで詠唱の気配すらない。
ナイフくらいは出しているが、それが何の役に立つというんだね。
警戒態勢を解き、悠然と歩み寄る。
「ガキ!?お、おい。こいつがどうなっても……」
いいとは言わんが、それはどうなのさ。
「お仲間、来ないね?」
「はっ!?そっちにも仲間がいやがったのか!!」
隙あり。動揺したところを狙って接近を――
しようとしたところで、横合いから何かが壁を突き破って飛び込んできた。
「おごっ」「がっ」
手前のやつら二人が、倒された。
ストックかと思ったけど、違う?
通り過ぎてったのは……あれ?青い魔力流?
まさか、神器単車か!?
真っ青な薄い魔石にまたがった、エリアル様のような装いの女性。
ドレスが黒いだけで、お仕着せではなさそうだが……。
髪は長く、橙に近い感じ。瞳ははっきりと赤。
華奢な体型で格好も地味なのに、不思議と華やかな印象を受ける。
その人と石材が、青い光の流れに覆われている。
石材はあまり大きくはない。
薄く、地球とやらにおける単車じみたものではなく。
本体には車輪もハンドルもついてない。
ハンドルは魔導、車輪は緑の魔力流が象っている。
単車は内部寄りのところが、制御結晶由来のフレームカラーになるんだよね。
あの車輪の魔力流、確か結構な圧があって、神器車より走行感があるんだとか。
サスペンションはかなり効いているが、浮いてる感じはないんだと。
まぁ……人を撥ねるのに使う単車乗りは、そうそういないとは思うが。
「がはっ」
お、三人目が後ろからのされた。
倒れた向こうには、ストックがいる。
ふふ……やっぱり君は来てくれたね。
ボクの主人公。
「外の連中は、そちらの方と倒した。無事か、ハイディ」
「うん、ボクは大丈夫」
「そんなことよりエイミー様はどこです!」
女性がヒステリックに叫び、血走った目で倉庫を見渡してる。
「エイミーなら、今ストックが倒したやつが……あれ?」
いな、い?
さっきまで抱えられていたのに??
「ハイディ。こいつ……モザイク兵だ」
なんですと!?
ほんとだ、顔が変だ。認識できない。
暗くてわかんなかったや。今は入り口からさす光で、判別できるけど。
先に倒したやつらを見ると、普通の人の顔に戻ってる。
さっき広場で見た奴らは、こうじゃなかった。
あっちは普通の人さらい。こっちは事件再現??
両方にエイミーが……いや、こっちはラスト皇女誘拐の再現なだけ、なのか。
抱えられていた女の人はぐったりして動いてなかったし、そういう状態なら代役不要なのか?
よくわかんねぇな。
「かつてあった皇女誘拐事件の再現を、足止めに使ったってことか?
そこまでしてエイミーを……」
待てよ。
帝国の刺客なら、そもそも殺して終わりだろう。
あの場にそんな痕跡はなかった。けど、あそこでやらない意味もない。
だがやってることはあまりに過剰だ。
ただの人さらいじゃなくて、ラスト皇女、あるいはエイミー個人を連れ去る目的だと見える。
しかし行き先が聖域なら転送路を使えばいいが、それもしていない。
事件再現なら、事件当時の年代によっては聖域転送はしないだろう。
だが、現代に生きる人間の人さらいなら、その選択が出てくるはずだ。
もちろん、足止めの裏でそうされている可能性はあるが……違う、と勘が働く。
相手は帝国じゃない。
事件再現を用いている。
聖域が行き先ではない。
となると。
「やはり河を上って、イスターンに連れて行く気か」
「はぁ?なんで首都になんか……」
黒装の女性に向き直る。
「ジュノーに行かせたくない。
イスターンに行かせる用事がある。
両方でしょう。
目的は、黒幕を探し出さないとわからないでしょうが。
さすがにもうこの街にはいないでしょうね」
肩を竦める。
「それより、河から出る前にエイミーを取り返しましょう。
連中は魔導を使っていなかった。
まだ港に辿り着いていないはずです」
「…………そう。
あなたたち、エイミー様の何なの?」
そっちこそ何なの?とは思うが。
彼女の「魂の名」を知ってるのだから、味方だろう。
そういや、スリに遭う前に合流がどうとか言ってたような?
なら、こういう自己紹介がいいかな。
「友達。ボクはハイディ、こっちはストック。
ともに神器の研究者で――新型神器船、エルピスの製作者です。
あと、彼女がうちの研究所に就職希望なので、未来の同僚ですね」
「ああ、サレス王女肝入りの。そう、わかったわ」
彼女が計器陣から何か魔導を起動し……ヘルメットを三つ、取り出した。
二つをこちらに投げてよこす。
一つは彼女が自分で被った。
『後ろ、乗ってくといいわ』
「そりゃありがたい。単車も乗って見たかったんです」
なかなか売ってないし、たっかいんだよね。
セブンドアの神器車、ホーネットタイプより高い。
たぶん、需要がなくて値段が下がらないんだろうな。
魔境を風を切って走りたい変態は、そうはいないということだ。
素直に二人、ヘルメットをかぶり、順に単車の後部に飛び乗ってまたがる。
ボクはその人の腰に掴まって――ストック。
おなかをさわさわするのはやめなさい。
どこ掴んでいいかわかんないみたいなので、ちゃんと腕を回させる。
『しっかり掴まってなさい。私はメリー・ファン。
でもあなたたちがエイミー様の友……味方だというのなら』
ってこの人、メリー王女かよ!?
今デクレスの王位についてる、ファン家当主の娘のはず。
大貴族でも氏族でもないのに、連邦の王位にある稀有な存在だ。
『マリエッタと呼びなさい』
ヘルメットをした王女が、ハンドルを握って回す。
神器単車が気炎を上げる。
「よろしくマリエッタ。……お手柔らかに」
明らかに壁の方向を向いてるので、思わずそう口走った。
ヘルメットで見えないけど、彼女がにやりと笑ったような気がして――
廃倉庫の壁が、猛スピードで突き破られた。
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