14-4.同。~大事な友を追って~
~~~~ひゅー!やるじゃんスノー。そしてさすがエリアル様。
「コニファー……王女殿下」
「ミマス公とは、後ほどお話させていただく予定だ。
我々はミマスに当面滞在するし、何なら滞在先もお教えしよう。
何か問題があるかね?」
「いえ……」
すっかり気圧されちゃってら。
お仕事とはいえ、お疲れ様です。
「そちらの懸念もわかる。悪いようにはしない。
任せてほしい」
「ぐ。ミマス公に連絡を取らせていただきますので、今しばらくお待ちいただければ」
「それで構わない。よろしく頼む」
「は。おい、公邸に連絡を」
何人かが、囲みから外れて街に駆けだしていった。
スノーが寄ってくる。
やるじゃん王太子。
「姉上、遅くなってすまない。
二人とも、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「ボクも……ん?」
何かまた、小さな違和感が。
「スノー、今なんつった?」
二人?
こっちに駆け寄ってきてたエイミーが――いない。
ストックとエリアル様が、弾かれたように辺りを見回し。
衛兵の囲みの――外側に駆ける。
二人が拳を放つと、何者かが現れ……そして倒れた。
まだいるのか!?
「スノー、わずかだが景色がぶれてる!
そこを狙え!」
「はい!」
雷光を迸らせ、二人襲い掛かる。
動き回りながら観察すると、少しだがわかりやすい。
四人、駆け巡りながら、打倒していく。
「なっ、これ、は……」
隊長さんが、言葉を詰まらせている。
倒したのは、どれもこれも大柄な男で……って多いな。15人!?
「検めてください。先の魔道具を持っているはず。
ストック、これで全部?」
エリアル様はもちろん、ストックも隠れてるやつがわかるようだ。
この子、マイクロ波みたいなのを呪法で使えるから、そのせいだろうか。
「ぜんぶ、だ……」
あ。
思わず、辺りを見渡す。
エイミー、どこだ!?
エイミー!!
くそっ、見当たらない!
人が多くて、探しにくい!!
その時。
慌てるボクの肩に。
そっと手が置かれた。
「緊急時ゆえ、お話はわたくし、ビオラ・ロイドが伺います。
勝手ながら、皇女の捜索をさせていただきますね」
「え、それはしかし……」
「我々の客人ですので。お任せを」
ビオラ様、いつの間に。
見上げると。
ボクの上司が――不敵に笑っていた。
つられて口角が上がる。頭がすっと冷えた。
……しっかりしろ、ハイディ。
脳の魔素を、活性させる。
この街の地図を、思い描く。
海側に出ればこの国からすぐ抜け出せるが、あちらには聖域もある。
手配を回された場合、魔導船だと逃げきれない。
連邦は国や領地で行政区分がかなりはっきり分かれる。
そのため、その境を越えられると追跡がしにくいと聞いた覚えがある。
その点を踏まえるなら、河を上って国内を移動し、そのまま北に抜けるのが容易だろう。
帝国に戻るかどうかは確定ではないが、彼女が一度刺客に遭っている以上、そこをまず考えるべきだ。
よし。
「姉上」
スノーが……ボクを見ている。
というか、この子が指示を出してもええんやけどな?
だが。君が期待するというなら。
応えて見せるのが、お姉ちゃんというものだろう。
「スノー、海側を頼む。見つからなかったら河に来て」
「わかったわ」
「エリアル様、スノーのフォローを主に。仔細はお任せします」
「ええ」
拳を握り締める、彼女を見る。
「ストック」
「任せろ」
頷き合う。
「ボクは河に向かう。本命はそこだ。追い詰めるぞ」
雷光を、迸らせた。
「散開!」
四人、それぞれの方向に走り出す。
喧嘩を売るくらいなら、別に怒りゃしない。
だがボクは、人さらいには容赦しない。
覚悟しろ。
◇ ◇ ◇
しかし、本気度が高いな。
姿隠しの魔道具を使って、まずスリをけしかける。
これで実行できれば、そのまま浚う気だったのだろう。
失敗したと見るや、おそらくさっさと衛兵を呼んだ。
その混乱に乗じて、十数人の体制で誘拐を敢行。
そこまでしてエイミーを浚いたかったのか?
第二皇女派閥は解体済みとのことだから、ちょっとその絡みとは思えないな……。
しかも、エイミーの事情自体には、相手はかなり詳しいと見える。
そうでなければ、ミマスで待ち受けるなんてできないだろう。
北部寄りから連邦に入られたら、ここは通らない。
彼女が南寄りにいるはずの聖域ジュノーに行こうとしているのを、知ってるということだ。
この念の入れようからして、同行者がいること、およびその戦力にも見立てがついている。
その上で計画的に、待ち伏せして誘拐に及んだ。
目的と敵集団の背景が、見えないな……。
考え事をしてると、暗い中に光が差した。
錆びた鉄が軋む響きがし……また暗闇が戻る。
「よし、確保できたな。このまま河に向かうぞ」
闇に慣れた目で確認。
ん。顔は見えないが、連れてこられたのは、エイミーで間違いなさそうだ。
先回りできたのは、僥倖だった。
ボクは突っ張っていた手足を緩め――床に静かに降りた。
紫の小さな光が、闇に煌めく。
音もなく、5人ほどが倒れた。
ここは河川港にほど近い、廃倉庫。
中は大物を過去に積んでいたのか、かなり広くて天井が高い。
今はほとんど何もないが。
中に入っていく怪しい二人組を見たときに勘が働いて、倉庫に侵入して天井に張り付いた。
会話がそれらしかったので待ち構えていると、案の定というわけだ。
次投稿をもって、本話は完了です。




