14-3.同。~賊は隠れて寄り、しかし現れる~
~~~~あの重ね着いいなぁ。ひらひらしててかわいい。
「あ、そうそうハイディ。私、ここで合流したい子が……」
振り返ったエイミーの懐に、その何かが近づいて――
ボクの視線の先を見たストックが、猛然と駆け寄って蹴りを放った。
「グッ」
何かくぐもった声と、重量のある何かが飛んで……それが徐々に、少年の姿を象る。
その手に持ってるのはたぶん、エイミーに渡した銀貨袋だ。
袖口を口に含み、一息。雷光を発し、駆ける。
空中にいるその子の腕を、つかんで引き倒す。
腕をねじりあげ、地面にうつ伏せに押し付けた。
片手で背中、腰を点いて身動きを封じる。
この状態でまだ銀貨袋掴んだままとは、気合いが入ったスリだな?
「ストック、エイミーは?」
「無事だ」
「は、え?」
よかった。スリじゃなくて、刃を持った相手だったら、危なかった。
「離せ、このクソガキ!!」
「ほほう。活きの良いスリじゃないか」
「これは俺のだ!!」
「あほか。名前も縫い込んであるし、認証魔道具付きだ」
「は?」
全員分、そういう処置をした袋でお金を渡してある。
貴様、ボクがどんだけその手ので苦労したと思ってる。
旅暮らしの時はもちろん、クレッセントですら紛失盗難はあったんだからな?
貴重品については、当然対策をしている。
「何の騒ぎだ!」
おや?衛兵さんらだ。
中寄りの衛兵は、服や装飾が揃いのもので、街によって色合いが違う。
ミマスは赤か。軽装だから、ぱっと見で兵士って感じじゃないんだけどね。
人通りの多いところでのことだったからかな。
来るのが早ぇや。
しかもぞろぞろと……あれ、十人近くいる。
見回りにしちゃ多くない?
まぁいいや。
「スリです。しかも」
両肩を点いて、それから懐を検める。
ボクの手より大きい、八角形の銅板のようなものが出てきた。
「ご禁制の魔道具持ち」
「ああー!認識阻害のスルケウス!
しかも八角だから所持即逮捕の光学阻害!!」
さすがエイミー。
詳しいのがいると解説が要らなくて楽だわ。
帝国製で、他所の国を含めて持ってるだけでアウトの魔道具である。
悪用万歳でその防止機構がついてない魔道具は、取り締まられているのだ。
「ふむ……間違いなさそうだな。
おい、連れてけ。
ご協力感謝いたします」
取り押さえていた奴を引き渡す。
くそっとか言うとるけど、それ使ってまで捕まった君が間抜けなんやで。
言っちゃなんだが、普通の人狙っときゃーいいものを。
おや?隊長さんらしき人、なんでエイミーの手をとって……。
「ラスト皇女。あなたにもご足労願います」
は?
ボクの背に……ストックが背中を預けて来た。
「ハイディ。囲まれてる」
え?
あ、ほんとだ。衛兵さんがた、ぐるっとこちらを遠巻きに囲んでら。
しかもなんか、皆さん魔導を構えていませんかね?
魔力光漏れてますよ??
「お嬢様方は、おとなしくなさってください。
皇女の護衛だというなら……ご一緒に来ていただきますが」
ああ、そういう警戒のされかたなのね。
幼児の護衛もなかろうとは思うが。
立った今、見えないスリを捕まえたばっかりだしな。
「はいでぃ……」
エイミーがふるふるしてる。
身分を隠して入国したのが裏目に出たかねぇ……。
さすがに、この人らをのしちゃうわけにはいかんし。
どーしよ。
思わず、天を見上げて。
……肩の力が抜けた。
「大丈夫だよ、二人とも。
何せ今日は、天気がいい」
見上げるボクの目の端。
家屋の屋根。
なぜそこにいるのかはわからないけど。
「ほら――エリアル様がやってきた」
「「は?」」
屋根から飛び上がった黒いそれが、一瞬、広場に大きく影を作った。
お仕着せのその人が中空で回りながら、手足を振るう。
衛兵たちの構えていた魔力光が、片っ端から消えた。
へぇ~……それも切れちゃうんだぁ。すごーい。
侍従が石畳に降り立ち、そうしてすかさず、彼女がいたほうの屋根に向かって礼をとる。
そこに雷光が現れた。
雲と雷が来たようなものだから、むしろ天気は悪い方じゃったな。
「コニファー・エングレイブだ。
そちらは我が国が、新型神器船開発に当たってお招きし、ご案内している客人だ。
その手をお離し願いたい」
朗々と声が響く。
彼女――スノーは貴族の装い、平服だ。
ちょっと行儀は悪いけど、威厳もあって、しっかりコニファー王女してる。
隊長さんが思わずエイミーを離したのを見て、スノーが飛び降りて来た。
エイミーもささっとこっちにやってくる。
君、やっぱり存外抜け目ないな?そして素早いな??
次の投稿に続きます。




