14.南洋を通り、連邦最南端の街、ミマス。入国。
――――「単車乗りにはヤバイ奴しかいない」。その風評は、残念ながら間違いではないようだ。
あれから数日。
イスターン連邦所属デクレス王国南端の街、ミマス東部の荒野。
…………何の問題もなく、ここまで来れてしまった。
ここのとこまたトラブルが続いたから、ちょっと警戒してたけど、拍子抜けだ。
エルピスに荷を積み込んで、留守番組とお別れし。
ボクら六人を乗せて、舟はドーン南から、海洋へ出た。
河川同様、特に揺れることもなく。魔物に遭うこともなく。
連邦と魔境の境目の山脈を、海からぐるりと回り込み。
砂漠となった元魔境を越えて。
ついでに、遠くに海洋常駐の聖域、カッシーニを見て。
ミマスの近くまでやってきた。
河川出口でもあり、海洋にも接している、大きな港街だ。
エルピスは少々大きいので、ボクらは少し東で上陸し、そのまま陸路をやってきた。
街の外で停泊。街には神器車で入り、入国やら、ジュノー入場の申請やらで、いろいろやることになる。
街を治める貴族の、ハーシェル家の方ともご挨拶することになるかな。所長とスノーが。
今ちょっとストック待ちなので、少し連邦のことをおさらいしておこう。
イスターンは南から、デクレス・ミクレス・インクレスという三つの王国が参加している連邦国家だ。
中央から東が砂漠地帯、大きな河を挟んで、西に三日月状の穀倉地帯が広がっている。
北が草原地帯・帝国・魔境と接してはいるが、それ以外は河と海、山脈に囲まれて、比較的平和な国だ。
攻撃等を中心とした、出力の高い魔術を扱う武力に寄った国家でもある。
ただ、帝国と違って喧嘩するよりゃ商売する方が性に合ってるらしく、そこのとこはエングレイブ王国に似ている。
王国同士の連邦制というので少し特殊な国ではあるが、内部は王と貴族が成している普通……普通?の封建社会だ。
そして砂漠寄りの街と、穀倉地帯寄りの街でかなり文化が違う。
いがみ合うというほどではないが、河を挟んで東西で相容れないというか……。
ミマスのような河のこちら側は「中寄り」。向こう側は「河向う」と呼ばれている。
以前、ダリアに聞いた。
そのダリアはこの連邦の、王族の一角。
三つの国にはそれぞれ王がいて、さらに連邦の象徴たる首長「武王」がいる。
武王を含めた王は、五つの「氏族」の者がなっていることが多いらしい。
今代の武王はダリアのお父さま、アーサー氏族の長、ジック・アーサー様だ。
アーサー氏族はミクレス王国に縁が深いが、そちらの王は氏族の別の方がなっているらしい。
そして王になる氏族たちとは別に、爵位を王からもらって街を治める貴族たちがいる。
ここがややこしいが、氏族でも爵位をもった貴族なことはあるが、有力貴族は氏族ではなかったりする。
有名なのは、ミマスを収めるハーシェル家と、聖域の名にもなってるカッシーニ家だな。
両家とも、複数の街や聖域を治めている。一人が複数の爵位・領地を持っていることもあるそうな。
ストックが舟の点検を終えて、助手席に滑り込んできた。
これで出発できるな。
「出るけど、忘れ物ない?」
「こちらは大丈夫だ」
「私も……うん。へーき」
エイミーはボクの後ろの席だ。
エイミーが乗ってた神器車に、ビオラ様、スノー、エリアル様が乗ってる。
「基本、戻るまでは一緒の行動だから、はぐれないように。
エルピスは離れたら自閉させるようにしてるから、入れなくなっちゃうからね」
誰か残ってたほうがいいのはいいが、分散も得策ではない。
そこで、正式に停泊の申し入れをした上で、監視の人を街に出してもらう方針になった。
舟そのものは動かないようにしてるわけで、いたずらされる心配もない。
魔力光とかを検知して展開する、自動防御陣とかあったら使いたいとこだが。
…………エイミーに聞いたら出てきそうだな。そのうち考えてみようか。
「はーい」
「手続きを済ませて、滞在先を探さないとな。
それから、作法を気にしなくていい麺処を見つけるか」
聖域入場の件もあるから、たぶんここで数日、足止めになるだろうからね。
舟に泊ってもいいんだが、それは情緒がない。
旅行は楽しまなくては。
「えっと。ほんとに私、ミマス公には会わなくていいの?」
手続きはどのみち六人で行うが。
その後、宿を探したりするのはボクらがやる。
偉い人へのご挨拶が、所長たちの担当だ。
集合の場所や、連絡の段取りなどは決めてある。
この辺は、ミマスに来たことのあるエイミーのおかげで、見通しを立てるのが楽だった。
「それがよかろ。というか、王国の王女と、帝国の皇女が一緒に訪問とか。
もうちょっと、相手の胃をいたわってあげたほうがいいって」
王国と帝国はいろいろあって、長く緊張した関係だ。
ビオラ様とフィリップ帝のように、婚姻が結ばれることもないではないが。
顛末がご覧の有様になっているように、あまりうまくいくことはない。
「そういわれるとそうね……。出迎える方が大変だわ」
ビオラ様の運転する神器車が、先に出ていく。
ボクもアクセルを緩く踏み、サンライトビリオンを後に続かせた。
舟の車庫から、外に出る。
後方でシャッターが閉まり……そのままエルピスが、ただの石材になっていく。
完全停泊用の自閉モードだ。中に人がいるなら、魔力流とかはそのままにするんだけどね。
ここまで、魔物にも人にも襲撃されていない。
しばらくはこのまま、穏やかな日々になってほしいなぁ。
遠くに見える外壁に向けて、ハンドルを切る。
まずは入国からだな。
次の投稿に続きます。
#本話は計5回(10000字↑)の投稿です。




