13-5.同。~魔に至り、また間が悪く~
~~~~エイミーは少し聞くたびに何か飛び出てくる。正直、怖くて深堀できない。
「物心ついてすぐ、技を授かって。その後に、船で聖国に来たの。
だから、生まれの国より、聖国いた期間の方が長いわね」
心読まれてーら。
東方のことはあまり伝わってきてないが、それでも年齢一桁で武人の称号を得たと??
「ふふ。私の継いだ『クウカイ』の名は、武の技よりも悟性を重視する。
その心根が合致していれば、至るものなのよ」
「あー……型、のようなものなのですね」
「ええ」
そういうものなのか。
「ボクはそういう至りには遠いから、よくわからないですね」
「ハイディは自覚がないだけよ?」
「はい???」
「そこも必要なことだから、よく向き合いなさい」
「はい、わかりました」
今の仰り様だと。
ボクはすでに何かの極みを得ていて、それを当たり前だと思ってるのか?
…………ああ。
「『魔物と強く引き合う』」
「さすがね。元々、きわめて近かったのではないかしら」
三年前。時間を戻ってすぐ、コンクパールで聞いた話だ。
そして人間とは、ビオラ様の論文曰く『より完全に近い魔物』。
ボクは魔物としての人間――「魔素を生み出す魔物」の性質を、色濃く引き出している。
ストックやビオラ様が思うようにできないと言っていたから、変だと思っていたけど。
そうか。それがボクの武か。
「ある意味あなたは、武術の根源に近いところにいるわね」
「武術が魔素を取り扱う技術だから、ですか?」
「そうよ。それがすべてではないけれど」
魔素ってのは普通、直接扱えるものではない。
武術はそれを、感覚的に使用できるようにする鍛錬と技だ。
しかし言われて見れば、脳を鍛える技なんて、ない。
もちろん、大気中の魔素で自己を操るなんて、以ての外だ。
そもそも理屈に合わない。
ボクはそれを当たり前のようにできるし。
それがボクの固有の技であるなら。
なおのこと……その技と、そして魔素そのものと、向き合わねばなるまいな。
「ありがとうございます。よい知見を得られました」
「よかったわ。あとついでにこれも」
「何から何まで、助かります」
手早い。これで消耗品のチェックは済んだな。助かった。
「本来なら、私やフィリアルのような、下働きの仕事よ。
できれば、任せてほしいわね」
「わかりました。では、航行中はいろいろとお願いするとします」
エリアル様が、穏やかにほほ笑んでおられる。
せっかくだし、今後は頼らせていただくとしよう。
おっ。それなら。
「ああそうだ。早速ですが、エイミーを鍛えてあげてくれませんか?」
「えええええええ!!??」
「旅の後、パンドラで雇うつもりなのですが。
魔境航行船なので、一定の危険があります。
ただこの方、魔力がないので」
「なるほど。それは身を守るなら、まず武術からですね」
ほんとは神器もあるけど、それは置いとく。
あれを扱うにしても、まず基礎は要る。
「え、え!?私、武術なんて無理寄りの無理よ!!」
「正真正銘、五歳児のボクでもできたんですから、大丈夫大丈夫」
「それは単に、ハイディは五歳児からハイディだった、ってだけじゃないの??」
どういう意味だね皇女。
「まぁまぁ。刺客から逃げきれるくらいだから、走ったりはできるんでしょ?
武は走ることに始まるし、それができるなら何とかなるって」
「ほんとぉ……?」
「本当ですよ。エイミー様。
それで自らの命をつないだなら、十分才がおありです」
そこまで言うなら……とか小さく言ってる。
一応、やる気はあるみたいだ。よしよし。
作ったジョッキの中身を飲み干し、洗う。
軽く拭いてっと。
「ではお任せします。
ボクはストック手伝って、積み込みに入るので」
「ええ、任されました」
エリアル様は結構スパルタだったが。
まぁ大丈夫やろ。結構根性あるクチだしな、エイミー。
◇ ◇ ◇
ストックを見つけて、少し相談して。
上層、下層をぐるりと回って。
中層の制御室にまで戻って来た。
「ストック。上と下は終わったよ」
「ありがとう。中層の二回目は終わったから、これでいいな」
よし。これで全体の点検は完了。
初航海だったから、念のためチェックはしっかりしたけど、大丈夫そうだな。
「ああそうだ。こういう、チェックを自動化する魔導が欲しいんだよ。
エイミーに相談するの、忘れちゃった。今度言っとかないと」
「ん……それがあれば、目視一回、魔導で一回でいいだろうな」
「うん。消耗品のチェックもしやすいしね」
少し、沈黙が落ちる。
なんかストックが俯いて……んん?これは、さては。
「ハイディ。ドーンに来る前は、邪魔が入ったが――――」
「あ、こんなとこにいたのね。姉上」
…………ストックが固まった。
「スノー?ビオラ様はどうしたの?」
「撃沈したから、上で寝かせてる」
何をしやがったし。
ストックはというと、出しかけたものを懐にしまい込んでいる。
あのねストック。
なぜ昨晩、二人きりのうちにやらなかったのだね。
人いるのわかってるんだから、そりゃこうなるさ。
まぁちょっと気の毒だし、後で慰めてあげようかな。
「わかってるだろうけど、手ぇ出したら罰せられるからな?
ビオラ様が」
「わかってるし、我慢するわよ」
王国民は、殺すな、犯すな、呪うなの三警句を破ると、厳しく罰せられる。
具体的には精霊ウィスプがすっ飛んできて……まず助からない。
ウィスプと王家精霊じゃ管轄が違うし、スノーやビオラ様でも例外ではないだろうな。
そして二人の場合、罰を受けるのは成人しているビオラ様の方。
それはそれとして。
なにしに来たし、妹よ。
「スノーはどしたのさ。ビオラ様沈めたから、暇になったの?」
「違うとは言わないけど、ストックに用があったのよ。
姉上がさっき話してたから、ちょっと気になって」
ほほーう?
次投稿をもって、本話は完了です。




