13-4.同。~東方生まれのメイド、そして武人~
~~~~ふふ。やはりカクテルとは、ああでなくては。素敵だ。
こう、ぐびーっと辛いのを飲みたい気分になって、そのまま中層のキッチンまで歩いてきた。
例の、ロイドにあるようなダイニングキッチンだ。あそこよりゃだいぶ狭いがね。
そしてそこに、さっきいなくなってたエリアル様と……あれ、エイミーがいる。
何かぐってりしている。
「大丈夫?エイミー」
声をかけつつ、エプロンをつけて手を洗う。
エリアル様がなんかお茶淹れてるから、ボクは自分のエールレッド作るか。
淹れてるのはハーブティーかな?なんかさっぱりした茶菓子をつけるか。
ジョッキ出して~。
棚やら冷蔵庫漁って~。
「だめ。公用車に乗って降りてきたんだけど……」
ん?ギンナがバイロンたちを連れて来たみたいだから、その後一人で来たのかな。
「ああ。揺れるらしいね。ボク乗ったことないから、わかんないんだけど」
「むしろハイディのは何で揺れなかったの……?」
「ギアチェンで方向転換するんだよ。ハンドルじゃなくて。
ギア変えてアクセルすると、魔力流が噴射し直すでしょ?
それで上方ベクトルを得て、安定させる」
「ほほー……そういうテクニックがあるのね。
やってみようかしら」
「また今度ね。君、出港まではクルマ動かせないよ」
「ぐむむ」
「というかなんでガス欠してたの?
君の結晶だと、帝国中央あたりからだとまだ持つはずだよ?」
もちろん、ボクらのそれと容量が同じなら、だが。
「私、東方国境から来たのよ」
「え”」
東方国境とは、帝国の東端だ。
聖域を並べて、帝国東方魔境に対する防壁としているという。
すごい遠い。むしろよく結晶もったな??
「お母さまが、あそこの出身でね。
地元にお返しした、というわけ。
で、葬儀の後で刺客に襲われたから逃げ出して。
逃げる途中で転んだときに、踏みつぶした結晶が入り込んで。
これ神器車運転できるかも!?って思ったから、手持ちのものいろいろを売ってクルマ買って。
あとは服と物資を多少詰め込んで、魔境をひた走ってきたのよ」
思わず聞き入ってしまった。
いやいやまって。情報量が多い。
「刺客て。今は大丈夫なの?それ」
あれか、ドーンに入る前に聞いたやつだな、これ。
「たぶん?帝国国内の争いでこんなとこまで……」
「ドーン前で襲って来た奴らは、元帝国人やぞ。
あり得ないとはちょっと言い切れない」
エイミーがひしっとボクの袖を掴んだ。
目がちょっと潤んでる。
「大丈夫だよ。人間相手だったら、絶対守ってあげるから」
「頼もしい!魔物とかだったら?」
「そんときゃクルマを頼りにしよう」
「めっちゃ追いかけられたけど??」
「また丸焼きにしてやるさ。ストックが」
エイミーが吹いた。
楽しそうにわろてる。
「ありがとう。元気出て来たわ……あ、これおいしい」
「恐れ入ります」
エリアル様は、手早く棚などを確認している。
お手伝いいただいて、とても助かる。
おっとそうだ。
昨日、エリアル様いなかったしな。
晩餐とかでは、裏方に行ってたし。
「エイミー、こちら連邦行きに同行するエリアル様ね。
ファイア大公家の侍従で、ベルのお母さま。
あと、ボクの武の師でもある。
エリアル様、聞いてると思いますが。
エイミーを連邦のジュノーまで連れて行きます」
「初めまして、エイミーよ」
「エリアル・フリーと申します。
ハイディの師を名乗るほど、技は教えていませんが」
「ボク、基礎はビオラ様に教わったけど、あとは我流だったし。
師と呼べるほど技を教わったのは、あなたにだけです。エリアル様」
エリアル様が静かに礼をとる。
動きがいちいち様になる。よく鍛えていらっしゃる。
正直、この方がついてくるのは理由が謎過ぎるが。
まぁ内緒だって言われたし、聞かんどくか。
「エリアルは武術家……なの?」
「はい。エイミー様。東方で技を授かりまして」
「そうなんだ」
んん?東方?この人、聖国の出じゃなかったっけ?
聖国も王国から見れば東方だが、単に「東方」と言った場合はちょっと違う。
帝国東方魔境を越えた先にある、東方文化圏のことを差す。半島じゃないとこだ。
共和国や聖国、帝国東部を指す場合は「東国」って言い方をするかな。
東方は陸路だと非常に遠いので、海洋経由で半島の国とも交流がある。
「エリアル様、聖国じゃなくて……中つ国とか、あっちの出身なんですか?」
「中原ではなく、日出の方ね」
「ああ、確か『さぶらい』って武人の文化がある……」
「ええ。私もその端くれよ」
「はい?エリアル様、いまおいくつ??」
「28よ」
失礼を承知でつい聞いてしまったよ。
さぶらいって、確か達人の称号だぞ。日出にいたのいつだよ。
ベルねぇが12だから……学園初等部を出て、すぐ聖国言って結婚して子を産んだ、と。
で、12から学園に通ってるなら。東方にいたのはいつだ???
次の投稿に続きます。




