13-3.同。~寄り添う昼と夜~
~~~~最近、異性愛者という定義がよくわからない。業の深い女、多すぎでは?
「ずっと聞いてみたかったのだけど」
カクテルを口につけながら、スノーが呟くように言う。
「あなたはその繰り返しの人生を、どのように受け止めていたの?ビオラ。
ミスティに聞いたそれとは、少し印象が違うようだし」
おっと。さっきボクが考えてたことじゃないか。
同じようなこと気にしてるとは思わんかったぞ、妹。
…………あれ?
「ずっと」ってことはスノー、もしかして前の時間の時に所長の事情自体は聞いてる?
君らボクのいないとこで、結構情報交換してたんやな。
「ひどいもんだったわよ?後ろには絶望しかない。
夫には毎回振られ、娘は毎回痛い思いして産むのに、すぐ会えなくなる」
代わりのジョッキを頼み、またぐびぐび飲んでいる。
「前には希望しかないような言い方だね?所長」
「ええ、その通りよ」
お。なんか真っ直ぐにボクを見てる。
「自由になってからは、そりゃあ毎回いろいろやったし。
うまくいかないことも多かったけど、それなりに積み重ねて来たわ。
そして宿願は叶った」
「メリアに会えたこと?」
「ん”。違うとは言わないけど、それじゃないのよ。
私にとっての娘とは、多くの『カレン』だし。
彼女たちが相応、それぞれ人生を送れたなら、それでいいのよ。
メリアに聞いた感じでも、この激動の時代にしては悪くなかったようだし」
「じゃあ何?興味あるわね」
スノーに応えて頷き、ビオラ様が今度は真っ直ぐに前を見た。
「…………大きく言うなら。この繰り返しを。
あるいは、ゲームのもたらす呪いを、止めたかった。
そうしないと、たどり着けないと思っていたから」
たどり着けない?場所か、時間か……なんだろう。
「前の時間で、ようやく手が届いた。
でも……ちょっとはしゃぎ過ぎたのね、私。
油断して、台無しにしてしまった。
次の周回に行くことは、これまでは何とも思わなかったけど。
恥も外聞もなく、あなたの腕で泣くくらいには、悔しくて、怖かった」
今度はスノーの方を、じっと見ている。
この言い方だと、辿り着くというのはつまり、そういうこと?
スノーの方が言ったことだが、「理想が現実になった」か。
精霊の導きはなかったということだから。
逆にある種、因縁めいたものでも、ずっと感じていたのだろうか。
幾度もの繰り返しの中で、巡り合うことができず。
その繰り返しそのものを、打ち破らなければならないと、考えるほどには。
そうして前の時間の時に辿り着き、そう確信し。
そして失った。
ビオラ様が会いたかったのは、コニファー王女ではなく、スノーその人だったと。
「あの時初めて、魂の違いというものを実感して、怯えたわ。
次の時にはもう会えないのだと、それがはっきりわかったから。
後悔、というか。目の前に絶望があったのは、どのくらいぶりだったかしら」
ジョッキの中身を飲み干した。
この人にしては、結構ハイペースで飲んでる方だ。
「ああ、なるほど。あの時はだいぶ錯乱していたし、さては全部覚えてないのね?」
ビオラ様がカウンターに置いた手に、スノーのそれが重なる。
「え、いや、え?なにを?」
「私からした約束は二つ。
一つは、神主を滅すること。
もう一つは、必ずあなたに、会いに行くこと。
私が求めたのは?」
「……約束が、果たされたなら。
今度こそ、ずっとそばに、と」
スノーが万感の思いを込めるように、ひしとビオラ様の手を握っている。
「あなたは私に、辿り着いたのよ、ビオラ。
永い時をかけて。少しずつ進んで。
待っていたわ、私の番。
安心しなさい。これからはきっと何度でも、会いに行くから」
「スノー……」
おっとこれはいかん。
ボクはそっとグラスを置いて、スツールを降りた。
精霊に滅されないうちに、さっさと離れとこ。
エリアル様もいつの間にかいなくて、二人の前に新しいグラスだけ置いてあるし。
僅かに見えたそれは、白と赤の混ざったカクテル。
液体の境目が斜めになっているそれは、ロスペリスの、ライズとセットだろう。
ビオラ様の前のが夕焼けのセット、スノーの前のが朝焼けのライズかな。
こいつも、結構な不思議カクテルだ。
そのまま飲むと酒精が非常に強い。それぞれ特徴的な香りがしてうまいんだが。
ああやって、ペリスワインレッドみたいに、火をつけてアルコールを飛ばすと。
火が消えるころには、それぞれ夜と昼の色になる。
それを恋人たちに出すのは。
奇跡のような出会いを祝すという、ちょっと気障な趣向だ。
次の投稿に続きます。




