12-8.同。~戦う国の王への期待~
~~~~ちなみに逃げたら、紫で追って手を出したところを黒に切り替える。そのくらいはできるのだよ。
「…………やっぱり、前のアレは見切られたわね」
「さすがに二回同じ技は、受けてあげらんない。
あれ自動変化を仕込んであるんだろ?
自分でやってるんならともかく、二度見れば法則性がよくわかる」
コンクパールのとき、ボクを絡めとった技だ。
結節点が変幻自在に蠢き、ボクが点く前に全身を絡めとられた。
見事な技だったが、変化の仕方に癖があった。
それで、魔導自体に不規則的な変化を仕込んだか?と思ったのだけど、当たりだった。
さすがに初見のときは、彼女の速度もあってそんな解析はできなかった。
「何を……したの?姉上」
「んん?ボクの格闘戦は見たことあったろ?君」
「あるわよ。人体の要所をついて、魔素を乱すんでしょ?」
前の時間のとき、一緒に戦闘くらいはしたことがあるんだよね。
人を簡単に制圧したので、驚かれた覚えがある。
「うん。別に人間に限った話じゃないけど」
「呪いの雷光や、魔導に対しても同じことができるの!?」
「まぁね。人体と違って、変化が早いけど。
認識さえちゃんとできれば、打ち込むのは難しくない」
「えぇ~……」
妹に引かれた。
まず、魔素をいったん放棄するので、消耗が大きい。
一応、後である程度は戻ってくるんだけど、連発ができない。
それから、魔素が体にないので、あまり動けない。
向かってくる相手はいいが、逃げられると何もできない。
あと効かない相手が多いんだよなぁ。
魔物は無理。魔素がない。
ミスティやダリアの魔導は制御が巧みで、壊せなかった。
マリーの魔力流もそうだな。
あと、単純に固いと厳しい。
クラソーの全身結晶は、非常に硬くてボクの拳がほとんど通らない。
結晶は魔素から成った物質だが、それ自体には魔素はないのでこの技が効かない。
もちろん、メリアにはさっぱり効かない。
まったく通らない。あれは本当に人体か?
魔素があるのに通らないのは何でだ?
あと、ただの呪いは対処できない。
スノーやストック、ボクが使う呪法は、武術が合わさってるので魔素が使われる。
それは解体できる。
「それにしたって、今の動きはいったい……」
「自身の魔素を全放棄して、大気中の魔素から自分の体を操るんだよ」
なのでこう、人にあるまじき変な動きになる。
さすがに、関節の駆動域とかは守ってるけどね。
体は傷つかないように動かしてる。
そしてそうすることによって、魔素要所の観測と、それへの攻撃を両立するという手法だ。
紫の瞳だと、人間のそれは見て点くことはできるが、こんなに繊細な真似はできない。
その代わり、自分自身は雷速で動き回れるけどね。
こちらは自分の速度は速くはならないが、対応力は段違いだ。
「……なんでそんなことができるの?」
「できるものをなんで、と言われてもわからんよ」
肩を竦める。
放棄した魔素が戻ってきた。
目が黒から、暗い赤に戻っていく。
全部は戻ってくれないんだよなぁ。
三年前なら、消耗の方が大きすぎて一回で気絶したろうな。
前の時間の場合は、結構何度も使えた。
さすがに22歳のボクのほうが、今よりはずっと強い。
「相変わらず、すごい技持ってるねハイディ」
ベルねぇが引いてる。
隣のカーティスは真剣だ。何か感じるものがあったんだろうか?
いやそもそも、君ひょっとして見えてたのか?
ベルねぇはちょっと特殊だから、状況はわかったんだろうけど。
「そんないい技じゃないよ。結構疲れるんだよね、これ。
紫の瞳になる……日輪の技ともどうも相性が悪い。
こんなの、ただの手品だ」
紫と黒のは、同時発動ができなかったんだよなぁ。
起こりが引っかかって、うまくいかない。
何かボクが、未熟なだけで……できないわけじゃ、ないかもしれないが。
「イカサマ、ね。確かに、化かされたような気分だわ。
ギンナ。これは納得いくの?」
「初めはいきませんでしたよ。
でも、ハイディにとって、これは手札の一つに過ぎません。
いつも戦うたびに新しいものを用意してくるし、技も鋭くなる。
正直、魅了されました。
ハイディの技は――――美しい」
えぇ~……。
「泥臭いの間違いじゃないの?」
「確かに、一つ一つをとれば、地味で泥臭いかもね。
でも次々見せられれば、まるでショーのようだわ」
「なるほど」
スノーが何か得心がいったようで……立ち上がった。
「ギンナ。あなたが納得してないのは技じゃなくて。
私が『ハイディの妹なのに』という点なのね」
「――っ。恐れながら、その通りです」
ほほう。
雷獣が使える『ごとき』じゃ、主君として認められんと。
そういう話かねギンナ。
挑戦的で、いいねぇ。王国貴族らしいや。
「この姉と比べられるとは、期待が大きいわね」
スノーも気に入ったのか、笑みが深い。
「はい。勝手ながら、高く期待をさせていただいております」
「畏まらなくていいわよ。私はそうされて然るべきだもの」
ギンナも立ち上がる。
「そうだな。ボクも期待してるぞ?
我が上司を娶るのであれば、応えてほしいね」
「そういわれたら、やるしかないわね。
ギンナ。本気のあなたの膝は……いずれつかせて見せましょう」
「はっ。その日を楽しみにしております」
両者、不敵に笑っとるし。
まだ手も取らず、礼も取らない二人だけど。
案外、馬が合いそうだね、君たち。
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