12-7.同。~我が魔を操る術を見よ~
~~~~ボクの弱電雷光じゃない。スノーはどうやって制御してるんだろう。
「あー、まずギンナ。
紫電雷獣の習得は、君が思う何倍もすごいことだ。
メリアも勘違いしていたが。
これ魔素制御での身体強化と、エネルギーへの変換の同時使用じゃないから」
「え、違うの?」
「違う。神経に通っている僅かな電流を、魔素制御をもって増幅する。
スノーは誰か……エリアル様あたりから、雷獣套路を習ったんだろ?」
「その通りよ」
ギンナは想像がついたのか、めっちゃ引いてる。
「見なくてもわかる。使えると言う時点で、その技は本物だ。
滅茶苦茶手加減しているとはいえ、雷獣で君を倒したのは十分な実力の証明になってる。
ボクはそう思うよ。
決して軽んじて良い相手ではないな」
「…………そうね」
「聞き捨てならないのだけど、姉上」
スノーの体から、俄かに雷光があふれ始める。
おお。妹がおこだ。
まぁ雷獣習得は厳しいからな。相応の矜持はあるか。
「ギンナが私に手加減をした、と。
そう言ったのかしら?」
「言ったさ。してなければ、君は死んでる。
それとも、触れられもせずに倒せたかい?」
「……どういうこと?」
訝し気にしているということは、一方的な組み手ではなかったのだな。
「ギンナは、魔力を直に滅する特殊な力の持ち主だ。
その拳は、一定以下の魔力しか持っていない者に対しては、必殺。
かなり繊細に加減すれば、殺さずに済むんだけどね。
合ってるよね?」
「合ってるわ。
未だ制御できない自分の未熟さが、少々腹立たしいところね」
使わないってことが、できない力みたいなんだけどねぇ。
ベルねぇの正語りや、マリーの予言とはそういうところが異なる。
聞いた感じ、加減できてるのがそもそもおかしい、というのがボクの感想だ。
それがこの子をボクが「達人」と評する所以だ。
達人は適切な加減を為す。ボクやストックなんかは、それが今一つできない。
そしてギンナはもっと高みを目指している。前からずっと――今も、なお。
「その上でね。
ギンナは、雷獣程度の速度はついてくるよ。
ただ本気で雷光を制するなら、致命を厭わぬ技を放つことになる。
どちらかといえば、未熟なのは君なんだよ、スノー。
その技を、君は捌けないと判断されたんだ」
呪いを使う以上、スノーは魔導は未熟か、ほとんど使えないのだろう。
ボクと同じ、ということだ。
その魔力量でギンナの本気の拳を受けた場合、一撃で殺されてしまう。
しかしギンナの側は殺害を避けた場合。
かなり力を落とすことになり、対応力が下がる。
結果として、雷獣に翻弄されることになる。
まぁもちろん、ギンナが熟達して手加減を覚えても、この状況は解消するわけだが。
どちらにせよ、今ぶつかると二人ともフラストレーションがたまるのは間違いない。
「…………姉上なら、捌けると?」
そこで、だ。
「うん。だからやってみようよ」
「え?」
ボクも息をしようと思って……やめた。
ハンデくらい、あげてもいいじゃろ。
「ギンナ。『大地・絶唱』を含む、札を全部切っていいよ。
ああ、できればボクが未見のものは、避けてくれると嬉しいけど。
仮に使っても、必ず無傷で乗り越えよう」
「見切られるの承知で、そんなもの出さないわよ。
じゃあ……本気で行くわね」
ま、そりゃそうか。
あの技は射程距離が怖いんであって、こんな近くで出されても致命とはならない。
「ん。ベルねぇは、カーティスを被害に遭わないとこにおいといて」
「あえっと、カーティス様、こっちです」
「……ああ」
二人が壁際に下がる。
「スノー」
妹の前に、立ちはだかる。
彼女がじっと、ボクを見ている。
「来なさい」
「わかったわ。全力で、行かせてもらう」
挑発に乗ったというわけじゃなく、興味が出たといった顔だな。
ギンナの力をボクがどうさばくのか。その実力はいかほどか。
そして自分の雷光が通用するのか、か。
そんな大したものじゃないんだけどね。
妹よ。
手品を、見せてあげよう。
ギンナの左手から――蛇腹の剣が伸びていく。
あれ、やっぱり魔法かな。仄かに魔力光出てるし。
スノーも足に力を込めているのが、見て取れる。
二人の、行動の起こりを感じて。
ボクは、魔素のすべてを放棄した。
力が、抜ける。
瞳が、黒く染まる。
ギンナが、覚悟を決めた目で突っ込んでくる。
その前を、スノーが走り込んできた。
雷光が派手に、ボクに襲い掛かる。
体を、回す。
踊るように、ぐるりと。
雷光を、滑るように、撫でるように、点き回していく。
素直な軌道だ。制御もほとんどされていない。
都合、25か所を打ち落とす。
ギンナの剣は、もっと長く、鋭い。
しかも、要所がミリ秒単位で変化していく。あの技だな。
だがそれは、もう見せてもらった。この速度では、遅いな。
隅から隅まで、計122点を打った。
刹那、交差。
通り過ぎて行った二人が――膝をつく。
雷光と……スノーの赤い光が消える。
蛇腹の剣は、粉々になった。
体にはほとんど打ち込まなかったから、直に立ち上がれるだろう。
二人がこちらを見上げている。
キュロットスカートの裾を両手でつまみ。
少し足を引き、腰を沈め。
静かに礼をとった。
次投稿をもって、本話は完了です。




