4.南方領ファイア大公邸でのある日。待ち人来たれり。
――――そいつは素敵だ。最高だな。だが先にただいまを言え。
エリアル様は侍従として、フィリねぇは見習いとして、ファイア家に雇われることになった。
ボクについては好きにしていいと言われ……逗留を許されている。
せっかくなので子分二号としてキリエ様についてまわりつつ、自分の雷光を鍛えつつ。
許可をもらって、書庫の本を読ませていただいたりしている。
そうして……しばらく日々を過ごした。
今日も書庫に入り浸っている。
棚が林立している書庫には、幅広く、いろいろな書が収まっている。
本を読みながら、とりとめもなく物思いに耽る。
考え事をしている時の癖で……右手の指で、ロザリオの赤い石を撫で回す。
クレッセントは研究機関である一方、ある種の武装組織だったせいか、所蔵しているものに偏りがあった。
そも、聖国そばにあった魔都ってとこで建造された船だから、魔都にあったものが大半だけど。
あそこの本はだいたい読んで、その上学園では研究までしてたおかげで、ボクは神器周りはそれなりに詳しい。その知識を使うことはあまりないがね。
そもそも、神器は使える者自体が多くない。入り口の敷居が高いのだ。
だが、その使用者がいることが、神器動力機関の運用前提になっている。
国家はいくつもの大型神器船……俗に聖域と呼ばれる衛星都市を持っているので、神器使いの獲得にはどこも躍起だ。
ただ、王国はそこの事情がちょっと違う。聖域がないと国が維持できないところではないのだ。
ここは実力で魔物の生息域――魔境に抵抗している唯一の国。
聖域も持っているのは持っているが、たった二つだけ。
王国がそんなことができるのは単純な理由。魔導師が強い。
王国貴族は、皆が精霊魔法使いだ。家と契約している精霊種を用い、魔物と真っ当に戦える。
王国貴族を除けば、魔物と戦えるのは神器使いと、一部の高位の魔導師や、武術家だけ。普通の魔導師だと返り討ちだ。
そして神器使いは魔物に対して必殺だが、あくまで戦闘能力があるだけ。神器は近接武器だからね。
それに対して、王国の魔導師は……戦略兵器だ。
各国がどれほど神器使いや聖域を抱えようとも、じわじわ魔境に浸食されるのに対し、王国はむしろ魔境に攻め込んでる。
考えれば考えるほど、そりゃあ寄ってたかって攻められるわけだよ、王国。強すぎる。
今読んでる本には精霊のこととかも書かれてるけど……その恩恵は、戦力だけにとどまらない。
王国では、種を植えとけば勝手に作物が育つ。雑草ではなく、人のためになるものだけがえらい勢いで生える。
鉱物資源や森林資源もあきれるほどとれる。
畜産、水産は普通らしいが、国内が平和だからどの産業も安定しているようだ。
神器船の中より、平穏かもしれないな……この国。
あそこは魔物には襲われないが、食料を得るのには相応の苦労はするから。
そうそう。書庫に籠ったのは調べたいものがあったからなんだが、それは見つかった。
エリアル様、大公、ストックの両親と、嫌にボクらのことに理解があると思ったから、前例を調べてみたんだ。
呪いの子、についてだ。
これがまぁ、思ったよりしっかりあった。こういう不思議現象は、割と受け入れられるくらいには存在するようだ。
で、ついでだから類似のあれやこれやも調べた。
呪いの子のほかに、神子、精霊の子と呼ばれるものたちがいる。
まず、この世界と違う知識を持つ「神子」。彼らは王国に限らず、半島の様々なところでたまに存在が確認されている。
……おそらくはあのゲームが配信されているらしい、地球からの転生者だ。
彼らの持ち込む知識や技術は、この過酷な半島ではそのまま役に立つことは少ないそうだが、発展に寄与することもあるそうな。
そして、未来の記憶を持つ者というのも、たまにいるらしい。
多くは予言者と言われる……そういう能力の持ち主だが、他に特筆すべきものが二種類いる。
それが呪いの子と、精霊の子だ。
精霊の子は、王国でだけ確認されている。
精霊は時間の概念を無視した存在と言われるため、それと親和性の高いものは未来を知るそうだ。
次の投稿に続きます。




