12-4.同。~貴族として立つ自負~
~~~~前の時は、こんなに穏やかな子ではなかった。スノーがいなくなるから……いろいろあったのだろう。
「……ハイディ姉さまは、すごいですね。
その御年から、お仕事なさってて。
前のときも、そうだったと聞きました」
ああ、スノー情報か。
呪いの子の話とかまで、共有してるんだな。
あ!それで……エルピスを出港したとき、ビオラ様が前の時間の話題で答えてくれたのか。
話しちゃまずい内容だったなら、あの人なら逸らしてくれる。
答えてくれたのは、ビオラ様が「王子たちは知ってる」ことを知ってたからだ。
共有口は……スノーはやっとビオラ様と会えたわけだから、コーカス様かな?
……まって。この子まだ六歳なんやけど。
いろいろちょっと早くない?
自分の六歳を思い出しても……。
この話はやめにしておこう。たぶん、そういう血筋なんだ。
優秀で大変結構、ということにしておこう。
とりあえずそう、話。話をつなごう。
「ほかにできることがなかったからねぇ。
バイロンたちは王城……離宮住まいで合ってる?」
「はい。そうです」
「なら、君たちは今、ほとんどできることがないんだね。
周りがみんなやってしまう」
さすがに王城や離宮の実際は知らないが、王侯貴族の生活は割と見聞きしている。
前の時、当のバイロン王子からも聞いたことがあるしね。
みんなそれが仕事だから、しょうがないんだけどさ。
生活のすべてを他人にやられるのって、どういう気分なんだろうね。
ボクは想像のつかない世界だし、とても落ち着かないように思う。
正直、王侯貴族から離れ、こうして気楽に暮らしていられるのは、性に合っている。
「はい、その通りです……でも」
王子が続けようとするけど、どうにも躊躇いがちだ。
やはりそれでは落ち着かない、という話なのだろう。
そして、それを表に出すのをよいことだとは考えていない。
ならそこから先は、気楽な平民が引き取りましょうかね。
前の時はあまり聞けなかったけど。
君がその、自信のなさの根源に向き合おうというのなら。
「ボクが同じ環境だったら、本を読むか、体を動かすかだろうね。
本があるならそっちかな?読み尽くすまでは、読んでるんじゃないかな」
「そんなに、ですか?」
そんなにと来たか。
王城や離宮は蔵書量もすごいんだろうなぁ。
いいなぁ。ひたすら読んでいたい。
古書もあるんだろうなぁ。
使う機会のない、半島三古語を役立てられるんじゃなかろうか。
せっかく習得したのに、魔都には新しめの本しかなかったんだよね。
今生では、王国関連とか研究絡みを読み漁ってるから、古書までまだ手が出てない。
「そんなに。暇でできることがないと、悔しいから」
「くやしい……」
「じっとしてたり、だらけるのも好き。
でも、動けるのに、『できることがないから動けない』というのは、悔しい。
悔しいから、その怒りをできることにぶつける。本があるなら、めっちゃ読む。
読んで読んで、おなかが減るまで読んで。
そしたら好きなものをねだって、いっぱい食べて寝るよ」
「すきなもの、ですか」
「うん。王国人ならマッシュ、と言いたいところだけど。
この場合はやはり、甘いものかな。
長黄桃って知ってる?あれ好きなんだよね。
食べるとおなかいっぱいになっちゃうんだけど、だからこそ後先考えずに頬張るんだよ」
そんなに甘くはないんだけど、あの食感が好きなんだよね。
おや、バイロンもちょっとにこっとしてる。
「僕も、好きです。おなかいっぱいになっちゃうのも、同じです。
でもハイディ姉さまは、たくさん食べてましたよね?
長黄桃、どのくらい食べるんですか?」
昨日、晩餐で一緒になったときの話だ。
ボクは他の子に食わせまくっていたので、腹ペコだった。
つい結構食べてしまった。はしたない姉で申し訳ない。
「10房ほど食べると、さすがにもういいやってなる」
バイロンが吹いた。肩が震えとるし。
ん。だいぶ肩の力が抜けてきたかな。
……落ち着くのを待ってから、言葉をかける。
「役に立たなくても、できることをやり尽くしてれば、文句なんて言われない。
子どもなんだから、それでいい。
それを10年くらいやって、その分でお返しすればいいの。
ボクは前の時間でその『できること』の一つが、仕事だっただけだよ」
「仕事も、読書と同じ、ですか」
「同じ。暇だと悔しくてやっちゃう、できること」
王子が、何か深く頷いている。
こんな適当な話でちょっと申し訳ないが。
王国の未来の一つが、それで少しでも天を向いてくれたら、喜ばしい。
……よし。ちょっと悩んだが振っておこう。
この子が将来自信を持てないのは、結局武力に恵まれないからだ。
王位に立つ場合はそれでもいいのが、貴族だと問題がある。
王位は決まっちゃったからね……。
パイロンは将来、どこかの家で貴族になるのが明白だ。
そして貴族である以上、戦いを求められる。
だが直接戦闘だけが、戦場の華ではない。
そのための可能性を、得物の萌芽を示唆しようじゃないか。
前は、ただの面の良い王子様、くらいにしか思ってなかった。
国が滅んだあとも、懸命に頑張ってはいたけど。まぁそれは皆も同じで。
でもそれが、弟となれば。話は別だ。
次の投稿に続きます。




