12-3.同。~末の弟発見。趣味と実益を話す~
~~~~よく悶えた……正直自分が恥ずかしい。今のボクに、彼女の指輪を受け取る資格は、ない。急ごう。
特に消耗なんかはないだろうけど……まずは書庫から見ておくか。
ここから近いしな。
この舟の中で本格的なものを設けるつもりはないが、いわゆる仕事部屋もある。
当然、仕事に使う資料もなければならないわけで。
今回の研究開発で取り寄せたりしたものとかは、割とエルピスに運び込んである。
書庫についた。ドアは開いてたが……扉をノックしてから、入った。
誰かと思ったら、ドアから見えるところの床に、バイロン王子が座っている。
大判の本を取り出し、それを読んでいたところのようだ。
しかし、わざわざ舟まで来たんか。本が読みかけだったとかかな?
彼は第三王子。血縁上、ボクの末の弟にあたる。
ダン王子は知らない様子だったから、ボクが姉だっつーのは伏せておかないとな。
「あ、あね!……っ」
アウト~。
顔を上げてボクを見た彼が、早速口走ってくれた。
「スノー……コニファーに話は聞いてるから、大丈夫だよ。
非公式の場では砕けても構わないね?バイロン」
「あ、はい。ウィスタリア姉さま」
「コニファーのことは、何て呼んでるの?」
「非公式の場では、スノーと」
「じゃあボクのことも。ハイディと呼んで。
それが魂の名だ」
「はい。ハイディ姉さま」
んむ。素直ないい子だ。
さてまずは……椅子を出そうか。
立ち上がろうとするバイロンを、手を向けて押しとどめ。
入ってすぐ左の壁あたりにある、椅子と机を持ってきた。
書庫は壁付けに棚がぎっしり入ってて、本は8割がたは入っている。
とりあえず使う分だけはそろってる、くらいかなぁ。調べ物には、まだまだ不足だ。
手近な棚に表示されている、本の背表紙に触れる。
シャッターのように膜が上がり、中の細い空間から本を抜き取る。
蓋のようなもの、かな。
普通の本棚だと戦闘駆動で大変なことになるので、保護機能を設けた棚なんだよ。
取り出したのは、魔道具のエネルギー効率についての一冊。
大型化小型化の話を交えて、現代魔道具の設計のあれこれが載っている。
後で私室に戻った時に見返すようだ。一読はしてある。
バイロンに椅子を勧める。
彼が本を持って座ったのを見て、ボクも腰かけた。
ん……今度ここ、飲み物淹れられるようにしようかな。
ボクは読書には飲食が欲しい派だ。
あるいは書庫じゃなくて、隣に読書室でも作るかね。部屋はだだ余ってる。
彼の手に取っているのは、神器の歴史、か。
やっぱそういうところに興味があるのかな。古書も読むらしいし。
「ちょっと蔵書が少ないけど、少しは未読のものがあった?」
「7割がた読んだことがありません」
「実用書や研究関係が多いからねぇ……」
とはいえ、三割既読というのは、むしろすごいんではないか?
「やはり、お仕事に使うからですか?」
「ん、んー……実はこれ、ほぼ趣味で集めたものなの」
「趣味?本を読まれるのが?」
「実用向きの知識を仕入れるのが、ね。
他の国の法律書とか、意味もなく内容覚えてるし。
今回の研究開発で、テーマに引っかかるものをそろえてはいるけど。
それは予算を使っても怒られないからなんだよね」
王子がちょっときょとんとしている。
そして少しだけ、口元が緩んだ。
慌てて本で隠してるけど。
「お仕事のお金で、趣味の本を買っている、と」
「そ。内緒だからね?」
「分かりました。その代わり、読ませていただければ」
「何なら、ここから奥の棚のだったら、持ちだしても大丈夫だよ。
全部読んでるし。
読み終わるより出港の方が早かったら、ロイドに置いておいてね」
人差し指を立てて、声を潜める。
「口止め料、ということで」
「はい。受け取ります」
ちょっと笑い合った。
よしよし。
「そういえば、ダンはボクのこと知らなかったみたいだけど。
カーティスは?」
「知って、ます。
スノー姉さまから、ダン兄さまには言わないよう、口止めされてて」
なんでや妹よ。
「二人、仲が悪かったり?」
「そんなことは、ないです。
ただ、ダン兄さまが、モンストン侯爵令嬢を気にしていたので。
その……」
ははぁ。
推定「姉の良い人」を狙ってやがったから、と。
「痛い目見せてやっておこう、とでも?」
「はい。スノー姉さまがそう言って、いました」
「痛い目どころか、斜め上に吹っ飛んで、脳が破壊されそうやが。
やりすぎでしょ、スノー」
バイロンがちょっと吹いた。
もちろん、ダンが勝手に吹っ飛んでっただけである。
同情はするが、ちょっとフォローは無理だな。
姉ちゃんとしては、変な歪み方しなければなんでもいいや。
「今日は他の子とも一緒に来たの?」
なお、ボクとストックは昨夜からここに寝泊りしてる
補給物資の受け取りとかもあるので。
「はい。カーティス兄さまは一緒です。ダン兄さまはドーンですけど」
「ほー。誰に連れてきてもらったし?」
「ファイヤ大公令嬢、です。あとスノー姉さまも」
んじゃあ、ベルねぇやビオラ様もいそうな気がするなぁ。
いつの間に来てたし。
そういやこういう内部の情報を知る手段って、用意してなかったなぁ。
エイミーに聞けばなんか出て来そうだし、相談してみようかしら。
その方が、メンテナンスとかにも便利だよね。
次の投稿に続きます。




