12-2.同。~祝いを終え、仕事に戻る~
~~~~堂々と結ばれたくせに初々しい。特にビオラ様。
「エイミー。この人はビオラ・ロイド。
ちょっと内容が多いけど大事だから全部言うね。
まず、先のモンストン侯爵の妹。
それから、そこのメリアのお母さま。
で、研究所パンドラの所長でボクらの上司。
そして王太子妃だな」
なお省いたが、元クレードル帝国の側妃でもある。
そして先代エングレイブ王の娘……つまり元王女。
属性つき過ぎでは?この人。
血縁で言えば、スノーやボクからすると叔母にあたる人かな。
ちょっと血が近いが、精霊がよしと言ったんなら良いんだろうな。
あれ?そこを言い出すと、ストックってボクの従姉妹になるのか?
ヴァイオレット様とビオラ様がロイドに養子に出されてるせいで、ちょっとわかりづらいなぁ。
あと、まったく似てないせいで、血縁感がゼロだ。
「まだ妃じゃないんだけど……」
「否定したら精霊がすっ飛んできそうだから、やめよう?」
「あ、はい」
「それでビオラ様。エイミーは……第二皇女。
ただ派閥が解体されたので、出奔を希望してます。
あと、パンドラへの就職も。本人は魔道具技師。
ボクやストック、ダリア寄りのやばい子。仕事ぶりは雇ってから評価したい」
「そう。ハイディがそういうなら、任せるわ。
よろしく、エイミー。私も名前だけは聞いていたけど、会うのは初めてね」
「はい、よろしくお願いします。ビオラ様」
おっと確かに、ビオラ様は皇帝側妃だったんだ。
第二皇女と会っててもおかしくはないが、これが初じゃったか。
ビオラ様の場合、メリアを産んで早々に王国に帰り、しかも役を失ったからそのせいか?
えーっと、せっかくだから後、共有しておくことは……。
「そうそう。ビオラ様とギンナは、人員が変更になったのは聞いてる?」
「聞いてるわよ」
「私も聞いてるわ。ちょっと残念だけど、エルピスはたっぷり運転したし。
こっちの務めを、しっかり果たすとするわね」
「うん。パンドラでまた会おう」
「ええ」
そういえばなんか忘れてるような……。
あ、クラソーか。忘れていいや。
ビオラ様に何か想いがあったとしても、相手が悪かったってことで。
さて。とにかくしっかり食べてもらって。
今日はゆっくり、休んでもらうとしよう。
◇ ◇ ◇
補給と点検があるので、連邦への出発は二日後となった。
どいつもこいつも元気だが、それでも休息は大事ということで。
まぁボクは働いておるんやけどね。
衝撃の再会、そして祝福から明けて翌日。
車両点検は終了。
改めて、エイミーの神器車とサンライトビリオンはエルピスに積んだ。
代わりに、積んでおいたスパイダーボックスはドーンに置いていく。
ギンナが使うクルマがないので。
本来なら八歳児は王国じゃ、クルマを運転できないところだが。
彼女は別の車両の契約をしてるので、問題なく運転できる。
信用の問題なので、そこがクリアできてれば契約はさせてもらえるんだよね。
大公令嬢で、ご家族のお墨付きがあれば、まぁ大丈夫だわな。
運転なんて、難しくねぇし。
ボクは今、クルマを積んだついでに、エルピス側の点検だ。
こっちでの作業が多いので、出発までは舟の中で生活の予定にしている。
いちいちドーンの上と下を往復するの、めんどくさいんだよね。
といっても、機器としてのメンテナンスはほとんどない。
装甲のチェックはしっかりやった。それだけで終わり。
念のため、ストックが内装側も点検してる。それで十分だろう。
なのでボクは、中層の各施設を見回っている。キッチンとかの共用設備だ。
消耗とかもあるからね。補充が要る。
ある程度はベルねぇに聞いたけど、自分でも確認はしないと。
次はどこ回ろうか……と考えていたとき。
不意に何かこう、気持ちが沸き上がった。
記憶を引っ張り出そうと、刺激したせいだろうか。
珍しくひとりきりでいるせいだろうか。
このざわざわした感じは……あれだ。エイミーに出会う前のやつだ。
ストックのプロポーズ。間が悪く魔物が来たときの。
何かしてあげたほうが、って。あれ。
急にこう、記憶が駆け巡ってくる。
彼女が、してくれたことが、いろいろ。
ボクを聖国から救い出すために、駆けずり回ってくれたストック。
一緒にいるために、ドーンの巫女の座を確保してくれたストック。
一緒に旅して、ピンチのときは駆けつけてくれたストック。
ボクと一緒に開発してる間に、王都の遷都を手配していたストック。
指輪を用意して、恥ずかしいだろうに勇気を出して、想いを告げようとしてくれているストック。
……………………。
ボク、ストックに何もしてあげてないじゃんか!?
いやそりゃ、折に触れてプレゼントしてるし、お世話はしてるよ!?
彼女の身命を守るために、開発なんかだってやった!
でもそれだけだ!!
望まれたことを、必要なことをやってるだけじゃないか……。
こんなの、その。こ……良い仲失格だよ。
ストックは、ボクを娶るためにあれもこれもしてくれているのに。
待ってるだけか、ボクは。
やってること、周回遅れじゃないか。
なんだこれはハイディ。しっかりしろ。
くおぉおぉぉぉぉぉ。
うん。廊下に四つん這いになって、床だんだんして。
一悶えして、落ち着いた。
ボクはストックのために、何かしたい。
あまり彼女の望みから外れては嫌だけど……。
ボクから、何かを、してあげたい。
よし。
気持ちを切り替えて、仕事に戻ろう。
仕事をさっさと終わらせて、検討の開始だ。
次の投稿に続きます。




