11-5.同。~そして祝福の大輪が咲く~
~~~~はて。前の時間と、恋愛話の盛り上がりが違いすぎる。しかも違和感がまったくない。
「普通ではないよ?
っかしーな。
前の時間ではだいたい皆、異性の好みの話とかが酒の肴だったんだが」
ボクが把握している、はっきりとした同性愛者はそう多くない。
ストックとダリア、マリーの三人だけ。
ダリアは同性専門じゃなくて、両方だ。
マリーはかなり拗らせてるけど、そっちにカウントして間違いない。
ボク、ミスティ、メリアはストレート。
スノーも、確か異性愛者の側だったと思う。
「姉上自身も?」
「も。ボクは今でも、異性愛者だよ」
「ストックは実は男の子なの?」
「私は女だよ、スノー」
「??????」
「それで結ばれるのは、大変なんじゃないの?ハイディ」
妹はクラッシュした模様だが、エイミーはついてきた。
「実際にそうなってないから、断言はできないけど、大丈夫だと思うよ。
ボク、女性に興味はないけど、ストックには興奮するし」
ストックがまた吹いた。
ごめん。そっち見てなかった。ちょうど飲んでたか。
スノーもむせてるけど、こっちはほっとこう。
ストックやその周りだけ、また拭いておく。
「そうなんだ。なら大丈夫かしらね」
いやに理解があるねエイミー。
まぁ成人女性で……そういう気質なんだとしたら。
十分悩み、考え抜いたんだろうしな。
自分の気質は踏まえた上で、身の振り方を考えられるくらいには。
覚悟の決まった人だ。
「まぁその点は、そっちの方が大変だと思うけどね。
野暮を承知で効くけど、二人は大丈夫なの?
メリア、ミスティ」
ミスティがむせた。
メリアがすかさず世話に当たってる。
この二人も良い仲なわけだが、年が離れている。
メリアが8歳、ミスティが23歳。実に15歳差。
ミスティは手を出したら一発アウトで極刑だ。
そりゃあもう、大変我慢をなさっていることだろう。
かつて一緒に寝られないと言っていた夜が、懐かしいが。
あれ以来今日まで、特に問題はないみたいだ。
「あ。そっちも……」「えぇぇぇぇぇ」
「心配ない。待たされるというのは、乙なものよ。
あと……七年か。
身悶えて耐えるミスティを、見ていられるのは」
メリアさんや。
ミスティ、気管入っちゃってるからやめて差し上げて?
覚悟決まってるのは、大変結構なことだが。
あれ?なんかこっち目指してくる足音が結構する……。
まだ夕飯の仕込みには早いし、キッチン周りに来る人なんて、あまりいない時間帯なんだが。
「やっぱり!ハイディが揚げ物してる匂いだった!!」
キッチンの出入り口に、我が上司が現れた。
後ろには、申し訳なさそうな顔のギンナとベルねぇがいる。
なんと。思ったよりすぐ着いたんだな。
ボクらは、ちょうどいい塩梅で辿り着いたことになるか。
王子たちやコーカス様、エリアル様はどっかおいてきたかな?見当たらない。
ボクは火を落とした油壷を、再び温め始めた。
腹ペコ族が増えたなら、また作らねば。
ドーナッツの生地も、追加するかぁ。
およ?スノーがすっと席を立って、彼女たちの方に向かった。
すれ違ったときの顔が……呆然とも、毅然ともした、不思議な表情で。
ビオラ様がそれに気づいて、素早く深い礼をとって迎える。
足を大きく引いて、裾を両手で持って、深く頭を垂れる。
あれは、精霊に捧げる、エングレイブ固有の礼だ。
慌ててギンナとベルねぇも礼をとっているが――比較にならないくらい、ビオラ様の礼が美しい。
そうか。なんとなくだけど、ちょっとわかったよ。
あなたが今生で作法を崩していたのは、この日のためなんだな。
礼を捧げる相手を、決めていたんだ。
我が淑女の師の全霊を見たのは……いつ以来だったろうか。
ボクは本能的に、油壺の火を落とした。
これ、揚げ物の音やにおいがしてちゃいけない空気だ。
「顔を上げて。名前を教えて、いただけないかしら」
スノーが、ビオラ様に声をかける。
上司殿の「魂の名」が明らかになったのは、今生になってから。
役としての名前は喪失済み。
ボクらにとってその人は、前のときは「オーナー」だった。
というか、あれ?
まだ今生では会ったことなかったのか?この二人。
ちょっとびっくりだ。
「ビオラと申します。スノー様。我が君。
馳せ参じが遅くなり、申し訳ございません」
片膝をつく姿勢に変えて顔を上げ、ビオラ様が応える。
二人の視線が、深く交錯している。
「いいのよ。知ってて呼ばなかったのは、私よ。
少し、返事を聞くのが怖かったから」
彼女はどうしてか、とても高く見えた。
ボクと同じくらいの背丈なのに。
天を突きそうなほど――気高く見えた。
「――――私は約束を果たしたわよ、ビオラ。
クレッセントの神主は、もういない」
ビオラ様の目が驚きに見開かれ……そして、細められた。
美しい微笑みだ。
「であれば、私も約束を果たしましょう。
今生では、失われることなくお傍にいると、誓います」
「ありがとう。ビオラ」
スノーが、ビオラ様の手をとる。
「もう、離さないから。法律も、変わったそうだし」
は?
え?いい雰囲気だけど、そこまで??
その人の娘が、難しい顔しちゃってるんだけど???
「ぉ……」「あれ?何か……」
誰かが声を上げたので……ボクも気づいた。
何か、光の雪?みたいのが、降ってきてる。
どこから?ここ屋内なんやけど???
「精霊だ。だが、見たことがない……」
メリアが怖いこと言ってる。
ひょっとして、君の眉根が寄ってたのはそっちが理由?
「これは……ソルだわ。それに」
「ルナ?」
呟く二人に、光の結晶が、静かに、たくさん、降りてくる。
魔力のないボクにだってわかる。
これは。
スノーとビオラ様が番として、精霊に認められたんだ。
今は遠い、王都から。
エングレイブ王国を司る、名を秘匿された精霊が。
次の王と王妃を、祝福している。
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