11-2.同。~欠食令嬢に揚げを食わす~
~~~~まずは腹ごしらえってやつだな。……これ、ボクが食えないやつでは?
ロイドはいろんなところに屋敷がある。
王国内ではモンストンとシャドウ。パールにはなかったな。
聖域ではユリシーズと、ここドーン。
そしてどこもだいたい間取りが同じだ。
しかし、食堂用の調理場のほかに、こういうダイニングキッチンが必ずあるのは、誰の趣味なんだろうなぁ。
ストックに飯を食わすには実にちょうどいいので、どこでもかなり重宝しているが。
そしてどこも当たり前のように、設備が微妙に身長の低い者向けだ。
…………ストックのお父上のキース宰相閣下の仕業、という可能性もある。
…………ストックがボクのために手配した、という可能性もある。
まぁいいか。便利に使わせていただけるなら、一緒だ。
小麦やら砂糖やら、それなりの量を頂戴してきた。
エプロンをして、手を洗って、生地を準備。
なお卵は使わない。丸羽鳥の卵は、王国では貴重食材だ。ここにはない。
ちょっと生地を寝かせるので、その間に野菜でも揚げるか。
粉を水で溶いて、野菜を切りつつくぐらせる。
油壷を用意し、火にかけて、温度を調整。
芋からガンガン揚げていく。
揚がったやつは適当にバットに放り込んで塩振って。
こらストック。まだ熱いぞ?手ぇ出しちゃだめだって。
そうして、そろそろドーナッツも揚げるか、という頃になって。
「姉上ええええええええ!!!!
なんで私を呼んでくれないのよ!?」
なんか追加が来た。
「スノー。君、ヴァイオレット様とどっか行ったじゃないか。
お仕事は済んだかい?」
「済んだ!おなかすいたわ!!」
「そ。じゃあ手を洗っておいで。
芋揚げから夏野菜各種を出してあげよう。
デザートはドーナッツだ」
「わーい!」
急に八歳児に戻った妹が、手を洗いに行った。
「王女殿下がすっかり手懐けられてますね……」
「慣れたもんだの。さすがは姉か?」
「二人とも、その辺は聞いてるんだね。
ただそこはそうじゃなくてね。
あの子、前の時間でクレッセントにいたんだよ。
メリアが来る前には、降りちゃってたけど」
当時はオーナーと一緒に亡くなって、遺体が残らなかったのかと思ったが。
生きて復讐の機会をうかがっていたとはなぁ。
「なんだ、そうだったのか」
「ん。食いしん坊で元気な子で、オーナーに良く懐いてた。
仕事が丁寧で、助かったなぁ」
「だってハイディ、経費が合ってないときとか怖いんだもの」
スノーが戻ってきた。
行儀よく椅子に座ったので、揚げを満載した皿を目の前にだしてやる。
塩瓶とフォーク、それから……エールレッドのジョッキを添えてやった。
この子の食好みは、ボクによく似てる。
甘いよりは辛かったり苦かったり、複雑な味が好き。
そしてよく食べる。お酒を飲めるまで、一緒にはいられなかったけど。
……たんとお食べ。よく頑張ったね。
「君が、間違ったものを出すわけないんだから。
君ので間違いが見つかった、ってことはだね。
他が全部間違ってるってことなんだよ。
実際その通りだったから、大変でねぇ」
「そうなの?あの船、滅茶苦茶ね……あらおいしい。
王国の野菜は、相変わらずいい味だけど。
王城の揚げは、こんなにおいしくないわよ??」
「同感だ。
ロイドの料理人だって脱帽ものなんだが、ハイディは自分は下手だというんだよ」
「君とメリアがめっちゃうまいからなんやが?」
「得意分野の違いだろ。なぁストック」
「そうだな。毎日食べるなら、やはりハイディのだ」
またそういうこと言うんだから……。
欠食妹が猛然と食べ始めたので、ドーナッツは後回し。
野菜を揚げに……あれ?無くなるペース早くない??
あ。静かだと思ったら、エイミーがめっちゃ食べて……静かに泣いてる。
「すん。わたし、王国の子になる」
「連邦に嫁に行くんじゃないんかい」
「ん。向こうの穀類や麺類もおいしいけど。
作法が格式張ってていっぱい食べられないの」
そこが引き合いに出るほど、君は食いしん坊なの??
確かに、果物とかよく食べてたけどさぁ。
帝国は欠食令嬢を量産しすぎだと思う。
「へー。礼にうるさいとは聞いてるけど、そんなに?」
スノーが興味を持ったのか、こっちに話を……じゃない。
こいつ、もう食い終わりやがった。
ぺろりと食べて、暇そうにしてやがる。
ボクは、二つ追加で油壷を用意しながら応える。
「ボクらは庶民向けの店に行くようにしてたから、そこまでは感じなかったよ。
ねぇストック」
庶民向けの麵処やご飯処は、とてもおいしかった。
屋台も風情があってよかったなぁ。
結構遅くまでやってるんだよね。
子どもの行く時間じゃねぇと思いきや、結構小さい子もいて。
いい雰囲気で、良い国だった。
特に、ダリアとマリーが案内してくれる店は最高だった。
何店か、中型神器船への誘致の声掛けをさせてもらってる。
あの神器船で農業ができるようなら、是非とも招きたい。
「ああ。ダリアは知ってるか?スノー。
彼女がだいぶ愚痴っていたよ」
やたら庶民向けの店を案内すると思ったら、単に本人の好みだった。
格式高いのはお嫌なんだと。
お洒落なとこも連れてってくれたから、食事に礼を持ちだされたくないんだな。
自由な王女だこと。
ここで猛然と揚げを食ってる妹と、いい勝負だ。
次の投稿に続きます。




