3-4.同。~自称異性愛者、秒で陥落す~
~~~~好きならもっと早く言えよ……なんかもやもやする。
「ごめんよ。ボクもうまく整理できていないんだ」
頭を撫でると……こら、胸元にすりつくなし。
ボクからすると何日か、何か月かぶりくらいの感覚だけど。
ストックからすると、ボクに会ったのは何年かぶりになる。
……さみしがりやが、よく我慢したね。
いや、我慢できなくなったから、大公に凸ってきたのか。
「そうだな……うん。
このままだと、君の家族も、ボクの家族もいなくなってしまう。
王国だって、滅茶苦茶だ。
そんな状態で言われて、喜べるわけないだろ?」
ストックの頭を撫でながら、考えつつ言葉にする。
腕の中で、彼女が頷く。
「ボクは……ストレートっていうんだっけ?こういうの。同性には興味ない。
その気質で、周りが大変なのに迫られたって、盛り上がるわけなかろ」
前んときは……そうだな。別に好きな人はいなかったよ。
でもいいなって思うなら男性だったな?
きれいな女性は見れば、かわええ!ってテンション上がるけどね。
……ストックは、見るだけでテンション上がる。喋られるともっと上がる。
令嬢然としてるときもいいけど、「ストック」のときが、やっぱりかっこいい。
それが恋愛感情かと言われると、少々困る。
何せそんな経験がない。
その気持ちになんて名前をつけたらいいのか、ボクはわからない。
「まずは、大きな破滅の未来を何とかしようよ。
ボク一人じゃきっと難しい。でも」
「わかった。きっとお前となら」
「ん。君となら、なんとかできる。
だからまずそこをやり切って。
それからにしな」
「そうだな。10年後となれば、時期もちょうどいい。
準備も間に合うだろうしな。やはり王国民が挙げるなら、精霊式だろう」
吹いた。調子戻りすぎで乗りすぎだろ。
さっきキスの話だったろ。こいつめ。
どこまですっ飛んでいく気だ。ストレートだっつってんだろ。
なおこの国では15で成人、結婚は可能。
精霊式っていうのは、結婚式の挙式スタイルだ。王国固有のもの。
でもそれ以前やろうが。あほか。
「王国法で定義されてる婚姻とは男女間のものだが、そこはわかってんのか?」
「む。法律も変えねばならんか」
「あと普通にご家族に反対されんだろ。そういうの」
「時間を作って……理解を求めるさ」
「貴族令嬢は婚約者とか決められるものだが、大丈夫か?」
「私は……ああ、お前もか。外堀は早急に埋めないとならんな」
「だろうね。10年は短いぞ?」
彼女が顔を上げた。
とても、近い。
瞳を、覗き込まれる。
話すだけで、くちびるが、触れてしまいそう。
ダメ。ストック。その目をしちゃ、ダメ。
あの山の続きを、期待してしまう。
「必ず成し遂げる。
……お前がずいぶん、前向きなようだしな?」
「何言ってるんだよストック。
ボクはまだ四歳だぞ?
そんな話は知らないな」
「ハイデむぷっ」
早口で言って、ストックを腕の中に納め直した。
顔も赤いし、見るな。見ちゃダメ。
……ボクの心臓の音でも聞いてろ。
少し大人しくなったようなので、改めて最初の質問に答える。
こちらもやっと自分の気持ちが、整理できてきたしね。
「ボクが納得いかない顔をしていると、そう聞いたね?」
ストックが少し頷く。
髪が肌に少し触れて、くすぐったい。
「今のままだと、ボクは君と一緒にいられないんだよ。
せっかくまた会えたのに、納得いくわけないだろ。ストック」
ボクの本当の家族には、まだ会えない。
ならそれまでボクは、ただの平民。それも孤児の扱いだ。
こんなふうに、何の因果か偶然か、あるいは何かの気まぐれで、一緒に居続けることはできないんだ。
この子はモンストン侯爵令嬢なんだから。それはダメだ。
わがままが過ぎるので、そういう気持ちをわかってほしいとは言わないけれど。
不安なんだ。せっかく君に会えたのに。
離れなきゃいけないかもしれない。
破滅が待っているかもしれない。
それはあまりに、落ち着かない。
…………こら。背中に手を回すのは、もっとダメだって。
「わかった。私もそれは、納得いかない。任せろ」
「ん」
そうか。
共感してもらえたなら、何よりだ。
ちょっともやもやしてたけど、落ち着いたよ。
そっと頭を撫でて……
……………………。
あれ?
冷静になって思い返してみると、流れおかしくない?
ボクこれそもそも、ストックを全力で受け入れてるよね??
なんで?え??どっからおかしかった???
ストックの身と心を救いたい、とは。思っているけど。
こういうの、半端だと返って傷つけるとか、聞いた、ような。
同性に興味を向けられないと、嫌悪感が湧いたりして、破綻するとか、聞いた、ような。
なのにこう、キスも、結婚、すらも。
さっきの、今はだめって言ってるだけで、いいよって言ってるも同然だよね???
しかも「ほしいものなんて……もう、ここにぜんぶある」とかキメ顔で言ったぞ!?言ったわ!
完全にアウトじゃねぇか!誤解のしようがねぇ!取返しのつかねぇやつだわ!
ボクが異性愛者だって自覚はどこに行った?あるいは、ストックならいいのか??
ああもう……もやもやはなくなったけど、疑問だらけになってしまった。
なにやってるんだボクは。わけがわからねぇ。
そっと息をつきながら、腕の中の彼女の頭を撫でる。
撫でると、彼女の瞑った目元が緩んでいく。
かわいい。
…………はっ。
……いいってことか。君なら。
さすがにこれは、誤魔化しようがない。
好きにはならない、とか言っておいて。何か、ごめんね。
いや違うか。
もうバレバレで、ボクの自認より早く君に伝わっただけだよね。
それもかなりドストレートな言葉で。
うん。なんてこった。顔から火が出そう。
ストックからはこちらが見えないように、撫でる箇所を変える。
彼女の呼吸が、緩やかになっていく。何とも言えない、心地になる。
おかしいなぁ。
今日再会してすぐは、悪友にまた会えたぜ!みたいなノリだったのに。
お部屋来てからかなぁ、なんか変なの。
ストックと二人で寝泊まりしたことだって、ある。
でもこんな夜は……なかった。
あれ、かな。
ストックがボクに、好意を持っていると、はっきり口にしたからだろうか。
言っちゃなんだが、ボクは全然気づいてなかった。
ストックがそうなったのが、学園の頃からじゃなかったとか?
例えば、王都で激突して以降のどこかでそう思うようになったなら……。
一緒にいた時間がほとんどない。それなら、わからなくてもしょうがないけど。
それにしたって、どのみち人の恋愛感情に素直じゃないんだけどなぁ、ボクは。
よくないことなんだが、人に好意を向けられると、つい逃げ回っていた。
でも……ストックには、全然そんな気にならない。そう思ってくれるのが、嫌じゃない。
ストックの何がよかったっていうんだ、ハイディよ……。
…………もっともやもやしてきた。
あ、寝息たててる。先に寝やがった。
しょうがねぇ……これから少しずつ、聞いて考えて探ってみるかぁ。
悶々としているうちに、いつの間にか意識が落ちて――翌朝。
目が覚めると、ストックはいなくなっていた。
…………なんだこの展開は。納得いかねぇ。
ご清覧ありがとうございます!
評価・ブクマ・感想・いいねいただけますと幸いです。




