10-7.同。~また、本懐遂げし復讐者~
~~~~まさか、妹と前の時間で遭遇していたとは……。顔が自分に似てるなー?とは思ったんだけどさぁ。
「そして、私は本来の名前を持っている。それがスノー。
呪いの子とか、魂の名のことは、誰か説明が必要?」
「ボクとストックは君と同じだ。
エイミーは呪いの子の逆行はしていないが、近いものを知っているし、説明した」
「ああ、メリア……カレン皇女の知己なのね?」
「ええ、その通りよ」
「その上で、色付きの結晶を持って……スノーは結晶のことは?」
「ミスティに説明してもらったし、私も持ってる」
なんか結晶持ち多すぎでは??
そんな、どこにでも転がってるものなの??
あるいは、本人の人生に近いところにあるもの、なのかな?
「スノー、と呼ばせてもらうが」
「何かしら、ストック」
「前の時間では誘拐された後、役を喪失。
その後、オーナー……ビオラ叔母上に連れられ、クレッセントに行ったのか?」
「だいたい合ってるわね。
そもそも私を誘拐から助け出したのが、オーナーなんだけど」
何やってんのビオラ様。
それでこの子、前のときやたらあの人になついてたのか……?
「その後スノーの名をつけられて、船に乗って。
ハイディとはしばらく一緒だったけど。
私は王女としての自分を喪失してたから、その時は名乗らなかった。
その二年後くらいに……奴らがオーナーを、事故に見せかけて、暗殺。
居合わせた私は、なんとか逃げ延び、潜伏したわ」
スノーが膝の上で握る拳が、震えている。
「あとはまぁ端折るけど。
姉上がいろいろやってくれたから、それに乗じて船を落としたのよ」
まじかよ。妹がロックだわ。
「やるじゃないか、スノー」
「ふふ。ありがとうストック」
「それで。そもそも、ボクがやらかしてるのをどうやって知ったんだ?」
「クレッセントの方を調べてたから。
姉上が船を降りてるのとかも、その時知ったのよ」
なるほど。連中側の動向調査をしてて……その中で詳細を知ったわけか。
ずっと復讐のために、つけ狙っていたんだな。
「あの時は……半島中の水脈が乱されて、彼らが慌てて調査し、人を遣わして。
おかげで戦力がだいぶ減ってたから、楽ができたわよ。
ああそうそう、神主は存在を封じたから、もう出てこないわよ」
は?
「まて。君がどうやったかは置いとく。だがよくやった。
それより気になるんだが、そうなると今暗躍しているのは、誰だ?」
「はっきりとは。でも神主って――次回作でも出てるでしょ」
げ。そういえば。
もちろんそれぞれは別人なんだけど。
『揺り籠から墓場まで』の2と3には、プレイヤーの分身役がいる。
「あと二人いる、ということか」
ストックが唸ってる。
そいつらが敵に回るとも限らない、が。
今、事件再現を誘発させたり、こちらに敵対している存在がいるのは明らかだ。
その有力候補とは、考えておくべきだろう。
「……姉上、怒らないの?」
「何が?」
「いやその。姉上だって、一発殴りたかったとか。
あるんじゃないの?神主」
目の前にいて抜け駆けされたら、そりゃ文句も言うだろうがなぁ。
やったのって、前の時間の時だろ?
なら言うことは……いや、あるにはあるか。
「そりゃあ、遭遇したらまず動けなくして。
にこやかに拷問を楽しむけどね?」
「姉上こわっ」
「でもこういうのは、早い者勝ちだ。
よくやった、スノー。
ボクは君が、妹が誇らしいよ」
「っ……姉上」
なぜそんなに照れるのだ妹よ。
何年もの時間をかけて、本懐を成し遂げた君を。
ボクが褒め称えなくて、何とする。
「復讐して褒められるとは、思わなかったわ」
「何を言ってるんだスノー。
淑女たる者、やられたら速やかにやり返せ。
経典にも、そう書いてある」
正しくは。
「想い人を殺された?ならば犯人は速やかに仕留めなさい。
そして一族を末代まで祟りなさい。
その情念のすべてを世界に見せつけて。
そうしてあなたは報われるでしょう」
って物騒な一節なんだけど。
聖女様はロックだ。それもヘヴィでデスな方。
その生き様を記した、ロード共和国の経典には、こういう話が山ほどある。
その。経典って大きめの屋敷が立つほどの量があるから、文字通り山ほど。
「きょう……あなた、聖女派なの??」
「モグリだけどね。ビオラ様に仕込まれた」
「ああ、あの人そうだったわね……」
スノーの苦笑いが、少し穏やかになる。
「私の前の時の話は、これでおしまい。
じゃあここからは……今生の話になるけど。
こいつらとの対峙を含めて、改めて手を貸してほしいのよ、ハイディ」
……………………。
少し、勘が働く。
つまり。今回の仕掛け人はこいつだな?
誘拐されるコニファー王女に対して起こったとみられる、事件再現。
これが三年前のドーンと同じで、誘い込んだ結果だとすれば。
状況は非常にわかりやすい。
急に起こったことにしちゃあ、用意が良すぎるんだよ、妹よ。
お姉ちゃんは、君が変わらず優秀で嬉しいよ。
そして黙ってやらずにボクに断りを入れてくるあたり、変わらねぇな?
なるほど、さっきヴァイオレット様に言った「止めないで」はこれか。
次投稿をもって、本話は完了です。




