10-5.同。~その女、エングレイブの王女にして~
~~~~ついこないだぶりに会った友の成長が著しい。戦略兵器になってる。
「カレン?」
「ラスト!?こんなところでどうした」
「あなたを見習って、出奔したのよ」
「ああ……そうか。お悔やみ申し上げる」
事情はよくご存じのようだ。
それなりに歳は離れてるが、意外に仲がいいのか?
「ありがとう。二人の友達だというから驚いたけど、あなたも王国にいたのね」
「まぁな。そこのストックの姉になった」
「は!?」
メリアはモンストン侯爵の養子で、誕生日が早いので、そういう関係になる。
血縁的に言うと、ただしくは従姉妹なんだけどね。
そこはややこしいから置いておくか。
「メリア。とりあえず国防の人を呼びにいきましょう」
黄色い神器車の助手席の窓から、ミスティが顔を出した。
その髪の量だと、夏の荒野は暑くないんだろうか。
車内にいれば一緒か?
「わかった。ハイディ、しばらく様子を見ておいてくれ。
応援を呼んでくる。
ラストも、またな」
「ええ、また」「お願いね」
メリアがクルマの運転席に戻り、そのまま南の方へ向かっていった。
「しかしあなたたち。
一から十まで、何から何まで滅茶苦茶ね……」
窓からエイミーが、惨状を見ているようだ。
舟は陥没した地面の下。クルマと神器使いは粘着弾で動けない。
気づかなかったが、最初に轢いた神器車と搭乗してた神器使いも、砂まみれだ。
確かにまぁ、ひどいもんだ。
「我々はいつもこんなさ。大丈夫か?エイミー」
「ええ、まぁ」
「ごめんね。こういう派手なのは嫌だった?」
「だったら最初っから、お誘い断ってるわよ。
蛇の魔物を蹴散らしたときも、かっこよかったもの」
バックミラーをちらりと見る。
少しあきれた様子だが、どちらかというとエイミーは楽しげだ。
「そりゃよかった」
「さすがに車の名前といい、あの時のすごい魔導といい。
ちょっといろいろ気になってきたけどね?」
「そうだね……連邦の南にはあまり行ったことがないんだ。
案内してくれたら、ちょっとは口が軽くなるかもよ?」
「なら期待しててくれていいわよ。
南部のデクレスなら、お手の物だわ」
皇女様が得意げだ。
しかしそこ、デートでエスコートされたようなとこでは、あるまいな?
「そりゃいいことを聞いた。
ストック、ちょっと運転かわって。
ボクは念のため制圧してくるから」
「わかった。気をつけてな」
クルマを出て、袖を口に含む。
舟の中にも、人員がいるはずだ。
後は適当にのしておくか。
◇ ◇ ◇
しばらくして、メリアたちが国防の人たちを連れて来た。
ボクが殴って制圧した者も含め、無事連行と相成った。
んむ。死人も出なかったし、善き哉。
しかしさすがに、車両戦だと鮮やかとはいかないな。
オーバードライブ使うと派手に壊しちゃうし、できるだけ被害を最小限にはしたつもりだ。
ストックに使ってもらう気だったから、ビリオンの攻撃用超過駆動は『再生の炎』だけ。
あれ、ちょっと強すぎるんだよね……神器関連にぶち込んだら、問答無用で全部ぶっ壊せるくらいには。
ナーガを倒したときのなら、小型神器船までは全焼。
場合によっては、中型神器船でも危ういだろう。
魔導拡大しないように、ちまちま狙って撃ってもらったら……中が蒸し焼きだな。
ストックの言うように、加減ってのは難しいもんだ。
ちょうどいい切り札かぁ。なんか考えてみようかしら。
そんなことを考えながら、エイミーのクルマを回収。
ドーンの魔力流を登り。
街中を通って、領主公邸までやってきた。
何をするにしても、まずはモンストン侯爵にご挨拶せねばなるまい。
そうして我々はモンストン侯爵――ストックの母、ヴァイオレット・ロイド様に会いに来たわけだが。
なんか身綺麗にしろって言われてから、着替えまでさせられて、応接に通された。
一応、エイミーのことは言伝してもらってて……彼女も一緒だ。
ミスティ、メリアとは途中で分かれた。
はて。
いったい、何が始まるんです?
応接間に使用人の方に案内され……扉が開くのを、礼をとって待つ。
中から招かれ、直って入室。
ヴァイオレット様と、もう一人。ソファーに座ってこちらを待っている。
薄桃色……ピンクの肩口まで伸びた髪。
緑がかった目をした、赤いひらひらドレスの幼女。
初めて見る人だ。けど……なんか、覚えがある顔だなぁ。
単純に、知ってる顔に似てるせいかもしれんが。
こう、それだけじゃない、ような。はて。
使用人の方は、すぐ下がった。
嫌な予感しかしねぇ。
ソファーを勧められ、二人の対面に座る。
「二人とも、御苦労さま。
紹介の順を悩むところだけど、そちらからお聞きしても?」
「初めまして。エイミーと申します」
「……皇女として遇する必要はない、と?」
言伝はしたので、当然そこはご承知だ。
エイミーのこの意向は、我々も聞いている。
「王国に対しては。
連邦に向かうところでしたので、僅かな滞在だけお許しいただければと」
ヴァイオレット様が、こちらを見る。
……ストックに決定権を委ねてもええと思うんやけど?
「魔境でガス欠を起こしていたので、救助した方、ですので。
要救助者として、然るべき措置を行った後は。
改めて連邦への案内人として、お雇いするつもりです。
南部にお詳しいそうですから」
「そう。ではあなたたちに任せるわ。
それで二人とも。こちらが、コニファー王女。
殿下。娘のリィンジアと、当家所属の巫女、ウィスタリアです」
「リィンジアと申します」
「ウィスタリアです」
やっぱりかよ……。
次の投稿に続きます。




