10-4.同。~戦闘車両の本領~
~~~~やっぱりいたか。けどまだマシな方かな。……本命はまだ先か?
お?さすがにそれはなかったか。
やっこさん、やる気だわ。
舟の向かって右、下部のシャッターが開いた。
開いたシャッターから神器車が……6台ほど、出てきた。
その天井に、なぜか各々神器を担いだ者たちが乗っている。
前にシャドウで見た革鎧姿の連中と、同じ格好だ。
結晶兵のうち、神器に適性のある本命の戦力がこっちってことか。
「厄介だな」
ばらけられた。舟を沈めるだけじゃ、片が付かない。
「超過駆動を使うか?」
「これ、『再生の炎』しか積んでないぞ?
君がどんなに加減してはなっても、丸焼きにしちゃうだろ?」
「ではどうする」
「こうするさ」
口角が、自然と上がる。
舟はまだ少し遠いが、車両との彼我の距離は十分近づいた。
「――――いくぞサンライトビリオン、閃光のように!!」
追加で防御魔導を起動。
シフトレバーを回し、ハンドルを操作しつつ、狙いを定める。
黒い閃光が……緑の輝きをまといつつ、一気に駆け抜ける。
互いに魔力流で包まれている以上、衝突の瞬間に止まって終わり、のはずだ。本来なら。
だがビリオンは新たな力を得た。
今のこいつは、その濃い魔力流で、弱めの防御魔術までは起動できてしまうのだ。隙はない。
こいつは神器車ではない。
戦うことを生業とした、神器戦車。
魔力流の少し外側に展開した防御陣が、干渉の前に相手の装甲を破壊する。
ふふ。この防御魔術自体もダリアの特別製だ。
通常のそれとは違い、座標ではなく対象を指定して展開する。
効率は悪いが、移動しながら展開できる優れものだ。
サンライトビリオンが円を描くように走り抜け、南側から回り込んで神器車の一台と交差。
車体後方のスライドを誘発させつつ、滑らかにすべり、クルマの横から当たる。
後部座席側をごっそりと砕いた。
神器はどれも、魔導に弱い。
防御魔導で覆った体当たりだけでも、ご覧の有様である。
前にしか人は乗ってなかったし、これでよかろ。
クルマの制御結晶は、だいたい石材底面の中心付近やや後ろにある。
後部座席側を丸ごと破壊されると、当然そのクルマは動かなくなる。
前半分だけになっちゃったクルマも止まったし、神器使いの結晶兵も地面に落ちた。
一台止めたし、次行こう。
お、天井乗ってるやつらが、何人か超過駆動を始めてる。
けど、超過駆動は起動してからの誘導が難しいんだよな。
案の定、蛇行してやると全然当たらない。
炎や氷や不可視の刃が飛んでくるけど、五発、全部避けた。
楽なもんだ。これで当分撃てない。
「ハイディ、後ろ!」
エイミーが後ろ見て叫んでる。
炎が一発着弾せず、こっちを追っかけて来てるようだ。
一人はちゃんと制御ができるやつがいたか。
回り込んでも、振り切れない。やるな。
そうしてるうちに、前方の一台が、赤熱しはじめた。
クルマの超過駆動も切ったか。
後ろからも前からも炎の魔導。
しょうがねぇなぁ。
切り札の一つと切ろうとしたとき。
横合いから何かが降り注ぎ、後方の魔導、前方のクルマ五台に襲い掛かった。
これは。
「砂……?」
「砂弾頭のオーバードライブ!ミスティだ!!」
ストックが助手席の窓の遠くを見て、歓声を上げている。
少し……いやだいぶ遠くに、黄色い神器車。否、神器戦車が見える。
あの距離から全部着弾させたの?相変わらず、腕がいいな。ミスティ。
撃ったのはたぶん、粘着弾か何かだろう。
クルマも結晶兵も、砂にまみれて動けなくなっている。
数種の弾丸を、選んで撃てる魔導を組み込んでるんだよね。
ボクだってできることなら、ああいう小器用な魔導の方がいいが。
正直、あんな精度で当てるのは無理だ。
車中は外からは見えないが、たぶん運転席はメリアかな。
…………いや、違う。なんかクルマの前に、人がいるんやけど??
勘が働いた。
舟にだいぶ近くなってきていたが、慌ててハンドルを切って離れる。
ロケットスタートまで使って、急いで距離をとった。
南側に逃げたので、黄色いクルマが少し近くなる。
前の人影は確かにメリアで――彼女が天に拳を掲げている。
あれ、は。
メリアが大地に、右の拳を落とした。
ボクらの後方で小型神器船の周囲が陥没し、舟の周囲だけが数m落ちた。
突然できた崖に衝突しても、そう被害は出なかろうが……舟があそこから抜け出すのは、無理だな。
そのまま彼女たちの元へ、クルマを近づける。
やっぱりメリアだ。こうしてみると、この子も背ぇ伸びたなぁ。
ミスティが追い抜かれるのは、時間の問題か?
「君が『大地・絶唱』を使えるとは。
隠してたな?」
窓を開け、声をかける。
さっきのはどう見ても、ギンナの切り札だ。
いつの間に習ったんだろう。
というかメリアが使えるってことはこの技、さては精霊魔法なのか?
「やっと使えるようになっただけだ。
しばらくぶりだな、ハイディ。
ストックも元気そうで……おい。また誰か拾ったのか?」
「失敬な。君の知り合いだぞ」
後部座席、運転席側の窓を開けて、エイミーが顔を出した。
次の投稿に続きます。




