10.聖域ドーン入場。出会い、あるいは再会。
――――君と会えたのは嬉しい。でもちょっと変わりすぎじゃないか?
少しエイミーが落ち着くまで休憩して。
ストックも助手席に移って。
それから、サンライトビリオンを走らせて。
何も出遭わない魔境を行くことしばし。
遠くに、緑の魔力流に包まれた逆三角錐が見えて来た。
「あれがドーンね?」
座席の間から、エイミーが身を乗り出してきた。
「そうだよ。まぁ珍しくもなかろ?
聖域自体は、よほど古くないと見た目変わんないし」
左手の人差し指を振りつつ、ちっちっちっとか言いやがった。
躾け直してもらってこい、皇女め。
「ハイディにゃわかんないかなー?」
「いやわかるけど。下の構造は第五世代で一緒だから、上の外壁が違うんでしょ?」
エイミーがにやにやしている。
ほんと、高位貴族では、礼法をぶん投げるのが流行ってるのか?
「そ。帝国は聖域だらけだから、そこに自己主張があんのよ。
王国建造の聖域も、そこんとこは一緒みたいね」
「規格を統一したのはえらいが。
だったら最初っからそういう自己主張するとこも、作っとけばいいのに」
「仕様通りに作らないと怒られるでしょー?」
「まぁそうだねぇ。上はお客のものだから、好き勝手やっていいけど」
聖域の大部分たる船の中核は、基本的に設計書通りに作られている。
聖域ごとの特色が出るのは、上物の街のとこだ。
「中はどうなのかしら?
私、構造は知ってるけど、入ったことはないのよね」
「うーん、あんまどこも変わらんよ?
機関部だから、大して弄られてもいないし。
ボクが入ったことがあるのは、四か所だけだけどね」
「四つも!?」
多い方だろうか……?
複数の聖域を管理する、帝国貴族なら普通にやってそうだが。
いや、帝国にゆかりのないボクが入ってる数としては、そりゃ多いがね?
「ドーンとユリシーズ。あとは前の時間のときに、帝国で二か所。
ユリシーズはメンテまで手伝わされたから、隅々まで知ってる。
ねぇストック?」
「ほんとに隅々までやったな。
ハイディは嬉々としてやっていたが、私はもうごめんだ」
そう言いつつ、ボクがやってたら絶対手伝ってくれるくせに。
「なんで?そんなに大変だったの?」
「ユリシーズは、タトル公爵領で作られた隠し聖域。
それがいろいろあって、王国に譲渡されたんだよ。
まぁ……管理が杜撰だった。最初はひどいものだったよ」
「そんなに……?」
「そんなに。
部材の発注をやることになったストックが、げっそりするくらい」
助手席のストックを見ると、思いっきりげっそりしていた。
思い出すのも嫌なのか。
「大して使ってないのに、痛んでるところだらけでな。
予備の部品すら積んでなかった。
おまけに、仕様にないものを適当に使ってたりもしてな……。
ハイディがいなかったら、廃船になっていたかもしれん」
「え?ハイディがいたから動かせてるってこと?
なんで??」
「ボクが元の設計仕様を網羅してるから。
部品から何から何まで、正規のものを知ってる。
だから現物を無視して、然るべきものを頼んでもらった。
それで問題なく稼働するようになったよ」
「神器構造の研究って、伊達じゃないのね……」
もちろん。
ついでに、ボクは脳の魔素制御のおかげで、記憶力がとってもいい。
だがそうは言うがねエイミー。
ロマンとか言い出すやつは、ボクの経験上、だいたいやばい奴なんやが。
「君だってそういう口なんじゃないの?エイミー」
「いやいや、私なんてまだまだ」
「戯れに聞くがエイミー。
人が近づくとトリガーを出して、警報か何かを発せられる魔道具はないか?」
「それなら共和国製のGPACEの2型か5型が使えるわね。
帝国東部の、ゲーリーって名前の由来がわかんない大型魔道具でもいいけど。
何に使うの?」
「「…………」」
同じ穴の狢やった。
なんで国をまたいだ細かい魔道具製品が、これだけの情報ですらすら出てくるんだよ。
この半島、そんなに遠くの情報を手に入れるの、簡単じゃないんだけど。
移動は神器車、神器船、魔導船のおかげで平易になってるけど。
情報伝達は、そうじゃないんだよね。
あるのは、緊急通報の魔導くらいだ。
魔導の基礎として、視線で起動するという点があるので、遠くに効果をもたらすのは苦手らしい。
神器船の転送路は遠くに効果を及ぼす代物だが、あれ魔導じゃないしなぁ。
まぁ転送路のおかげで、国家間・大都市間の手紙のやりとりは、だいぶ期間短縮されてるそうだが。
結局、そこから下と素早く情報をやりとりする手段が、ないんだよね。
「街中を神器車で行くとき、人に気をつけないといけないでしょ?」
「ああ、そういう接近報が欲しいのね。ならGPACEの5型に使われてる魔導ね。
たぶん、神器車に込めるとめっちゃ高いけど」
「だろうねぇ。人の目の代わりをするような奴だし。
むしろよく共和国はそんなの作ったね?」
「まさにそういう魔道具よ。監視用なの」
「なるほどね。そりゃ高くつくわ」
一つだと、視線一つ分だろう。
周り中を監視となれば、多数を込めないといけない。
どれだけの値になるのやら。
しかし、視線、ねぇ。
次の投稿に続きます。
#本話は計8回(16000字↑)の投稿です。




