表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/518

3-3.同。~大公家に滞在。夜、君と二人~

~~~~ボクを助けたくてここにいたとか、前のめりだな君。


 お休みの段になって。


 なぜか侯爵令嬢と同じ客間にぶち込まれた。


 なぜだ。常識はどこに行った。



 探してもなさそうなので、仕方なくとっとと寝巻に着替えてベッドに入った。


 …………四歳児の体には十分でかいけど、一つしかないのはなんでだね。



 ストックはまだ髪を乾かしたり、整えたりしている。


 長いと大変だな。今のボクは、肩にも届かない。楽でいい。



「どうした。さっきから納得いかない顔をして」



 布団から顔を出してるボクを、ストックが見てる。


 …………確かに、納得はいかない。


 けど、今顔に出ているボクの気持ちは、もっとふわふわしたものだ。



 正直、嬉しいんだけど……落ち着かない。


 会えるならもっと先だと思っていたし。


 会えたとしても、それは「ストック」じゃなかったはずだ。



 今この時が、あの山頂の続きのような気がして。


 この気持ちは、何といえばいいんだろうな。



 掛け布団にため息を隠して、応える。



「今のボクはよくて平民。普通に孤児の扱いだろ。


 なぜ侯爵令嬢と一緒の部屋に入れられたんだ」


「高貴な身分を名乗っても、問題なさそうだったぞ?


 ……美しい礼だった」


「……誰のせいだと思ってるんだよ」


「お前が素直ないい子だったからだろ、ハイディ」



 相変わらず、絡めとるような言い回しをしよる。


 ちなみに、こういうやりとりおよび、ボクらの距離感は前からだ。


 学園の頃は、そりゃあストックは女公爵だったから、お互い口調はもっと丁寧だったが。



 一緒に勉強したり研究したり丸羽鳥追っかけたり、酒飲んだり、結構仲はよかった。


 最初は礼儀がなってない平民め、ってめっちゃ怒られたけどね。


 丁寧なご指導もついでにいただいて、助かったものだ。



 『ラリーアラウンドのストック』と王都で衝突して、止めてから。


 数日だが、一緒にいたことがあって。


 今のノリは、その頃を思い出す。



 たぶんストックは、ボクの一番の仲良しさんだ。



 あの後、彼女を見送って別れたことを、ボクは正直後悔している。


 船を降りた後、迷惑を顧みずに彼女の元を訪れなかったことも。


 ほんと、遠回りしてばかりだ。



「いい子は辞めたから、その答えでは納得しない」



 確かに素直に聞いたけどさ。君の教え方がうまかったんだよ。



 しかし、ほんとに使用人すらいないのはなんでだね。この子は侯爵令嬢だったはずやで?


 あれか。あれだな。ボクにやれってことか。そうだろ。


 よーしやってやる。



 ベッドから這い出て、背の低い椅子に座ってるストックの横に回る。


 彼女が持ってるタオルの端を手に取って、後ろ髪を少し上げて柔らかく撫でた。


 この辺拭くの苦手なの、前もそうだったっけ。さっきお風呂で、使用人の方にやってもらえばよかったろうに。



 …………背もたれがないからって、ボクにもたれかかんなし。


 髪拭くのには支障ないから、別にいいけど。


 布で静かに、髪の水気を吸っていく。



 しばらくそうしていると、鏡台の鏡の向こうの彼女と、目が合った。



「なんで戻ってきた、ハイディ」



 ……迷い、惑い、でも聞かずにはおれない。そんな表情をしているように、見える。


 嬉しいような、不安なような。遠くを見ている、ような。


 とても複雑で――君はなんでそんな情緒になってるんだね。



「……ストックに死なれたショックで」



 吹きやがった。なんでや。


 ……ボクは正直に答えたぞ。


 髪、わしわししてやろうかしら。



 …………。


 すごい晴れやかなお顔になったから、許してやるか。


 お返しして、失礼は忘れてやろう。



「君こそ、なんで戻ってきた」


「せめて唇でも奪ってやろうと思っていたのに、その前に石になられた。


 未練のあまり、気づいたら赤子に戻っていた」



 今度はボクが吹いた。


 なんてこと言うんだこいつは。


 ……なんでもっと早く言わなかったんだよ。



 今じゃ遅いし、早すぎるだろ。


 気を取り直して、髪を拭きながら応える。



「そんなセリフは、せめてあと10年くらいしてから言え。


 ボクらまだ4歳やぞ」


「10年したら聞いてくれるんだな?」


「今のままだと聞くだけになるよ?」



 ストックが少し驚いた顔をして、穏やかに笑った。



「手強い女だ」


「何言ってんた。君、別にそんな手練れちゃうでしょ。


 女貴族やってるのに、伴侶も婚約者もいなかったし。


 むしろ組織でも学園でも、友達すらいないぼっちだったろう」



 ストックはめっちゃ美人だし人当たりも良い方だ。


 だが異性には引かれていたし、同性には遠巻きにされていた。


 ラリーアラウンドのことを知ったからわかるが、この子は学生にしては成熟しすぎてたんだよね。



 当然、学園で周りと合うわけがない。


 なお組織からは崇拝気味の扱いを受けていたので、別の理由でぼっちだったらしい。前に本人が言ってた。


 帝国貴族として、縁談を組むという状況でもなかったろうし。



 この状態で恋愛経験があったら、びっくりである。


 案の定、むぐぐってなってる。ういやつめ。



「んぐ。……では手弱い私に、何が要るのか教えておくれ。


 ほしいものがあるのなら、必ず贈ろう」


「そんなもの、ないよ」



 その銀色の髪を、右手でそっと撫でる。



「ボクがほしいものなんて……もう、ここにぜんぶある」


「……手強い女だ。とても敵わない」



 タオルで髪の付け根をくしくしして、湿り具合を確認してから……身を離す。


 …………上がった心拍を聞かれそうなので、ここまでにしとこう。



「それはそれとして、ボクは別に女の人を好きになるわけじゃないし。


 10年後にそのまま突っ込んできたら、はっ倒すからね?ストック」



 呆気にとられる彼女をほっといて、さっさとベッドに入りなおす。



「…………男になるのは、さすがに難しいと思うのだが」



 その気に仕方はどうなのさ。


 というかそんな弱った顔すんなし。



「……うーん、そういう話じゃなくてね。


 ほら、おいでストック」



 奥の方に寝転がり、彼女側の掛け布団をめくってやる。


 ストックは髪の湿り気を確かめてタオルを置いてから、立ち上がって、迷いながらベッドにやってきた。


 入ったところで、布団をかけてあげて…………そこまで近づいていいとは、言ってない。



 しょうがないやつめ。


 ……赤子に戻ったって、言ってたもんな。

次投稿をもって、本話は完了です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――

幻想ロック~転生聖女は人に戻りたい~(クリックでページに跳びます) 

百合冒険短編

――――――――――――――――

残機令嬢は鬼子爵様に愛されたい(クリックでページに跳びます) 

連載追放令嬢溺愛キノコです。
――――――――――――――――
― 新着の感想 ―
[一言] 二人はこんなに早く出会った。しかも、ストックが前世の記憶を持っているなんて。意外でし 4歳なのにとても頼もしいの感じ、見ている間、ずっと自分に言い聞かせていた。「彼女たちはまだ4歳だ」と。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ