9.魔境を南西に渡り、聖域ドーンへ。
――――出会いに感謝してるのは、こっちだって同じだよ。よろしく、新しい友達。
午後遅く。
夏ゆえ、まだ日差しは高い。
明るく、砂の吹く荒野をひた走る。
神器車を一台けん引しているが、元々魔力流で走るから、あまり速度に影響は出ていない。
エイミーは――
「そーなのよ!もうやってらんないわよね!」
「まったくだ。他国を侵略してる暇があったら、食卓に金を掛けろ」
「ほんとほんと。……あー、おいしい。染み入る」
すっかり馴染んでいた。
誘導するまでもなく、ストックに何もかもぶちまけている。
後部座席の二人は、結構楽しそうだ。
あれだな。半島南部の甘味は、帝国淑女によく効くんだろう。
彼女の本来の名は、ラスト・クレードル。帝国の第二皇女。
カレン・クレードル――ボクの友達のメリアと知り合いだということで、呪いの子のことは話した。
メリアとは、彼女が3-4歳の頃、よく話したり遊んだ?りしたらしい。
その時に、メリアが『カレン・クレードル』の様々な記憶を持っていることも、聞いたと。
皇女同士で仲が良いとは、珍しいような気もするな。
しかもそこまで秘密をぶちまけているとは。かなり仲良しさんじゃないか。
で、前の時間で帝国貴族だったストックと、愚痴で盛り上がっている。
そもそも、ストックは前の時に面識があるそうだ。
ボクは知らない子だから、完全に初対面だ。
「簡単なものですみません。
ドーンについたら、少しはおもてなししましょう」
「そんな気を遣わなくていいのよ、ハイディ」
「ああいえ、御立場に気を遣ってるとかではなく。
……飢えた帝国人はほっとけなくて」
「ありがとう。王国人のやさしさが染み入るわ……」
しんどい目に遭ってた友達のメリアとか。
食い詰めた人たちのために立ち上がったストックとか。
どうしてもその辺が、頭をよぎるんだよねぇ。
「ところでエイミー。聞きたいことがあるんだが」
「何かしら、ストック」
「君は前の時間の時は、神器を使う人ではなかった。
神器車を運転している以上、結晶ができているはずだが。
それはどこだ?」
「ごめんなさい、ちょっと見せられないわ」
まって。
「見せられないところにできてて、神器車は運転できるんですか?」
本来、神器は体にできた魔結晶と接触させないと、起動しない。
起動時だけ接触させればいいから、変なとこにできてても使う手段はあるんだけどね。
間接的な接触を行わせる手段もあるし。
でもさっきの神器車、キーボックスまわりにそんなものはなさそうだった。
となると、やはり色付きの結晶がある、とみるしかない。
しかし……あの結晶があって、ガス欠を起こした?
この人、どんだけの距離を休みなく爆走してきたんだ??
「そこはよくわかんないのよ。でも、普通に運転できるわね。
げーむ?とか、よくわかんないものまで流れ込んでくるし」
またかよ。
うーん。色付きと思しき結晶を持ってて、名前がある。
なら大丈夫かね。
少し速度を緩めつつ、首を回す。
ストックと目の端が合って。
頷き合った。
「そこまでわかるなら言ってしまいますが。
エイミーは『揺り籠から墓場まで2』の悪役令嬢なんですよね?」
ボクの中にある記憶では、ラスト・クレードルがそうなはずだ。
ただ、ボクに入っているのは1の情報が主で、はっきりしないところが多い。
次回作の関係者だとするならば……ちょっといろいろ確認したい。
「違うわよ?それはエンヴィー。あの子はまだ三歳ね」
あれ?違った。
ラスト・クレードルで合ってるはずなんだけど……何かあるのかな。
ボクが「2」に関係ないからか、ちょっと細部は分からなくて。
というか、2の主役はもう生まれてたのか。
となると検討してた、次回作の敵、ではないな……。
あれはどう考えても、いるなら突然生えてくるはずだ。
自然な生まれ方ではない。
んんー、んー……となるとこの人は、2の主役たちの導き手とかかな?
関係者ではありそうだし、同じ名前だし。
『ウィスタリア』からすると、エリアル様に当たる人、だろうか。
「ちなみに<エイミー>の名前はどなたから?」
「ふふ。連邦の王子からいただいたのよ。
お忍びで出てるときに巡り合って。
そこで呼んでいただいた……私の、本当の名前」
む……もしかしてあの方か?
「お忍びって……よく相手が王子だとわかりましたね?」
「後で公式の場で会っちゃったのよ」
帝国第二皇女と公式の場で会える王子かー。
あそこ、いろいろあって王族はそれなりにいるんだが。
外国向けに会わせてもいい立場となると、たぶんアーサー氏族。
王子となると……やっぱりダリアのお兄さまかなぁ。
お会いしたこともあるが、魂の名を当てられるとは。
彼女の兄だけあって、只者ではないのか。
「ひょっとして、ソラン王子ですか?」
「あら、あたり。なんでわかったの?」
あたりかぁ……そうかぁ。
「いえ、皇女と公式に会える立場、歳。
ならソラン・アーサー殿下かなと」
「詳しいのね?」
「その……妹の姫と共同研究してまして」
「あら、ダリアちゃんのお友達って、あなたなの?」
なんですと??
次の投稿に続きます。
#本話は計4回(8000字↑)の投稿です。




