8-6.同。~きっと忘れられない出逢い~
~~~~魔物は正直余裕があったが、救助はぎりぎりだった。危なかった。油断できねぇな。
女性は、割とすぐに目を覚ました。
欠乏直後に治療に当たれたのが、よかったみたいだ。
ビリオンは停車中。ドアや窓は閉めて、多少走行用の魔力流も出してある。
さっきの今だから無いとは思うが、おかわりが来ないとも限らない。
魔境とは、そういうところだ。
とりあえず体調とか聞かないとな。
「果実水です、どうぞ」
「ありがとう……」
後部座席の背もたれをしまい、広めのスペースにして三人で座っている。
運転席下から取り出したボトルを、彼女に渡した。
女性はボトルを素直に受け取り、中身を喉に流し込んでいく。
声が弱弱しい。大型の魔物に追っかけられた上、ガス欠だもんな。
あれ、かなり体に来るからねぇ。きっついんだよなぁ。
なお、結晶の中のエネルギーはよくわかっておらず、実は正式名称がない。
魔力でも魔素でも魔力流でもない。
計測はできるが、既存のエネルギーとは似て非なるものだとか。
欠乏時にガス欠と言われるのは、俗称だ。
一応、結晶力とか結晶出力とかなんとか呼ばれてるはずだけど、いまいち定着しないらしい。
ボクは結晶出力、または単に出力と呼んでいるけど。
「あなたが落ち着かれるまで、このまま休憩のつもりです。
体調はいかがですか?」
金髪で――赤い瞳の女性が、こちらを見る。
ビオラ様に似てるけど、微妙に違う。
金というか……不思議な色だな?薄く桃色が入ってるような?
歳は成人……15前後じゃないかなぁ。
ストックがなるべく見ないようにするくらいには、魅力的なお体の持ち主だ。
この凹凸は、単純に動くだけでも大変だったりしないんだろうか?
前もド平坦だったボクには、ちょっと想像がつかない。
着ているのは綿や麻ベースの平民服だが……。
おろしたてなのが丸わかりだし、貴族、かなぁ。
いや商家の娘ってこともあり得るが、さすがに一人で魔境爆走はしねぇだろ。
貴族ならたいがい魔導を使えるから、女性一人で魔境に来るのもないではないが。
平民じゃ防衛手段は限られるんだよね。
もちろん平民の魔導師もいるが。
貴族とその子が、ほぼ全員魔導師だとすれば。
平民出身魔導師は、その代の親戚一同に一人いれば多い方、だな。
もちろん商家の娘の方が、八歳の幼児が二人旅してるよりは、現実的な話だ。
「大丈夫。すぐ動けるようになると思うわ」
「それは何よりですが……お急ぎですか?
どのみち、あなたのクルマは動かせないと思いますが」
結晶出力の欠乏は、二~三日は戻らない。
魔素欠乏より、回復が遅いんだよね。
しかもいったんガス欠になったら、完全に回復するまで何のエネルギーも出なくなるんだよ。
その間、この方は運転できないだろう。
「ん……そうね」
――――でも、早く行かないと。
何かつぶやいていらっしゃる。事情がおありのようだ。
ストックを見る。彼女もこちらを見ていて、目で頷いた。
「どちらを目指しておられたんですか?」
「えっと、連邦だけど……」
連邦……。
王国寄りから来てたんなら、ボクらと同じ道だし、さすがにわかる。
となると帝国からかな。例えば、連邦の南部を目指すなら、このルートだろうな。
帝国の西方だったらそのまま南下するだけなので、帝国中央以東から連邦南部へ移動中、かな。
魔境中央を念のため避け、北から山脈沿いに南下。
南端の海沿いを回りながら、西を目指すルートだ。
すごい遠回りなんだけど、この辺なら王国がほとんど魔物を掃討しているから、安全なんだよね。
なぜかこの人はナーガナーガに遭遇して、しかも追いかけられてたけど。
「少し寄り道をしますが、ボクらの目的地もあちらです。
ひとまずクルマをけん引しつつ、魔境南西に停泊中の聖域ドーンに行こうと思いますが。
いかがですか?」
「え、いいの?」
女性はとても驚いた様子だ。
……もし帝国貴族令嬢なら、人の善意が信じにくいのは無理もないな。
あそこの貴族は王国や連邦とは違う。
んー……およそ人のイメージする、搾取層の貴族、がだいたい当てはまるかな。
高貴な血筋を標榜するのが、連邦貴族。
蛮族も真っ青な戦略兵器が、王国貴族。
生きるのに必死な農地領主が、聖国貴族だ。
半島の国家では、共和国だけは貴族制度がない。
「魔境では生存が第一、人助けが第二。ほかは些事です。
ご助力いたしますので、気になるなら落ち着いたら返してください。
別に変な請求しませんから、ご安心を」
「ありがとう……世話になるわ」
ん。よしよし。
「私はら……エイミーよ」
……隠したいのは分かるし、まぁいいか。
「ボクはハイディです。こちらはストック」
「ストックだ。よろしく」
「ええ、よろしく。えっと二人はまだ……」
とても気になる感じの目で見られてる。
そうよね。どうみても幼児だし。
「八つですね。そちらと同じで、事情があります。
ああ、家出とかではないですよ?
仕事が終わって休暇をもらったので、二人旅してるだけで。
ボクらの保護者というか上司というか責任者とは、ドーンで落ち合う予定です」
「仕事……その年で、すごいわね」
「ありがとうございます。
でもボクなど予算を食いつぶすばかりなので、よく怒られています」
「まぁ」
嘘は言っていない。
予算で主題に関連ありそうなモノを勝手に買って、あとでストックに窘められてる。
本とか。クルマとか。調理器具とか。
計画を詰めてプレゼンして、出資者から予算をもぎ取ったのもボクなので、大目に見ていただきたい。
ストックが安く工材仕上げてくれたから、予算がだだ余りしてるだけなんです。
だから功労者が喜ぶものを用意してるだけなんです。
信じて。
そして利益はちゃんと出資者に還元するから、許して。
それはさておき。
「少し飲食物を出すから、ストックはまだついててあげて。
魔境でピクニックは難しいから、補給したらとにかくドーンに向かおう。
まだ早い時間だし、飛ばして行こうか」
「わかった。
……また何か買ってないだろうな?」
「内緒」
ボクは口元に人差し指を立てて見せてから、運転席に向かった。
よし。この様子なら、発注した魔導家具の存在は、ばれてないな。
ま、ボクに内緒で聖域作ってたのと、お互い様ってことで。
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