表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/518

8-5.同。~災いの箱よ、開け!~

~~~~呪文の力は使えない。だが……三年も時間があったんだ。見せてやるよ。


 バックミラーに、ちらちらと紫の巨体が映る。


 そういやこいつ、鬼のような角があるんだよな。


 特に意味や能力はないらしい。よくわからん造形だ。



 挑発するようにたびたびアクセルを吹かし、距離を保つ。


 追われていた神器車とは……多少距離がとれたな。


 こちらに蛇が間合いを詰めて来たタイミングで、再びロケットスタート。



 距離が離れ切ったところで、準備に手を付けた。


 胸元のロザリオの淵で、右手親指の腹を、切る。


 少し座席を前に出し、奥のキーボックスに鮮血を押し付けた。



「『災厄よ(Calamity)来たれ(call)』!!」



 サンライトビリオンの追加装甲が細かく分裂、展開。


 呪いを生み出す、禁忌の箱が――開きだす。



 外殻の魔力流に干渉。


 ボクの魔力流制御により、無数の神器が中空に散り、車体を真球状の魔力流で囲む。


 その内が、魔の力で充実していく。



━━━━『天の(Work)星よ(sorcery)。』



 ふふ。テンションが上がってしまう。


 これは呪文ではない。魔導……魔術の詠唱。


 濃密な魔力流を生み出す機構の生産する、余剰魔力をもって魔導を成立させる。



 えっへっへ。魔力なしのボクが、魔導を使えるなんてな!


 人類の技術は素晴らしいね!



━━━━『一二三四五六七八九十(Invert)。布留部、由(the)良部、祓い給え(Magic)!!』



 ダリアと開発した、呪い化の魔導。これが呪装火砲の本体だ。


 呪いそのものを作ることはできなかったが、魔導を呪いにする効果がある。



 車体の魔力流が、赤く染まる。


 この赤い光を通った魔導は呪縛を受け、呪いの力となる。



「いいぞストック!やれ!」



 タイミングもほぼばっちりだ!


 ナーガがこちらに突っ込みつつ、口を開けた。



 ストックがブローチの淵で左手の親指を切り――その手を扉のコンソールに押し付ける。


 魔結晶ができたところの周辺の血は、神器への命令伝導を飛躍的に押し上げる。


 火が炎になるほどに、爆発的に。



「燃え尽きろ!オーバードライブ!『再生の炎(fire bird)』!!」



 祈りの力(魔導)が反転し、呪いの力(呪法)になっていく。


 二つは表裏一体。祈りは、呪いに裏返る。



 サンライトビリオンが、まさに火の鳥と化す。


 不思議と車内は熱くない。


 そして鳥が魔力流に触れて巨大化――魔導拡大が起きたのだ――し、飛び立つ。



「こっ、自動で拡大もするのか!?滅茶苦茶だろう!!」



 ストックが悲鳴のような感想を上げる。


 でも実は、これでも最大出力ではない。


 機能が一つ使えてないんだよなー。術者があと一人は要るんだよ。



 火の鳥が後方に放たれる。


 そのまま見事に、ナーガの口腔に飲み込まれていった。


 一気に尾まで駆け抜けたのか――その鱗を突き破って、無数の爆発が巻き起こる。



 魔物は、大型になればなるほど魔導が効かない。


 だが、やつらも用いる力である、呪いは通じる。ボクらの呪法や呪文が有効打だ。


 その着想を用いて――魔導を出力そのままに、呪いに反転させたのが、この呪装火砲。



 使用する攻撃魔導とは別に、戦術魔術並みの起動制御が必要な、補助魔導を使わなければならない。


 その点は欠点だが、二人以上の魔導の使い手が介在すればこのように……大型の魔物でも退治できる。



 轟音が鳴り響き。


 蛇の巨大な躯が出来上がった。



 ゆるやかにブレーキを踏んで、クルマを止める。


 さて。向こうのクルマは……あれ?



「さっきのクルマ、どこ行った?」


「ハイディ、あっちだ」



 ストックが指さした方に……神器車が止まっている。


 なんで?



「なんだろうな。故障か?」



 …………あ。


 あることに気づき、嫌な予感が全身を駆け抜けた。


 急にクルマが止まるのは、危険信号だ!



「ストック、運転頼む!あのクルマに寄せて!」



 言ってボクはクルマから飛び出し、袖を口に含んだ。


 雷獣を起動し、駆け抜ける。



 その神器車の赤いボディカラーは、徐々に消え始めていた。


 最大速で辿り着き、急いで運転席のドアに手を掛ける。


 ロックが外れてますように!



 ……よし、開いた!



 中の人――女性は、ぐったりしている。


 緊急退避の機構が働いたんだな。ベルトも外れてる。


 彼女の背中側から、両脇に手を差し入れて連れ出す。



 彼女の全身を引きずり出し、少し下がったところで。


 ……クルマはただの石に戻った。



「大丈夫かハイディ。その人は?」



 ビリオンが到着、ストックが降りて来た。



「まずい。結晶出力の使いすぎだ。


 ビリオンに救命道具を積んでただろう、出してくれ」


「ガス欠か。わかった」



 神器車は、人間の結晶の中のエネルギーを使って動く。


 使いすぎるとクルマは動かなくなるばかりか、石に戻ってしまう。


 人間の方は、だいたい気絶する。



 先に石に戻られると、外からの救助手段がなくなる場合がある。


 危なかった。



 とりあえずビリオンの背面扉を開けてもらって、そこから女性を車内に入れる。


 人を横たえられるくらいの、スペースを作ってある。


 短い旅だと思って、あんま荷物詰め込まなくてよかった。



 魔境でこんな事態に出くわすなんて、何年ぶりだろうか。前の時間以来かな。


 ここは魔物がほとんどいない王国西方魔境だからな……ありがたい。


 他のところじゃ、救命行為どころか、クルマの外に出ることすら命がけだ。



 ストックが救命道具を持って、車内最後部に来た。


 呼吸器って言えばイメージ伝わるかね?


 圧を送り込むんじゃなくて、弱い治癒魔導で継続活性させるんだけど。



 ガス欠は根本的な治療手段がないんだ。魔素の欠乏とかと同じ。


 体に深刻なダメージが出ないように、生命維持して本人の回復を待つほかない。


 救命道具でなんとか意識まで戻れば、あとは時間が解決してくれる。



「ごめん、任せるよ。クルマ自体を稼働するから。


 ユリシーズに戻った方がいいかは、ちょっと悩むところかな」


「そうだな」



 運転席に戻り、扉を閉める。


 背面の扉も閉めてロックした。



 あとは休憩しつつ……しばし待つか。

次投稿をもって、本話は完了です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――

幻想ロック~転生聖女は人に戻りたい~(クリックでページに跳びます) 

百合冒険短編

――――――――――――――――

残機令嬢は鬼子爵様に愛されたい(クリックでページに跳びます) 

連載追放令嬢溺愛キノコです。
――――――――――――――――
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ