8-4.同。~魔を払う切り札は呪い~
~~~~ごめんねストック。機会はまた……必ず。
ああそっか、ごめんね。
ボクのこの性質のことは、まだ君には言ってなかったんだもんね。
せっかくだから、こっちを見ておけばよかったのに。
そうすれば、また君の虜になった女の蕩けた顔が、たっぷり見れたに違いないよ?
とはいえちょっと、胸が痛むな……。
君は真剣だもんね。ボクばっかり、変に悦んでちゃいけない。
できれば、向き合ってあげたい。気持ちを汲んであげたい。
うーん、どうしたもんか、それは。何か、考えておこうかな。
それにしても。
遠くに見えるあれは……。
「おい。やっぱり逃げちゃわない?これ」
「ナーガナーガだな。陸にもいるんだったか?」
「普通陸らしいよ。稀に海に落ちて、戻れなくなるんだって」
「ほー」
紫の鱗の、巨大な蛇が遠くにうねっている。
砂の中を出たり入ったりしてて、その巨体のほとんどは見えないが。
長い間、邪魔じゃないか?と言われていた魔物だ。
だが繁殖するとわかって、この説は覆された。
邪魔は、子を設けない。単独で完成した――生き物にあるまじき何かだ。
「あー。弱ったな。無視が一番いいんだけど……」
「ちょっとこの状況でそれは、難しいな」
何せ。
その蛇から必死で逃げている様子の、神器車が目に入ってしまったから。
クルマは西に向かって、おそらく最高速度で走っている。
とはいえ、あの巨体の蛇の前ではその程度の速度など、歩いているに等しいな。
「三年前と同じか。魔物が自殺祈願期に入ったと見える」
「いやな名前つけないでほしいんだけど??
ほんと、神器車に突っ込んでく魔物とか、勘弁してほしいわ」
三年前、ボクらはこの魔境でバジリスクに遭遇している。
大型のトカゲで、その額の瞳で睨んだ対象を石にする。
魔物だから、魔力流を発する神器車には向かってこないはずなんだが。
今のあの蛇と同じで、なぜか全力で追いかけて来た。
「大型だと、超過駆動でも厳しいか?」
「厳しいどころじゃない。
君、フェニックスで痛い目に遭ったことあるだろ?」
前の時間、王都から離れ、二人で一緒だった数日。
そこで大型の魔物に追いかけられた。
あれは大変だった。
「ああ、あったあった。全然効かなかったな。
どうする。お前の自慢のドライブテクニックでなんとかするか?」
「呪文の力はボクも君もないし、そうしたいところではあるけどさ。
あれをやろう」
「あれ??」
「君にも説明はしてるじゃないか。
――――ビリオンに積んだとは、言わなかったけどね」
ストックが、やっとこっちを振り返った。
残念。シリアス展開に戻ってきたので、サービス期間は終了です。
「は!?呪装火砲を積んだのか!!」
呪装火砲。
ボクがこの三年で、ダリアとの研究で作り上げた、対魔物の切り札だ。
呪いとその解除研究の最中に、編み出すことができた。
そのものは、魔術制御で起動する特殊な超過駆動。
ダリアが補助に用いる魔術陣に近い構成で、多重の魔導起動を踏む、難解な代物。
一部を超過駆動に組み込むことで、発動を容易にしている。
効果は、発動後に展開する膜を通った魔導すべてに呪縛の性質を与える、補助魔導だ。
複雑な上、補助なのに燃費が悪い。
代わりに、呪いに変えるにあたって魔導の出力を一切落とさない。
またそれを放つために、魔石神器の追加装甲をビリオンにたっぷりとつけた。
この装甲の展開によってさらなる魔力の生成・確保ができ、火砲使用の必要量に足りる。
ただ展開するための超過駆動も、別途使わないといけない。
本来は呪装火砲だけでも、二人がかりで行う設計だ。
その上で、攻撃魔導の超過駆動を撃つ人間が別に要る。
ボクは一人でもなんとか、装甲展開と呪装火砲の二つの超過駆動を使用・制御できる。
そのため、ボクを含めて二人、神器使用者がいれば火砲を放つことが可能だ。
これでもダリアの弟子なんだよ、ボクは。魔導・超過駆動制御は得意な方だ。
というかストック、本気で気づいてなかったのか……。
なんでボクが魔石神器の余りを使ったと思ったんだよ。
サンライトビリオンは、普通の追加装甲なんて必要ないっつーのに。
そういや特に目的も聞かずに、ほいほい渡してくれたなぁ。
この子結構、ボクに甘くない?
「エネルギーは……」
「足りた。さすが伝説の神器車。
もともと、聖域相当の出力なんだから、当然だよな」
「えぇ~……」
「ストック。最後の超過駆動を任せる。ボクはそっちまで制御できない」
これもまた、発明の一つだ。
三年前、メリアとの会話の中で出た複座式。
その延長で、搭乗者全員別々に、一台の神器車・神器船から超過駆動を行えるようにした。
本来は神器車などの超過駆動は起動者……この場合は運転手のボクしか行えない。
まぁこれは制御の都合だけだったので、大したブレイクスルーなく実装できた。
おかげで、超過駆動による補助魔導の使用も、意味のあるものなっている。
また余談だが、神器そのものを増やしているおかげか、超過駆動そのものも複数種入れられている。
この使い分けも、地味に便利なんだよな。戦車らしい活躍ってやつが見込める。
しかし――ふふ。これもまた共同作業ってやつかね?
ストックと一緒にやったことは、たくさんあるけど。
戦闘では珍しい。ちょっとわくわくする。
「わかった。もうどうとでもしてくれ。
最大火力で焼いてやるとも」
ストックがため息をつきながら、窓を閉めた。
よし、やってやろう。
ストックも、八つ当たりする気満々だしな。
呪いの力がなくなろうとも。
ボクらは研究者であり、技術者だ。
知恵と道具で、乗り切ってやるさ!
「まずはあいつを引きはがして、こっちの後ろにつけるぞ!」
シフトレバーをニュートラルに戻し、アクセルをベタ踏みする。
ボクの愛車が気炎を上げる。
「――――いくぞサンライトビリオン、閃光のように!」
ハンドルとシフトレバーを細かく操作。
ロケットスタートしつつ、円を描くように回り込んでいく。
ナーガと神器車の間に割り込み――そこでやや減速。
もう一度、砂煙を上げつつ、派手にロケットスタート。
…………どうだ?
「ハイディ、奴の首がこっちに向いたぞ」
「Good。追いついてきたら始める」
次の投稿に続きます。




