8-3.同。~あとは約束の証をつけるだけ~
~~~~もう笑いそう。君ほんとすごいよ、ストック。ボクを娶るためだけに、そこまでするのか。
「動かす必要なんて、ないだろう?」
は?
つなげる気、ないってこと?
……あ。そういうことか。
「あ、あー!君頭いいな!
動くときばそれこそ、ばらばらに分離するのか!!」
「そういうことだ」
なんてこった。
そもそも都市建造なんだから、聖域一つ丸々を動かす必要はない、という割り切りだ。
その上で、緊急時は分離して逃げればいい。
負担分散されている機構だから、低位の神職でも一人で一つの中型神器船を動かせる。
神職を多く配置してさえおけば、あとは運用でカバーできるラインだ。
しかしなんて大がかりな話……いや、そういうことか?
……ちょっと見えて来たぞ、これ。
王子たちが、なんで急に来たのか。
なぜそれで、予定を押し込めたのか。
「あー……これ、ファイア大公噛んでるだろう?」
「ああ」
「そうか。途中から、いやに魔石神器の供給が安定したなとは思ったんだよ……」
船に使う魔石神器の調達は、ストックに任せてたからなぁ。
ボクは責任者じゃなくて開発担当だから、ここの詳細は知らなかったんだよ。
鍛冶大公の異名をとるファイア大公に、外注したな。
向こうはその技術でさらに生産を行い、この王都引っ越し計画を進めた。
なお、責任者であるストックが、ボクに黙って技術供与するのは問題ない。
元々、王国がうちのスポンサーだ。ビオラ様始め、ロイド家の了解さえとれてればいい。
その辺、こやつがぬかることはない。
「どこで作ってたんだよ?」
「南西領だ」
「ああ、王家直轄の……。鉱山あるんだっけ。
魔石や工材をそこで調達して、ファイア大公が人をやってせっせと作ってたのか」
「ふふ。その通りだ」
「で、南西端から出港させて……この魔境で合体と。
なるほど。それでこの旅行に誘ったな?」
「ばれてしまったか」
嬉しそうに肩を竦めるなし。
ボクがエルピスに乗って海から行こうとしたら、場合によっては鉢合わせてしまうんだな。
ということは当然、ビオラ様も了解済みかー。
「王子たちをドーンに集めるのも、そのためか……。
今は国から出しておいて、後でその聖域に引っ越させるのか。
王都機能は精霊が引っ越す段までは移動できんが、それ以外は順次移動できる。
今の王都よりは、新しい聖域の方が安全だろうしな」
「実際の予定ではもう少し後だったんだがな。
そこはまぁ、既報の通りだ」
後、ね。当然、ボクらが連邦に行ってる間にやっちゃうわけか。
しかし。
聖域を作って、王都を引っ越しさせて、安全にボクの家族と会えるようにする、とか。
本当に……君はボクの攻略に余念がないな?
もうとっくにボクの心は君のものなのに……ボクのすべてを、幸福で埋めようとする。
君で埋め尽くそうとしてくる。
さすがだね……ストック。
「そう、か。ということはこの旅が終わった後。
やっと君を、ボクの両親に紹介できるね?」
王都が新しい場所に移れば、基本的に事件の再現等は無くなるだろう。
確証はまだないが、可能性は高い。そしてそれは、この旅で証明されるかもしれない。
そうすれば……ボクはボクの家族に、安全に会える。
当然再会の場で、公式にストックを、ボクの両親に紹介できる。
「ん……ああ」
まぁボクも、両親には初めて会うことになるんやけどね?
そして言い淀んでいたのは、やっぱりこっちが理由かね。ストック。
そりゃあ親に紹介できる段となったら、それはやっておかないとねぇ?
立場ある者同士の話なら、当事者同士がそうすることは一般的ではない。
だがやってはいけないわけではない。
むしろ、貴族令嬢の間では、密かに憧れがあるとかないとか。
「ストック……」
目を見て、促す。
助手席前についてるダッシュボードを、彼女が開ける。
まぁビリオンの助手席は君のものだし、入れとくならそこやね。
ふふ――――もらわれちゃう。
君のものに、されてしまう。
その証を……つけられてしまう。
「ハイディ……」
ちょっと早いけど。10歳過ぎるとややこしいことになる。
船作りも終わって。自由な時間も手に入って。
しばらくぶりの二人旅で。
なら、いましかないよね。
君は本当、最高――――
ストックがその小箱を手に持とうとした瞬間。
何か、揺れた。
「…………」
「…………」
ちょっと音もする。
「…………ストック。今の」
また。ほんの少し、振動がする。
これ、は。
神器車だからわかりにくいけど、地面の揺れだ。
ストックが取り出しかけていたものを、ダッシュボードに戻す。
そうして窓の外を振り返り……。
「あれ、か。南南西、距離は――まだ結構あるな」
「よし来た」
シフトレバーをかえて、アクセル。
ハンドルを回して――少し吹き出す。
「君はほんと、最っ高に間が悪いな!」
「今のは、私のせいじゃないだろう。
――――奴め、ぶっ飛ばしてやる」
彼女の目が、据わっている。
そして拗ねたように、ぷいっと完全に外を向いてしまった。
次の投稿に続きます。
#切りがいいので、残りは昼間に投下の予定です。




