8-2.同。~ダイナミック家庭問題解決~
~~~~ふふ。なぁんだ。いつものストックじゃないか。ボクの、素敵な人。
まぁ疑問に思うのは当然か?怒られると思ったんだろ?
ボクが聖域作りたいって、つい先日言ってからかな。
それをもう作ってしまったと。内緒で。
咎めるわけないじゃないか。
よくよく思い返してみれば、君は別に嘘を言ったわけじゃないし。
君の作った聖域は、君の思うアイディアが詰まってるんだろう?
むしろわくわくするよ。
きっとフェニックスみたいに、とんでもないものを作ったに違いない。
やっぱり君は、最高だよ。ストック。
その赤い視線から、目が離せなくなってしまった。
「三年前を思い出すね?『さてはばかなの?ストック』」
席を寄せて、左手を伸ばし――人差し指で、彼女の唇を撫でる。
「ぉ……『ぐ、私はだな』」
よく覚えてるじゃないか。
さすが、ボクと交わした言葉を忘れたことはない、と言い切った女。
「『誰がそこまでやれと言った。やりすぎだと言ってるんだ』」
そう言ってボクは、戻した手の人差し指に、そっと口をつけた。
「ん”!?…………あのときのは、そういうことか」
ストックが真っ赤になっている。
ふふ。何だ、気づいてなかったのかよ。
あの時だったら、ただいまのキスをしてもきっとボクは怒らなかったぞ?
「まぁ実際、やりすぎかどうかは、理由によるけどね。
なんで聖域を作った。
君は、作れそうだから作る、ってことをしないだろ?」
そういうのは、ボクやダリアがやらかすことだ。
ストックの場合、作りたいものをはっきり定めてから作る。
ただそのコンセプトがやばいだけ。
不死身の神器フェニックスはストックの発案だが。
「神器のもたらす負担を解消できないか?」というところから始まっている。
神器の負担とは主に、使用者が結晶化することと、神器自体が超過駆動で大きく摩耗することだ。
ここを解消するとはすなわち、魔力もいらず、石にもならず、砕けない神器ができるということ。
しかもできた。
その指針を推し進めて作った神器、聖人は今。
マリーの手元で猛威を振るっている。
「お前が、家族に安全に会える場を作ろうと思った」
は?
え、まって。
おまちになって。
「王都の引っ越し先として、聖域を作ったのか……?」
「そうだ。王都とは、王家精霊の住処だ。膨大な魔力が必要になる。
通常の聖域では無理だが、総神器構造で聖域を作れば、余剰魔力で実現できる計算だった」
「総神器構造は連結時のエネルギー減衰が深刻で、中型船以上にはできなかっただろ?」
「ああ。だから中型神器船を大量に作って、後からくっつけて聖域にする」
多数の中型神器船から余剰魔力を集めても、送信ロスでそんな高いエネルギーにはならんじゃろ?
あれ?でもまてよ?後から?
…………あ。
「ああ!魔力流干渉を利用するのか」
「そうだ」
神器車同士は事故らない、と言ったあれだ。
実際の現象として細かく見ると、実は単純な反発ではないらしい。
魔力流同士が干渉しあって、運動エネルギーを吸収。
その後、互いの魔力流が存続できる方向で落ち着いていく。
正面衝突した場合は、衝撃が吸収された後、少し離れて落ち着く。もう一度ぶつかったりはしない。
この応用で、内向きの魔力流を作った二つの神器を重ねると、ぴったりくっつくんだそうだ。
そういう実験がある。本で読んだ。
これを利用すると、神器船同士をくっつけて、より巨大な施設にすることが可能だろう。
そういう構想は、ボクも聞いたことがある。
ただ、やる意味がないんだよね。
多数の中型神器船を作ってくっつけるより、単純に聖域作ったほうが安いし。
くっつけたところで、何か得られるものがあるわけではない。普通は。
しかし、魔力流の発する余剰魔力を大きくしたいというなら、この方法で巨大な一つの魔力流を作るのは正解だ。
多数の中型神器船の余剰魔力を集めても、そのままでは送信ロスでかなりの魔力がなくなる。
けどその神器船を結合して作った大きな一つの魔力流の中なら、生み出した魔力はほとんどそのまま使えるだろう。理想的だ。
ボクらの総神器構造神器船でこれを行えば、大量の魔力を生産・使用できる施設になる。
通常の神器船だと、自身の施設を駆動させる分程度の魔力しか生まれないが、あの構造はかなりの余剰を作ってくれる。
だから、中型神器船パンドラでは、農地を作る予定なんだよね……。
これまでの神器船では、農地に魔力を回せなかったけど、あれならできそうだから。
そこを推し進め、王国……王都並みの土台にしてしまうわけか。
確かに、魔力豊富な王国の土地の代替には、なるかもしれん。
精霊だって住めるのだろう。やるなストック。
あれでもまって。
「おいストック。この聖域動かせないぞ?」
ただガワと魔力流が結合してくれるだけで、動かすのは神器船一つ一つになる。
外を接触させるだけだから、制御が統合できるわけではないのだ。
一つの聖域として、まとまって移動することができない。
そして制御までつなげてしまうと、またエネルギー減衰の問題が出てくるはず……。
次の投稿に続きます。




