表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/518

7-4.同。~そして少し、ボクと君の話~

~~~~悔いはないが……あいつもう一発ぶん殴っても、ボク許されるのでは?


 あ。動機といえば。



「ん、でも…………」



 ふと。あいつになんで船に来てるのか聞いた時の反応が、思い起こされる。


 あれ、ボクにって感じじゃなかったよなぁ。


 ……顔そっくりって話だけど、まさかなぁ。



「なんだ?」


「初恋……」


「は?」


「顔だけじゃなくて、好みまで似てたりして」



 現皇帝ともし好みが同じだとしたら、まぁあるかなぁと。



 ストックの表情がころころと変わる。


 そして顔の前で手を振りだした。



「いやいや。いやいやいやいや。


 さすがに年齢差というか……」



 おや。ちゃんと伝わってるようだな。


 まぁボクもないとは思うけどさぁ。


 男の子のことだし、そこはわっかんねーわ。



「初恋ってそういうもんじゃねーの?


 ボクはよーしらんけど。


 あと、メリアんとことだいたい同じ差だが」


「……………………やめよう」



 ストックが何かを大量に諦めた。


 気持ちはわかる。ここで考えたってしょうがないし。


 ボクら、他人の恋話は趣味じゃないしな。



 どうせボクらが興味を持ってるのは、お互いだけだ。



 そっとストックの……目を見る。


 彼女の瞳に、自分が映っている。


 ふふ。やっといつもの君の目に戻った。



 なんとなく、少し笑い合う。



「それよりハイディ、次の揚げを所望したい」


「おっとごめんよ」



 だいぶバットに溜まっていた。


 とりあえず迷い根という、穴が大量に開いた根菜の揚げをお口にぶち込む。


 薄切りにして揚げると、芋のようで、でも酸味があって、おいしい。



 …………今更だけど、当たり前のようにあーんを所望するよね、君。


 ほんのり照れながらも、全力で要求してくるので、とてもかわいい。


 恥じらいも確かにあるのに、それを素直な心で、強い気持ちで、乗り越えてくる。



 ほんと、君はいつだってボクに全力だね。ストック。



 ん……ってそうか。


 結局さっきのも、むかつくやつがボクに近づこうとしてたから激怒したのか。


 ボクがダン王子にぶちっといったのと同じだな。



 お互い、業の深い女だねぇ。



「……これいいな。なんだ?」


「迷い根だよ。旬ではないが、いい味だろう」


「辛くしてもいけそうだな」


「お、いいね。そろそろエール作ろうか」


「よし。火は見ておこう」



 お行儀悪いけど、ボクも迷い根揚げをつまんでから、ストックに交代。


 ジョッキを出して。アルコール飛ばしたエールは冷やしてあるから、あとは炭酸加えて辛み付けだな。



 …………。


 作りながら、少し迷い。



「ストック。やっぱり言うけど」


「なんだ」



 作ってきたエールレッドを持って、彼女に向き合う。


 ストックにもジョッキを持たせ、こちらのと少し角を合わせる。



「殺しちゃいそうだから加減するのは、弱いとは言わない」



 先の、彼女の呟きだ。



 邂逅したときのカールの顔。戦っている時のストックの様子。


 そのあたりから察するに、タトル領で会った時はストックが押し勝ったと見える。


 どうやってかはさすがにわからないが……点きに対しても、何らかの対抗手段があったんだろうか。



 すぐ戻せるって言ってたし、さっき初めて受けたわけじゃないのは確かだ。



 ただ、結晶化した彼を倒すとなれば、ストックの場合は殺害覚悟だったろうな。


 紫陽蛇獣の極震発勁は、破壊力に優れる。


 あのくらいの硬度の結晶だと、一撃粉砕だ。



 もちろん、中の人間は蒸発する。助からない。


 ストックは頼りになるが、対人を全面的に任せ辛いのよな……。


 ギンナと一緒だ。ちょっと強すぎるんだよ、この子も。



「……お前が鮮やかにやってるのを見ると、多少はそう思いたくもなるのさ」


「少なくともギンナは違うみたいよ。ただ『面倒』だって」



 言ってごくりごくりと赤いエールを飲む。


 揚げ物を食う。うまし。



 ストックもさくさくと食べ進んでいる。


 満足げだ。よしよし。



「ん……まぁそれもそうか」



 ストックも少しは納得したようだ。



 ギンナは自身の性質を踏まえ、先を目指そうとしている。


 きっと君だって、できるはずさ。


 だから、そう深刻にならなくてもいいと、ボクは思うよ。



「だが、適切な切り札がないのは、やはり心もとない」



 まぁその悩みもわかるがね?



「ちょうどいい切り札なんて、元々なかろ。


 どれもこれも過剰だ」



 ケダモノの力にしろ、呪法の発勁にしろ、人に向けるものではない。


 それでも戦うのであれば。


 持てる手札で、勝負するしかあるまい。



「お前の電撃は、ほどよく倒せるだろうに。


 加減が効きやすそうで、正直羨ましい」


「君だって、素の発勁はほんとにうまいじゃないか。


 きれーに昏倒させられて、実に鮮やかでいい」


「呪いを込めると蒸発するんだが?」


「魔物向けってことで」



 ストックが肩を竦めている。



「しかしああいうのや……魔導師が出てくると厄介だな」



 それは同感だ。


 特に魔導師は本当に厄介だ。


 確実に強い。そしてこちらは殺せない。



 んー……普通の「魔法使い」ってイメージの連中とは、違うんだよね。


 「超能力者」って言った方が近い。


 特に、精霊魔法使いはそうだ。



 ただ本当に恐ろしい魔導師は、その場でとんでもない魔導を編み上げてきたりする。


 まさに能力を超えたものを見せられる。


 魔術師も法術師も油断ならないし、時に魔道具技師だって近い存在だったりする。



 王国と敵対しない以上、警戒しなければならない水準は下がるんだけど。


 それでも何か考えてはおいたほうがいいだろうな……。


 ボクなら、例の点きをもっと磨き抜く方向だろうか。



「前の時は、首刎ねちゃえばよかったけどねぇ」



 気配を消して、死角から超過駆動。


 魔導を乗せつつスパッと行けば、それで済んだ。


 ちょっといろいろあって、元王国貴族の精霊魔法使いも、そうやって斬ったことがある。



 今はいろんな意味でできないが。



「王国民の幼児がやっていいことではないな」


「まったくだね。だからこの『面倒』は受け入れるしかない。


 その分暮らしやすいし、しょうがなか。


 こんなうまい野菜が食えなくなったら、嫌すぎる」


「違いない」



 ボクだって面倒だし、別に状況が許すならさくっとやってしまいたい。


 魔物に対してはそうしているんだし。彼らだって、飢えているだけで知的生命体だ。


 人間に対して加減するのは、自分が人の輪の中で生きていきたいから。



 ストックと二人なら、別にどこでだっていいんだけど。


 このさくさくの揚げ物がいくらでも食べられる国の暮らしは、できれば手放したくないね。

ご清覧ありがとうございます!


評価・ブクマ・感想・いいねいただけますと幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――

幻想ロック~転生聖女は人に戻りたい~(クリックでページに跳びます) 

百合冒険短編

――――――――――――――――

残機令嬢は鬼子爵様に愛されたい(クリックでページに跳びます) 

連載追放令嬢溺愛キノコです。
――――――――――――――――
― 新着の感想 ―
[一言] 蓮根みたいなもんかな?ポテチぐらいに薄く揚げられたのなら食えるんだがなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ