7-4.同。~そして少し、ボクと君の話~
~~~~悔いはないが……あいつもう一発ぶん殴っても、ボク許されるのでは?
あ。動機といえば。
「ん、でも…………」
ふと。あいつになんで船に来てるのか聞いた時の反応が、思い起こされる。
あれ、ボクにって感じじゃなかったよなぁ。
……顔そっくりって話だけど、まさかなぁ。
「なんだ?」
「初恋……」
「は?」
「顔だけじゃなくて、好みまで似てたりして」
現皇帝ともし好みが同じだとしたら、まぁあるかなぁと。
ストックの表情がころころと変わる。
そして顔の前で手を振りだした。
「いやいや。いやいやいやいや。
さすがに年齢差というか……」
おや。ちゃんと伝わってるようだな。
まぁボクもないとは思うけどさぁ。
男の子のことだし、そこはわっかんねーわ。
「初恋ってそういうもんじゃねーの?
ボクはよーしらんけど。
あと、メリアんとことだいたい同じ差だが」
「……………………やめよう」
ストックが何かを大量に諦めた。
気持ちはわかる。ここで考えたってしょうがないし。
ボクら、他人の恋話は趣味じゃないしな。
どうせボクらが興味を持ってるのは、お互いだけだ。
そっとストックの……目を見る。
彼女の瞳に、自分が映っている。
ふふ。やっといつもの君の目に戻った。
なんとなく、少し笑い合う。
「それよりハイディ、次の揚げを所望したい」
「おっとごめんよ」
だいぶバットに溜まっていた。
とりあえず迷い根という、穴が大量に開いた根菜の揚げをお口にぶち込む。
薄切りにして揚げると、芋のようで、でも酸味があって、おいしい。
…………今更だけど、当たり前のようにあーんを所望するよね、君。
ほんのり照れながらも、全力で要求してくるので、とてもかわいい。
恥じらいも確かにあるのに、それを素直な心で、強い気持ちで、乗り越えてくる。
ほんと、君はいつだってボクに全力だね。ストック。
ん……ってそうか。
結局さっきのも、むかつくやつがボクに近づこうとしてたから激怒したのか。
ボクがダン王子にぶちっといったのと同じだな。
お互い、業の深い女だねぇ。
「……これいいな。なんだ?」
「迷い根だよ。旬ではないが、いい味だろう」
「辛くしてもいけそうだな」
「お、いいね。そろそろエール作ろうか」
「よし。火は見ておこう」
お行儀悪いけど、ボクも迷い根揚げをつまんでから、ストックに交代。
ジョッキを出して。アルコール飛ばしたエールは冷やしてあるから、あとは炭酸加えて辛み付けだな。
…………。
作りながら、少し迷い。
「ストック。やっぱり言うけど」
「なんだ」
作ってきたエールレッドを持って、彼女に向き合う。
ストックにもジョッキを持たせ、こちらのと少し角を合わせる。
「殺しちゃいそうだから加減するのは、弱いとは言わない」
先の、彼女の呟きだ。
邂逅したときのカールの顔。戦っている時のストックの様子。
そのあたりから察するに、タトル領で会った時はストックが押し勝ったと見える。
どうやってかはさすがにわからないが……点きに対しても、何らかの対抗手段があったんだろうか。
すぐ戻せるって言ってたし、さっき初めて受けたわけじゃないのは確かだ。
ただ、結晶化した彼を倒すとなれば、ストックの場合は殺害覚悟だったろうな。
紫陽蛇獣の極震発勁は、破壊力に優れる。
あのくらいの硬度の結晶だと、一撃粉砕だ。
もちろん、中の人間は蒸発する。助からない。
ストックは頼りになるが、対人を全面的に任せ辛いのよな……。
ギンナと一緒だ。ちょっと強すぎるんだよ、この子も。
「……お前が鮮やかにやってるのを見ると、多少はそう思いたくもなるのさ」
「少なくともギンナは違うみたいよ。ただ『面倒』だって」
言ってごくりごくりと赤いエールを飲む。
揚げ物を食う。うまし。
ストックもさくさくと食べ進んでいる。
満足げだ。よしよし。
「ん……まぁそれもそうか」
ストックも少しは納得したようだ。
ギンナは自身の性質を踏まえ、先を目指そうとしている。
きっと君だって、できるはずさ。
だから、そう深刻にならなくてもいいと、ボクは思うよ。
「だが、適切な切り札がないのは、やはり心もとない」
まぁその悩みもわかるがね?
「ちょうどいい切り札なんて、元々なかろ。
どれもこれも過剰だ」
ケダモノの力にしろ、呪法の発勁にしろ、人に向けるものではない。
それでも戦うのであれば。
持てる手札で、勝負するしかあるまい。
「お前の電撃は、ほどよく倒せるだろうに。
加減が効きやすそうで、正直羨ましい」
「君だって、素の発勁はほんとにうまいじゃないか。
きれーに昏倒させられて、実に鮮やかでいい」
「呪いを込めると蒸発するんだが?」
「魔物向けってことで」
ストックが肩を竦めている。
「しかしああいうのや……魔導師が出てくると厄介だな」
それは同感だ。
特に魔導師は本当に厄介だ。
確実に強い。そしてこちらは殺せない。
んー……普通の「魔法使い」ってイメージの連中とは、違うんだよね。
「超能力者」って言った方が近い。
特に、精霊魔法使いはそうだ。
ただ本当に恐ろしい魔導師は、その場でとんでもない魔導を編み上げてきたりする。
まさに能力を超えたものを見せられる。
魔術師も法術師も油断ならないし、時に魔道具技師だって近い存在だったりする。
王国と敵対しない以上、警戒しなければならない水準は下がるんだけど。
それでも何か考えてはおいたほうがいいだろうな……。
ボクなら、例の点きをもっと磨き抜く方向だろうか。
「前の時は、首刎ねちゃえばよかったけどねぇ」
気配を消して、死角から超過駆動。
魔導を乗せつつスパッと行けば、それで済んだ。
ちょっといろいろあって、元王国貴族の精霊魔法使いも、そうやって斬ったことがある。
今はいろんな意味でできないが。
「王国民の幼児がやっていいことではないな」
「まったくだね。だからこの『面倒』は受け入れるしかない。
その分暮らしやすいし、しょうがなか。
こんなうまい野菜が食えなくなったら、嫌すぎる」
「違いない」
ボクだって面倒だし、別に状況が許すならさくっとやってしまいたい。
魔物に対してはそうしているんだし。彼らだって、飢えているだけで知的生命体だ。
人間に対して加減するのは、自分が人の輪の中で生きていきたいから。
ストックと二人なら、別にどこでだっていいんだけど。
このさくさくの揚げ物がいくらでも食べられる国の暮らしは、できれば手放したくないね。
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