3-2.同。~君がここにいる理由~
~~~~キリエとの再会が吹っ飛んじゃったよ。なんでいるのさ……ストック。
キリエ’sブートキャンプは、だいぶやばかった。
確かにあの子は体力お化けだったけど、こんなちっこい頃からだったのかよ……。
ひたすら走って跳んで走り回った。しかもちゃんとトレーニングだった。どういうことだ四歳児。
しかしさすがに四歳。キリエ様は、早々におねむになってダウンした。
なおフィリねぇもダウンした。こっちは鍛え方が足りなかったようだ。
で……残りの元気な自称幼児二人は、大人たちに呼び出された。
身綺麗にされて、ドレスを着せていただいて。
応接間まで案内された。
連れて来てくれた使用人の方がドアを叩くと、中から入室を促された。
扉が開く。
静かに礼をとって待つ。
中に招かれ、ソファーを勧められた。
改めて軽く礼をとり、ストックと並んで座る。
向かいには大公と大公夫人。横手にエリアル様。
使用人の方々は、下げられた。
「ウィスタリアも、様になっているな」
ファイア大公から、声をかけられた。
……少し、横のストックを見てから答える。
「以前、ずいぶん躾けていただきまして」
「キースから聞いたときは、よもやと思ったが。
……面識があるのは、間違いないようだな」
キース……キース・ロイド様。
エングレイブ王国の宰相を務めておいでだ。
なおモンストン侯爵なのは、奥様のヴァイオレット様の方。
この国は精霊ベースで貴族制が成り立っているせいか、女系継承や女性当主は普通にある。
しかし、ファイア大公が宰相と懇意とは初めて知ったな?
政敵だという噂は聞いていたけど……なるほど。
身内で敵味方をするほうが、いろいろできていいだろうしね。
で、リィンジア・ロイド……ストックは、こうして人生やり直してることを、ご両親には話していると。
エリアル様も知っていたし、呪いの子というのは割とポピュラーな現象なんだろうか?
となると、意図と詳細はわからないけど。
「偶然、ではなかったということですか。大公様」
ストックがここにいるのは、理由がある。
しかもボク絡み。
「そういうことだ。
ふむ。中型神器船の民間組織運営にも関わったと聞いたが、伊達ではないか」
ご評価いただけるのはありがたいが、それどころではない。
ちょっと横を向くと、思いっきり目を逸らしやがった。
「…………ストック」
「…………信用を得られぬと思った」
「それで全部話すのはダメだろう。
求められたことを話さないと……いえ、これは大公様がリィンジア様に、私のことをお聞きになったんですね?」
「そうだ。理由はわかるか?」
途中で気づいて大公様に聞くと、切り返された。何か楽しそうだ。
んむ。試していただけるとあれば、淑女の端くれとしては向き合わねば。
少し黙考し……薄く目の前の低いテーブルを見ながら、口を開いた。
「……リィンジア様は、私が国の未来のために必要な人材だから、何としても聖国から取り返すべきだと大公様に訴えられた。
その価値を推し量るため、大公様はリィンジア様から私の一切を聞き出した」
「正解だ。私が聖国に伝手を持っていることは、知っているか」
よかった。合ってたか。
「国の未来のために必要」っていうのは過大な話だが、ストックならそういう説得をすると思った。
つまり今回、ストックは伝手を辿って、ボクを聖国からなんとか連れ戻してほしいと、訴えかけにきていたと。
そこは親同伴で来るんやないの?という気はするが、なんか事情があるのかな。
ストックが、この時期にボクが聖国にいるって知ってたのは……そういやちょっとだけ話したことがあったな。
ちっちゃい頃あそこにいて、エリアル様に連れ出されて、クレッセントに行ったって。
話したのは確か学園の……二年の頃だったかなぁ。
王国から誘拐されて聖国に行った点は当時はボクも知らなかったが、コンクパールで「本当の家族」の話をしたから、ストックはそれを踏まえたんだろうな。
それでなんでファイア大公に相談に来るかっていうと、この方は聖教徒。ウィスタリア聖教の信徒だからだ。
聖教を国教にしている、ウィスタリア聖国と、ロード共和国に深いつながりを持っている。
ウィスタリア聖国は、聖女の教えたる聖教を軸に運営されている宗教国家。
ロード共和国は、聖女の記録を後世に伝えることを目的に設立された、聖女厄介ファンの国家。
……いやほんとにそうなんだよ。
そして聖国の方はボクを浚うようなやべー国だが、ファイア大公は別にアッチ寄りってわけじゃない。
表向きはそうなんだけど、ほんとは厄介ファン……聖女派の方なんだよね。
聖教聖女派の王国貴族として、国内の聖女派を聖国から守ることに注力してらっしゃる方だ。
おそらく、聖国から人を脱出させるような伝手すらお持ちなんだろう。
そういうところを匂わせたものも含めて、かつて彼の娘からいろいろ話を聞いた。
「はい。有名な話ですし……私は、キリエ様に聞きました」
鷹揚に頷かれた。
ちらりと横のストックを見ると、そっちも目で頷いた。
…………わざわざ、ボクを助けようとしてくれたのか。
こいつめ。そういうとこやぞ。
「ウィスタリア。あなたの話は聞かせてもらったけど、一つだけ聞きたいの。
キリエは、強かったかしら?」
ん……大公夫人だ。
一切を聞き出したということは。
この人たちは、ボクが最後に何をしたかまで、知っているはずだ。
当然、キリエと戦ったことも、ストックは話しているのだろう。
なぜこの質問が来たかは……想像の域を出ない。
娘を殺した女の話を聞いて、その上でどう判断するかの指標にされたいのだろうか。
今のボクがどういう人物なのか、そのやらかしたときのままではないのか、そこを知ろうとしてる。
……ただの勘だけどね。
「はい。私の知る中で最も」
「お前とリィンジアは何度も衝突したと聞いたが、そちらではなくか?」
「リィンジア様は、戦略的に動くので、戦闘ではすぐ引きます。
キリエ様は……勝つまで引きませんでした」
大公様に答える。
胴で二つにしたのに、あの剣で絡めとられたとき。
笑顔の彼女を見て、ボクは負けた、と思った。
ただ、ボクの方が少し後まで、生きていただけだ。
「最強と呼んで然るべき、王国の戦士です。
こんな小さい頃からお強いとは、思いませんでしたが」
大公夫人をそっと見ると、苦笑いされていた。
なんでしょうその、つい鍛えちゃったのよみたいなお顔。
こんなうれしそうな苦笑いは、初めて見る。
「できれば、娘と仲良くして頂戴。二人とも」
「「はい、誓って」」
思わず顔を見合わせて……少し笑顔になる。
なんでこんなとこで息が合うのさ。
次の投稿に続きます。




