7-2.同。~お互いの知らない関係~
~~~~めっちゃ痛い。これだから戦闘狂は嫌いだ。
魔法ってすごい。
もう動ける。全然痛くない。
治療してもらったボクは、まだ休んでろっていうストックを無視し、もう復活して野菜を切って揚げている。
しょーがないだろ。おなかすいたんだから。
国防の方々とは少し話をした。詳しくはまた明日にでも、となった。
あんな真似をして、魔素欠乏も心配したが、そこも一応は大丈夫みたいだ。
獣の矢が生身で撃てるなんてな……びっくりだわ。自分の成長を実感する。
隙が大きいから、普段あんな使い方できないけどね。向こうの大技に合わせるならまだしも。
しかし、今日はもう一戦は無理だろう。大人しくしたいところだ。
いやむしろ、なんで一日に二度も三度も戦闘が??街中だぞ常識考えろよ???
近くに椅子を出して座っているストックのお口に、粗熱をとった黒瓜揚げを押し込む。
すっごいサクサク音を立てて食べている。実にうまそうだ。
「ご感想は?」
「…………非常にうまい」
「ならよし」
「…………」
仏頂面に、芋揚げに塩振ってぶち込む。
もっちゃもっちゃしている。
とてもかわいい。
火にかかった油壷に、主に片栗粉で衣をつけた野菜を放り込み。
揚がったものを取り出してバットに置き。
野菜が減ってきたら新しいのを切って。
ストックや自分の口に、適度に冷めたものを放り込み続ける。
んむ。相変わらずお屋敷の魔導焜炉はいいわ。温度が一定に保たれてる。
揚げ物に非常に便利なんだよね。
「……ん。聞かない、のか」
ストックの瞳が、揺れてる。
ふふ。その仏頂面はどこに向けたものなんだね、まったく。
反省もいいが……そろそろボクを見てほしいね。
さて、何て言って振り向かせたものか。
「そっちこそ」
「……どんな関係、なんだ?」
関係、関係か。
そういわれると……大した関係性はないんだよな。
長く一緒にいたわけでもない。互いにいたくてそうしたわけでもない。
ただたまたま、近くにいただけ。
「前の時間で会った。なぜかクレッセントに来たんだよ。ちっちゃい頃だけどさ。
魔素制御や武術もどきを教え合ってた。
ある時、魔物の強襲に遭って――あいつは、死んだ。
ボクをかばって、オーバードライブしすぎてね」
「そう、なのか」
ボクが人死にの瞬間を見たのは、あれが初めてだ。
どうしようもなく、何かが喪失する、瞬間。
特にこう……結晶になられたのは、その時はなんとも思わなかったんだけど。
あとから自分も石を入れられて。次第に怖くなった。
ストックが結晶化しているのを見たときの衝撃は……たぶんかなり大きかったと、思う。
「ん。だから、目の前で人に結晶になられるのは、ボクのトラウマなんだよ。
君に石になられたのは、ほんとーに堪えたんだからな?」
「それは悪かった」
…………どうした、じっと見て。
なんだそのにやりとした御口元は。
「初恋か?」
こいつめ。
なにがどう繋がってそうなったし。
これはちゃんと言って聞かせてやらねばならんなー?
少し火を弱め。
彼女のそばに寄る。
「色ボケんじゃねぇ。ボクのそれは――」
――――まだ終わってないよ。
調子に乗ってるようなので、耳元で囁いてやった。
真っ赤になって身悶えている。
ふふん。意図はしっかり伝わったようだな?かわいい。
いや、調子に乗ってるのはボクもか。
今のはちょっと、レギュレーション違反だったかな。
少々表現が直接的過ぎて、奥ゆかしくない。
とはいえ。
「あんまふざけたこと言ってると、ボクもふざけたこと聞くぞ?」
「あー、それはー……悪かったよ」
ストックがやっとちゃんとボクの方を向くようになった。よしよし。
しかしずいぶんバツが悪そうだな?
まぁ、らしくない反応だったしなぁ。
さて。深刻な理由か、くだらない理由か、どっちが飛び出てくるかな?
「あいつ、タトル領で見かけてな。
その時なぜか……彼らを引き連れていたんだよ」
彼らとはあれか。ストックの因縁先、ラリーアラウンドの幹部たちかな。
特にストックが頼りにし、率いていたのが6人いたはずだ。
手強い戦士たちだった。
…………ボクが殺してしまった、相手もいる。
ボクを退けた、強者もいた。
だが、カールとは結びつかんな?いや帝国出身ではあるけどさ。
高貴な生まれで、自由に振り切れてるカールとは、合わないような気がする。
彼らはもっと、地に足がついていた。
……いや、今の時間では、違うかもしれないか。
彼らのいるタトル領は今、王国に接収され、扱いも変わっているはずだ。
しかしわからんなストック。
彼らが一緒にいるだけなら、そう何かあるわけでもなかろうに。
「ん、んー……いやさ。それでなぜ険悪になった」
「むかついた」
思わず吹いた。
「吹っ掛けて殴り合って、ほどほどのところで彼らに止められてな。
だいぶむしゃくしゃしてやった。
……あの時は力を隠していたのか」
「えらいアグレッシブだな。何が気に食わなかったんだ」
「いやこう……顔が」
顔?????
言っちゃなんだが、君。男の顔なんて興味ねーだろ???
逆に男性の美形はむかつくとか、そういうのか?
いやないか……ストックのお父上は思いっきり美形だしな。
「は?きれいなのはダメか?」
「そうじゃなくて。どっかの皇帝にそっくりで」
すげーこと言いやがった。
なんかキレッキレだな、ストック。
皇帝に似てるのかぁ。そうか。
ボクは皇帝の方をしらんから、なんとも言えんが。
まぁ皇帝の母がシーボルトの出だから、血が近いしなぁ。あり得る話だ。
カールをそこに重ねるのも良くはないが、その前提があると印象はよくないかね。
ボクらにとって帝国の現皇帝とは。
上司を浚った挙句、子どもを産ませ、手ひどく振った男だ。
元妻と子の両方から、かなりよろしくない感じの話を聞いてはいる。
「……そういわれると多少の納得はするが、だからって殴りかかるな。
ひどい話じゃないか」
「いや、殴り合いになったのは挑発された結果だ。
お互い様だ。譲る気はない」
なるほど。ストックもいくつか逆鱗があるからなぁ。
そこに触れられたんだろう。そりゃ怒るのはしょうがない。
しかし子どもらしい暴れっぷりだ。カールはともかく、ストックはらしくは……。
ん?これ違うか。
「ああ。殴りかかってきたの、結局向こうが先か」
「そうだよ。私からはさすがにやらん」
やっぱりか。
変わらないなあいつは。
次の投稿に続きます。




