6-5.同。~遠き日より、動き出す石~
~~~~本格的に、ゲームがボクらを追いかけてきてる……そんな予感がする。
ようやくロイド邸の近くまできた、わけだが。
前の馬車から、フードを目深にかぶったローブ姿の人が降りた。なんかちっこいな。子どもか。
路地の破壊痕とかを見て……そして屋敷を見ているようだ。
客……ではないと思うんだがなぁ。
まぁいいか。馬車が出たので、その後ろを行って――屋敷敷地に入っていく。
表側には誰もいないな。窓の向こうに使用人がいるのは見えるし、国防の人が来てるとしても中にいるか。
荒らされてしまった庭の隅に、サンライトビリオンを止める。
降りて、セキュリティロックを掛ける。ちょっと背筋を伸ばす。
どうも最近、しばらく座った後に背を伸ばす癖がついてしまったようだ。歳か?
22のときに時間を戻って4つからやり直して、もう三年余り。
自分の感覚としては、そろそろアラサーってやつだ。
そういや、ストックは4年長くやり直してるから、ほんと30年くらい生きてるんだよな。
年上って感じは全然しないけど。いつもかわいい。
さて、屋敷入って状況を聞くか。歩いて玄関口に向かう。
おや?門から、さっきのフードの子が入ってきた。
え、客??ストックへの来客予定は、さすがに聞いてない。使用人の方のどなたかの関係者か?
「この屋敷に、何か御用ですか?」
ほっとくわけにもいかんので、声をかける。
その子がフードをとった。
赤い……赤紫の短髪と、青い目が露わになる。
少し彫りの深めで、白い肌の――見覚えのある、顔。
ボクの時間が、止まる。
「カ……」「ハイディ!!!!」
侯爵令嬢が飛び蹴りでカッとんできて、ボクとその子の間に割って入った。
さすがストック、ボクのピンチに颯爽と現れる――――。
って喜びたいけど、別にピンチではないし、なんかお顔が不穏だぞ君!?
なんでそんなにおこなの????
「貴様ッ!今度はハイディに近づこうというのか!!
何をする気だ!!」
「お前か……」
は?なに?知り合い??なんで???
あれか、実は前のとき、帝国で面識あったってオチか?
それにしちゃあ、今生で何かあったような口ぶりだなストック……。
ってストック、袖咥えて息してる!?目が、赤く……。
「貴様を招いた覚えはない。お帰りいただこう」
めっちゃいい勢いで殴りかかった。
いやそりゃ、家人がそういうなら訪問お断りもやぶさかではない。
けどダイナミックお帰りくださいはどうなの??
ストックの掌底が、蹴りが、幾度か少年をかすめる。
彼も構えをとって向き直り、反撃を繰り出す。
っていかん!見てる場合じゃない!!
ボクは慌てて雷獣を起動し、ストックを横から掻っ攫った。
遅かった。数合打ち合ってしまっていた。
少し離れ、彼女を下ろす。
少年はこちらに向き直ったが、様子を見る構えのようだ。
「何するんだハイディ、あいつは私が……」
「ダメだ。アレに接近戦を挑むな。
……左腕と、右太ももを落とされたな。動かないだろう」
こいつは天才なんだよ……。
ボクが紫の目や、奥の手を使ってようやくできる、要所点き。
以前の時間では、それを当たり前のように使えていた。
今も間違いなく使えているな。
時間を遡っているのか、何らかの理由で思いついたのかはわからないが。
……難敵だ。
「すぐ戻せる」
「うっさいわ。喝ッ!」
肩口に掌を当て、一打。
ストックの体がびくっとして……。
「これで動くか?」
「あ、ああ。何をやったんだ?」
「魔素をびっくりさせた」
魔素を乱され、動かなくなったストックの手足を、びっくりさせて元に戻した。
点くやつの応用だ。
ストックを立たせ、ボクは少年に向き直る。
「王国貴族令嬢に手を上げるとは、何の真似だ。
カール・シーボルト」
「はぁ!?」
え、ストック知らないで殴りかかってたのかよ。
こいつは帝国のシーボルト家の令息だ。
シーボルト家は、四聖に数えられる公爵家。『青龍公爵』の異名をとる。
確か、今代皇帝の母方の実家でもあったはず。
その令息が、何の因果か前の時間では、建造仕立てのクレッセントに出入りしていた。
どうもその時期、魔都に逗留してたらしいんだが、いつの間にか船に入り込んでたんだよね。
同い年だからってボクが応対してて。
ボクが習った魔素制御を教えたら、すぐ頭の魔素を操りだして。
それをボクも教わって。結局、こいつよりボクの方がうまくはなったけど。
そうしてその後、魔物の強襲に遭って、死んだ。
ボクを守り、自身にできた結晶を超過駆動させすぎて……石になって力尽きた。
ボクがまだ、『ウィスタリア』だったころの話だ。
「……正当防衛だろう」
カールは実に面倒臭そうな顔だ。
なら受けるんじゃないっていうか……そもストックに何をしたんだ君は。
この子は、そんな簡単に怒りを露わにしたりはしないぞ。
「王国人の間なら通る話だ。外国人を保護する義務は、王国にはない」
「ふん。ならば厄介なのが来るまでの間……いっそ暴れてやるとしようか」
くっそこいつ、そういう喧嘩っぱやいとこ変わってねぇな!?
脳筋め!天才のくせに、事態解決を面倒だからと暴力に頼るんじゃねぇ!!
って遠慮なく突っ込んできやがったし!?
明らかに刎ねる気の手刀が、首筋を狙ってきて――
瞬きをしたボクの目が、紫に閃く。
手首、肘の内側、胸の中丹田を打ち、怯んだところ両の肩口を点く。
額の上丹田に掌底を繰り出したが……間合いを取られた。
ちっ。隠してやつの左膝に振ったこちらの膝は、避けられたからな。
途中で狙いに気づいて、全力で引いたか。
両腕がだらんと下がっている。左はたぶん動くが、拳は振るえまい。
胸も点いたからな。上半身は力が出ないだろう。
「あなたのほど、私の点きはぬるくありませんよ?」
当分は戻らない。さて、正直引いてほしいが……。
「ならば、こうしよう」
やつは少し息苦しそうに言うと、ローブの中に一瞬左手を隠し――
「オーバードライブ。『結 晶 化 身』」
血のにじんだ親指を振った。
一瞬、その体から膨大な赤い光の奔流が立ち上る。
その赤い指先から、一気に漆黒の結晶が広がる。
「馬鹿!なんてことを!?」
人体超過駆動、しかもこれは……総結晶化?
呪文の力を知るものとしては、できないとは言わない。
少し見えた光は、人の身にはあり得ない量の宿業で……だからといって。
全身、滑らかな黒い結晶で覆われて。
生きていられるとは、とても思えない。
『待たせたな。第二ラウンドだ』
その声に、苦悶のそれはない。
人型の小さな結晶の戦士が。
紫の瞳を、輝かせた。
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