6-3.同。~生まれ変わった愛車に乗り、街に戻る~
~~~~エルピスもようやく運用開始だが、特に問題はなさそうで何よりだ。
操舵室脇のはしごから、制御室に戻る。
ストックも上がってきたので、操舵室は閉じた。
落ちても危ないので。
さて。
「では皆さま、よい旅を。
私とリィンジア様はシャドウに戻り、陸路でドーンに向かいます」
「む、そうなのか」
ダン王子は何も聞かないし、他の二人も含めて、特に表情に不審の色もない。
聞こえなかったか、やはりこちらの事情を知っているのか。
まいっか。これは本人より、吹聴した疑いがありそうなとこに聞いた方がいい。
ドーンだから……お会いできるのは数日は後だな。
「本当は、連邦直行の予定でした。
先に行ってお待ちしておりますので」
王子たちに礼をとる。
河下りの分、エルピスの方が到着は遅くなる。
その時間差を利用して、こちらが陽動する作戦だ。
エルピスは戦略級の魔導師でも連れてこない限り、落とせない。
ギンナもいて、ビオラ様とコーカス様という魔導師までいる以上、こちらは安全だろう。
王子護送という点では、申し分ない。
もちろん、ボクら二人も一緒にいったほうが安全なんだろうが……。
「お前たち二人は、大丈夫なのか?」
「はい、ご心配なく。リィンジア様も頼りになるので」
「そうか」
ダン王子に、にっこりとほほ笑む。ご心配はありがたいが、同道はお断りだ。
これはもともと、誕生日からしばらくの、ボクらの連邦旅行やねん。
仕事はいったん終わったからね。
なんと最大一ヶ月の休暇だ。そんなに休めないとは思うが。
中型神器船パンドラ出港までの間は、本来はただの観光旅行のつもりだった。
早々に横槍が入ったが、二人旅は断固やらせていただく。
こちら側の戦力という意味では、不安があるのは否定しない。
実はストックはこの三年でいろいろあって、宿業が解消してしまった。
切り札である呪文が、起動しない。
ボクもほとんど力が出ない。
ミスティの獣はダメ。マリーとダリアのも起動しなくなった。
辛うじてベルねぇかな。ギンナのはもう怪しい。
メリアの反転した祝いの獣は、起動条件がよくわからない。
三年前、邪魔を倒した後、メリアと試しても変身できなかった。
宿業そのものが足りていないような……そんな気はしてるんだけど、原因を解明できていない。
ボクもストックも、呪法――紫電雷獣とかは、むしろ鍛え上げて強力にはなってるんだけどね。
戦術級の力が必要な局面だと、ちょっと厳しいものがある。
ま、ビリオンがあるから大丈夫だろう。
時間はあった。切り札はたっぷりと用意してある。
「ではビオラ所長。後はお願いいたします」
「はいはい。ドーンに先についたら、姉さんたちによろしくね」
「わかりました」
みなさんにお別れを告げ、ボクとストックは上層の扉から出て、川辺へ。
そうして下流へ向かうエルピスを見送った。
◇ ◇ ◇
おなかが空いたねぇなどと言いながら、ストックととりあえず工場まで戻ってきたら。
おっちゃんたちが酒盛りの続きをしながら、国防の人に事情を聴かれていた。
あー。まず後始末からかー。
「おう、主任たちもこっち来て飲めや!」
「ダメに決まってんでしょホイさん。
ストック、どうしよう?」
「そうだな。屋敷の方を任せてもいいか?」
ああ、向こうもか。
さっきはまだ国防の人来てなかったけど、誰かいたほうがいいわな。
ロイドの使用人の方たちが、だいたいはなんとかしてくれるだろうけど。
「いいよ。お昼はどうする?」
昼というには少し遅い時間だが、いろいろあって食べ損ねちゃったからね。
「あー……野菜揚げなんて、いいな」
酒盛りの一角を見ながらストックが言う。
王国の昼飯といえば、やっぱりマッシュした芋と豆か、ちょっと手間かけていいなら野菜揚げだ。
貴族の食生活だと、もっとタンパク質寄りになるけど、庶民は炭水化物と野菜である。
ストックが「野菜揚げ」というなら、芋揚げだな。塩振ってめっちゃ食べたいんだろう。
ついでに種々の夏野菜も、そのお口に放り込んでやるとしようか。
「ん。じゃあ後でお屋敷の厨房借りるか。
相変わらず、ジャンクなものがお好きだね?お嬢様」
「お前の料理がうまいんだよ」
嬉しいことをさらっと言ってくれる。
この子は侯爵令嬢なのだから、食生活は使用人に世話される立場だ。
しかし齢8つにして仕事やら稼ぎやらもってる立場なので、この辺はだいぶ好き勝手している。
外で買い食いしたり、自分で作ったり、客分のボクに作らせたり。
ボクにとって、料理はある種の休憩のようなものだから、作らせてくれるのはありがたくもある。
めっちゃ食うので、人に作らせると気が引けるんだよね……。
「そりゃあよかった。
道混んでたし、ビリオンはボクが乗ってくよ」
「わかった。歩いて戻る」
別れ、工場の外に出る。
隅に停めてあった砂色の石材に近づく。
拾ってすぐは、こいつは長方形のただの石材だった。
地球ではセダンっていうんだっけ?あれの人が乗る部分だけ、四角い石になった感じ。
外殻魔力流を出すと、黒い流線形の車体になる。
今は長方形ではなく、カプセル状になっている。
……あれ?意識してなかったけどボク、このデザイン好きなのか?
さすがにこいつは、上下左右の面は平らにしてあるんだけど。
何をしたかっていうとまぁ、エルピスの余りを使った。
サンライトビリオンは1つの魔石から作られた、非常に頑丈な神器車だ。
ただ頑丈すぎて、現代の技術では穴開けたり改造は不可能だった。
なので、エルピス建造で余った魔石神器を、追加の装甲としてつけてみた。
周囲すべてを、魔石神器で覆って整えた。
ちょっと難儀したが、外装の魔石と、元の魔石の魔導連結も済ませてある。
つまりこいつは、神器車ではなく神器戦車だ。
石材側面に右手を当てる。
セキュリティロックが解除され、石材が黒く染まる。黒い外殻魔力流が、そのボディを象る。
ボディが覆った状態は、前とだいたい同じだ。外装は魔力流を拡張したりはしていない。
運転席に滑り込み、扉を閉めてロック。
おっと、こいつもしておこう。シフトレバーのとこに置いておいた、腕輪を右手につける。
色は緑で適当に作った代物だが、まぁちょっとした遠隔操作魔道具だ。
録音の腕輪の収束充填機構を使い、神器車や神器船に外側から少しだけある種の通信ができる。
よし。
ベルトをしてハンドルを握る。
シフトレバーを操作し、ディレクションギアを後方進行に変更。アクセルを踏んでバック。
ハンドルを回しながら向きを変えてっと。
では、行こうか。我が愛車よ。
次の投稿に続きます。




