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5-4.同。~お客様方を、自慢の舟に案内する~

~~~~ボクもかつては被検体だったが。安定した結晶移植なんて、まだ夢物語の段階だ。人で実験する話じゃねぇな。


「確かに、気になるところではあるが。


 航行日程については、ビオラに一任する。私からは異論はない」



 コーカス様としては、そういうお答えだろうな。


 彼が優先するのは王子だし、これはモンストン領――ロイド家で対処すべき問題だと考えるだろう。



 でまぁ、ビオラ様……ボクの先生は、ボクと結構考えが近い。


 ボクがさっきダン王子に言った認識と、そう変わらないだろうな。


 もちろん、ここは早く脱出しておくべき、という点も。



 視線を向けられたので、少し振り返って、頷いた。


 上司殿が目で頷き返し、ファイア大公に向き直る。



「承知いたしました、大公閣下。


 ハイディ。私クルマ回してくるから、こっちお願いね。


 ストックは向こう?」



 あなたが手ずから運転することもねぇと思うが、労われたかな?これは。


 いや、単に自分が運転したいからって可能性もあるな……。


 前からそうだったが、この人はかなりの神器好きだ。クルマも当然。



 小型・中型の神器船建造は、自身が関わりたいのをぐっと我慢している様子だった。


 まぁその分、処女航海はこの人に譲ろうってことになったのさ。


 エルピスは、ビオラ様のための舟だからな。



「ありがとうビオラ様。お願いします。


 ストックは工場です。


 向こうも賊に襲撃されてて、国防呼んだので」


「やな話ねぇ」



 さすがに薄く苦笑いされてる。


 言っちゃなんだが、ボクらとしては巻き込まれた形だからな。


 請け負った以上は力を尽くすが、こう敵がやる気だとげんなりはする。



 向こうはしっかり下調べした上で、しかし察知されて慌てて戦力を向け、逃げられているという形。


 詰めは甘いが用意はいいし、何より戦力の底が見えない。


 しばらく気を抜けないな。



 ボクらがどこで神器船作ってるのか?というのは、ちょっと有名なので調べればわかる。


 新型神器船の話は、ダン王子でも知ってたわけで。


 だから、ここまで先回りされるのは、問題ないというか、無理もない。



 問題はこの先。魔境に戻ると、待ち伏せされるな。


 帝国勢力を抱き込んでるなら、神器船くらいは持ってそうだし。



 だからまぁ、王子たちには予定通りに行ってもらおうか。


 この場はひとまず、ロイドの使用人の方々に任せて問題なかろうし。


 先を急いでいただくとしよう。




  ◇  ◇  ◇ 




 ビオラ様が転がすスパイダーボックスの神器車に乗って、屋敷を出る。



 自分で運転するのもいいが、人のに乗るのも楽でいい。


 ビオラ様はボクの運転の師、アっさんほどではないが、やはりボクより運転技術が上だ。


 だが別にアっさんに運転を習ったわけではないので、先の聖域魔力流の道のように、知らないことややってないこともある。



 そうしてしばらく。


 再び人ごみの中を行き、しかし意外なほど早くに工場まで戻った。


 工場入り口脇の駐車場にクルマが止まり、皆が降りる。



 ストックに出迎えられ、情報交換。


 追加の襲撃もなく、ストックを含め、皆さん無事。国防の職員が3人ほど来ていた。


 捕えた連中は改めて魔導で捕縛されていて、しょっ引かれるそうだ。



 さて。渦中の人物たちが早々にいなくなって、国防の方々には申し訳ないが。


 このままシャドウを出ていただくとしよう。


 彼らをドーンまで運ぶ、舟の前に立ち、見上げる。



 かつてボクが時間を戻ってきたときも、小型神器船に乗ってたわけだが。


 小型、とはいっても、そんな小さくはない。


 サンライトビリオンが区分上小型になるのと一緒で、このエルピスも大きさは十分だ。



 分類の上では1km四方の面積をとると中型になるので、それ未満なら全部小型だ。


 地球の「船舶」のサイズ感が小型、と思ってくれていい。幅が非常に広い。


 全長500mを越えるものもあるそうだ。小回りが利かなくて、動かすのが大変そうだが。



 この神器船エルピスも、自分でもばかなんじゃないの?ってくらい大きくはなってる。


 全長は80m余り。全幅と全高は10……12,3mくらいの舟だ。


 カワさんとこは小規模工場だが、魔導師が幾人かいるので、こんな怪物を2年ほどで仕上げてくれた。



 エルピス。パンドラの箱、または壺という、地球の寓話からとった名。


 その色を黒としたのは、まぁボクの趣味だが。


 災いの中に残されたそれは、未来だとする説が、ボクは好みだ。



 人生とは、見通せない未来を歩んでこそだろう。


 それこそが災厄であろうとも、ボクはその暗闇を美しく思う。



 なんとなく、外装に触れる。



 信じられないくらい滑らかな曲面。無数の神器を接合したものとは思えない。


 この仕上がりには、神器の小型化が大きく貢献している。


 神器自体を工材として使う上での、幅が非常に広がった。



 鉄鋼に魔石を混ぜた魔鉄鋼や、それに精霊の加護をつけた霊鉄鋼でもない。


 総魔石構造の神器を、そのまま使って作り上げた神器船。


 およそこの地上で、最強硬度の舟と言っていいだろう。



 魔石は鉄を混ぜると非常に扱いやすくなるけど、鉄よりもろくなっちゃうんだよね。


 魔石のままの加工ってのは難しい。ただ、魔石同士を結合するのは実はそんなに大変じゃない。


 だから様々な大きさの魔石神器をまず大量に作って、それから結合させている。



 規格に合う神器を用意するのが大変だったが、ここまでこれた。感無量だ。



「ハイディ主任。積み込みのチェックは完了だ。いつでもいけるぜ」



 声をかけてきたのは、さっき積み込みを任されていた、ホイさんだ。


 ボクらが載ってきたクルマを積み込んで、戻ってきた。


 クルマがあると何かと便利なので、あれも積み込み品の一つだ。



 なお、主任というのはだね。


 開発の総責任者はストックなので、ボクはここではなぜか「主任」と呼ばれていた。


 そんな肩書作ったつもりはないんだけどなぁ?



 そして今日からしばらく、その主任の肩書もお休みだ。



 なお積み荷については、ロイドからも手が回って、早々に物資が集まったらしい。


 ありがたい話だ。おかげで予想以上に早く、出港できる。


 正直、夜間になると思ってたから、助かった。



「ありがとう、ホイさん。カワさん。


 みんなも――是非次も、一緒に作ろう」



 振り返るといつの間にか、姿勢を正した工場の人たちがいた。


 ほんとにみんないるじゃんよ。何やってんのさ。



「ではみなさん、乗船を。出港です」



 ぽかーんとしてる王子たちに声をかける。


 確かにちとでけぇし見たこともない形の舟だろうが、そんなに驚くものかね。



 コーカス様やエリアル様は、さすがにもう現実に帰ってきてるな。


 ベルねぇは意識があんのかわかんないお顔で、ギンナはめっちゃうれしそうだ。


 この二人は、エルピスを見るの自体は今日が初めてなんだよね。説明は何度もしたけど。



 ストックとビオラ様は――こら。そんな顔、君らまでしないでよ。


 三人そろって泣き笑いみたいな表情だと、締まんないでしょ。


 感無量ってやつなのは、よくわかるけどね。



 ビオラ様が気を取り直して、王子たちを急かしに行った。


 彼女を先頭に、みんなが乗り込んでいく。



 ストックと頷き合って。


 ボクらも舟に乗り込んだ。


 出港までは、ボクの仕事だ。

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