5-3.同。~魔結晶の超過駆動~
~~~~悪いが、人間ごときを倒すのに労苦はない。けど魔導師だけは勘弁な。
しかしわからねぇな。
魔導師でもない、武術家とも思えない。
なのに人間離れしている。
そして……モザイク兵ではない。
こいつらは一体、何者だ?
…………全身、布やら革やらで覆ってるけど、ひょっとして。
巨漢の体を、検める。
これは……あるなら革鎧の下、かな?
いくつか剥がしてみると、見つかった。
「ひょっとして、結晶?」
ギンナが覗き込んできた。
ボクが露わにさせた、大きめの魔結晶を見ている。
「うん。こいつ帝国の結晶兵だ」
「いやな名前ね……」
ギンナがげんなりしている。
ボクも同意見だ。
こいつ一人の影に……どれだけの人間が死があるか、わからない。
「文字通りだよ。結晶移植してる人間。
結晶を持った人間がオーバードライブできることに着目して、実験されてたんだよ。
神器を持たせず、人体超過駆動で戦力運用するための計画。
損耗が激しくて、直にとん挫するけど」
あまり知られていることではないが。
人間に結晶ができている場合、神器と同様に超過駆動ができる。
神器の場合は超過駆動機構を入れていなければ作動しないが、人間の場合はデフォルトでついてるらしい。
ただし、駆動先の魔導があるとは限らない。どんなものになるかも定かではないし、ないことも多い。
のだが。結晶移植の場合、この超過駆動先の魔導が継承されるということがわかっている。
ある人間にできた結晶を摘出し、別の人間たちに移植することで、同じ魔導を使わせることができるのだ。
魔導師に結晶ができた場合、その超過駆動は得意とする魔導になりやすい、らしい。
なのでその結晶をさらに別人に移植することで、使い手を増やすこともできる。
例えば……タトル公爵の結晶を移植されたディックは、公爵本人と遜色ない炎の魔導が使えたはずだ。
まぁ普通の人間に結晶移植すると、魔力が反発して大変なことになるんだけどね……。
似た魔素だと反発が緩いらしいけど。
魔力なしの場合は、この反発がなく、どんな結晶でも移植できる。
ボクとストックは前の時間で、ある意味その恩恵を存分に享受した方、だろう。
自身でも多数の超過駆動魔導が使え、神器自体も扱いやすかった。
使いすぎると当然、結晶化が進んで命はないが。
こいつらは元は実験体かなぁ。運用されてる結晶兵部隊は聞いたことがなかったし。
様子を見るに、主に身体強化系の魔導の結晶移植をされてるのかな。
超過駆動だから、出力は大きい。それを使えば、超人じみた身体能力にはなっただろう。
まぁそれだけで、魔導師に比べれば脅威度は人間と変わらんが。
魔導において本当に怖いのは、制御力の高い魔導師の魔導だ。
同じ力で、信じられない能力を発揮する。
そうそう、実験体と言えば。
「タトル公爵領では、結晶兵の実験が行われていました。
その兵及び人員を、王国譲渡前に接収し、使っている奴らがいますね。
今回の騒ぎは、その件を王国が察知したことが引鉄ですね?大公閣下」
三年前の後始末に、誰かが割り込んだんじゃないか、というボクの予測だが……
「そういうことだ」
コーカス様のお答えは、肯定だった。
コーカス・ファイア大公と、王子たちが屋敷から出て来た。エリアル様も一緒だ。
出て来たって言っても、まだ薄い魔法の膜の向こうにいるけど。
「どこの手抜かりかはお聞きしても?」
「私の口からは言えんな。帝国絡みは管轄ではない」
王国北方領領主の、ルビィ大公家か。
あそこは帝国と領を接してるからな。
帝国と関わりの薄い、西方領のモンストン侯爵家が帝国領を接収となると、ちょっと複雑なお話になる。
それでルビィ大公家が独自につついてみたら、藪から蛇を出してしまったということかな?
まぁ手抜かりには違いないが、敵に潜伏され続けるよりはましだったんじゃないかな。
あるいは……モンストン侯爵家はこういうのが得意みたいだからな。
三年前に帝国タトル公爵の襲撃を誘発させたように、また誘いという線もある。
……ま、どっちでもいいか。ボクが首突っ込む問題でもない。
「とりあえず連中は倒したので、シャドウからの移動を急いだほうがいいです」
「まだ来ると睨んでいるのか」
「これはただの陽動――遅延作戦。こちらの足止めが狙いでしょう。
本命はモザイク兵を使った、大規模な事件再現での行動ではないかと。
その前に離れていただきたいです」
これまで、事件を再現した折には多数の魔導師が出ている。
魔物がそれに混じる可能性もある。油断できない。
「……ウィスタリア。我々が離れた後、そいつらがこの街で暴れたら、どうなる」
…………?ああ。
ウィスタリア……ってボクか。身内以外がいると調子狂うな。
しかしダン王子、面倒なことを気にしておる。
上に立つものとしては正しいが、何でも自分らでできると思ってるのは、相変わらずいかんなぁ。
「どうもなりません。
私とリィンジア様が何かするまでもなく、国防が出張って終わりです。
近日襲撃の情報を国防が持ってたら、被害も出ずに鎮圧されますよ」
「国防の連中をずいぶん信じているのだな?」
実際の彼らを知らないし、この場にいないんだからその感想は分かる。
本人たちに言ったら減点だったが。
王子はまだ8歳、精霊との契約は王族である間はできないし、当分先だ。
精霊魔法の万能さを、肌身に感じて理解することが難しいのだろう。
継承権のある王族は、精霊との契約はさせてもらえない。
王位継承時に、王家精霊と契約するからだ。
基本、精霊との契約は一種族だけ。他の精霊と契約してしまっていたら、王位は継げない。
この点は例外もあって、王妃に関しては多重契約が認められるそうな。
実家の精霊と王家精霊、二種の精霊と契約を結ぶらしい。
あとは……精霊から指名があって、王家を継ぐことになった場合って例外があったかな?
人間側が政争して決めた継承者じゃなくて、完全に精霊から指名が来る場合があるんだとよ。
すでに争いに負けて王族から降りた者や、王女なんかは他所の貴族の家に入ったりする。
そこでその家の精霊と契約するのだが、後から王位継承の指名が来ることがあるらしい。
そうすると、二重契約になるというわけだ。
で、話はだいぶ戻るが。
「国防の即応性が低いのはしょうがないんです。情報の伝達が遅いですから。
でも、その場にいれば十二分に頼りになりますよ。
特にシャドウの国防は、少数で多くの仕事を任されていますからね。
コーカス様がもう一人いれば、この場は一瞬で鎮圧されていたはずですが。
彼らは同じことができると、そう考えて差し支えありません」
ボクはこの三年で、ドーンやシャドウには何度も行ってる。
そこで国防の人たちの活躍は幾度も見た。もちろん、ユリシーズでもだ。
やっぱ魔法使いすげーってなった。ボクは正面からでは勝てん。
国防の人はだいたい家は継がないが、精霊との契約はしている。
貴族級の魔力・適性の持ち主ができる精霊契約は、契約者に強い加護を与える。
その加護があると、どれだけ不意を打っても防がれる。しかもとても固い。
ボクだと……雷光の技では抜けない。
おそらく、呪文の獣の力で拮抗、くらいだったと思う。
奥の手があるから倒せないわけじゃないけど、敵に回すのは絶対やだね。
次投稿をもって、本話は完了です。




