4-4.同。~街角を曲がり、不穏の入り口へ~
~~~~だらだら喋るのが、ボクらのデートらしい。らしくて、とてもいい。
「そういえば、何か止めるための手段を探してなかったか?」
「うん。いくつかは実用化できてる。ただ、魔力流と魔導の衝突回避はまだだ」
近い未来、イスターン連邦が滅亡する可能性がある。
それに、魔力流と魔導の衝突による、大規模破壊が関わっている。
回避手段をいろいろ模索しているものの、衝突自体を避けたり、衝突後に抑え込んだりする方法はまだ見つかっていない。
「新しい要素が要りそうな感じか?」
「そうだねぇ。ボクら魔導を研究してるっていっても、実質魔術だけだし。
衝突による魔導の拡大は、魔導および魔力流そのものにフォーカスしないと、解明できないようにも思う」
魔法……精霊魔法については、関係者に何人か使い手がいる。
ただメリアは初心者だ。ミスティはあまり得意ではない。
ビオラ様は今契約が切れていて、出力が低い。
研究にご助力いただく場合、どうしても貴族相当の魔導出力が要るんだよね。
ギンナはどうだろう?ちょっと今度聞いてみようかな。
「そのためには他の魔導も知りたい、か。法術とかか?」
「あるいは、共和国の魔術とか。あっちはちょっと毛色が違うっていうし」
「今度、東に旅行にでも行ってみるか」
お。いいねぇ。
っ。こら、指すりすり再開すんな。油断した。
「……東っつっても聖国は旅には向かんぞ。
川だらけで橋がないのに、神器車で川渡ろうとすると憲兵呼ばれるしな。
走り辛くてかなわない。
共和国にしよう。飯がうまい」
「そうなのか?文化が独特とは聞くが」
ストックの髪が揺れるのが、目の端に映る。
いつの間にか、窓際じゃなくてだいぶこっち寄りに座ってる……。
ちょっと好みのいい匂いするんだけど、これどこの香だね。
知らないやつだ。今度聞こうかな。
…………ボク好みを探してきて、つけてる、んだよなこれ。
いかん、また意識させられてしまう。
そうだ。旅だ。
特に食べ物を思い浮かべよう。
「あそこは鳥料理が豊富なんだよ。肉も卵も。
こっちじゃ少ないだろう?」
あの国は、飯も菓子もまず鳥から始まる。
とてもおいしい。特に卵は大好きだ。
こっちじゃほとんど食べられないんだよなぁ、卵……。
「ああ……畜産が盛んなのは南方領くらいだな。
あとは王都で食べられるくらいか」
「王都はなかなか行けないね……今回の件で、余計足が遠のく」
「不甲斐なくて申し訳ない」
手が丁寧に……握り直されていく。
祈るような、形に。
ふふ。そこで気負わなくてもいいのに。
人の多いところはだいたい抜けた。
河川港寄りの倉庫街にクルマを進めていく。
倉庫街の一角に、うちの神器船の建造工場がある。
普段は魔導船を請け負っているところなんだが、神器船建造の経験もあるとのことで依頼した。
特殊な舟――小型神器船なので、かなり通っていろいろ詰めた。
揉めたことも結構あるんだが、なんとか完成にはこぎ着けた。今は出港待ちだ。
「君のせいじゃなかろ?
まぁボクは解決できないだろうから、君頼みではあるけどさ。
王国さえ無事なら、そこはのんびりでいいと思ってるよ。ボクは」
ストックが気にしているのは、ボクの実家絡みの話。
王都で生まれ、すぐ聖国に浚われたボクは、王都に行くとちょっと身が危ない。
単純な誘拐なら今はどうにでもなるけど、なんらかの事件再現に巻き込まれる可能性もあり、楽観できない。
概念的な強制力がある、と警戒している。油断すると捕まるだろう。
王都に間者がいることは、かつて聞いたストックの父、キース宰相閣下の言ではっきりしている。
ギンナから三年前に受けた警告も、その後安心していいという続報はない。
で、ボク自身は近づけないから問題の解決ができないので、ストックが頑張ろうとしている。
先のキース宰相が情報をくれたのも、その一環とボクは見ている。
みなさん、動いてはくれているのだ。
根本的な部分では、のんびりでいい、というのがボクの見解だ。
ただ……。
「そうか?」
ストックをちらっと見て、浮かんだ懸念を胸の内に隠す。
10歳過ぎれば、この子にも縁談が舞い込む。
ストックも、ロイドの方々も、そんなもの受けようとはしないだろう。
だが……ダン王子の反応。王族すら前向き、という点は踏まえなくてはならない。
どこの権力者が突然手を挙げるか、予想外の手を繰り出してくるか、わからない。
防ぎたければ、はよ婚約してしまえばいいわけだが。
ボクが実家に帰れないとなると、ちょっとそれは難しいんだよな……。
父母は事情があって、あまり王都の外には出てこれないので。話が詰め辛い。
この点は、ストックを信じるしかあるまい。
時間はあったんだ。何か手を打っているだろう。
「うん。家族に会えないわけじゃないって点は、はっきりしてるしね」
「そうか……」
「君んとこの宰相閣下くらい身軽ならいいんだけど、そうもいかん」
キース・ロイド宰相は、何度もボクらのいたユリシーズに遊びに来ている。
視察名目で。
「あれは身軽すぎる。お兄さまくらいに自重してくれんものか」
ストックのお兄さまのアスロット・ロイド様は、国防省にお勤めだ。
貴族の嫡男が国防省入りは珍しいが、ないわけではない。
西方領は国防省職員をたくさん出してもらってるし、その縁もあるだろうな。
「重鎮が暇なのはいいことだ。組織が回ってる証拠だよ。
羨ましい限りだね」
「確かに。パンドラでは見習うとしよう」
「いろいろ勉強したから、大丈夫だとは思うよ。
あとは実際にやってみながら――――」
目的地付近まで来て、思わず眉根が寄った。
自然、握っていた手が離れる。
とても名残惜しいけど、これはしょうがない。
おのれ。今度はどこのどいつだ。
遠めに見える、工場の入り口が……空いてる。
今日誰かが来ているとは思えない。
舟はとっくに完成していて、今は周辺警備だけ依頼している。
彼らなら完成祝いで酒盛りくらいしてるかもだけど。
逆にそうだとすると静かすぎる。
不穏だ。
「様子を見つつ、突入するか?」
「いや、ちょっと待って」
クルマを、工場付近からは見えないところに移動させつつ、計器陣を出す。
オプションでつけまくったいくつかの機能から……魔導の一つを呼び出す。
神器車は稼働の余剰魔力で、様々な機能を使用することができる。
攻撃性の魔導は、超過駆動しないと無理だが、それ以外はほどほどに使える。
そして今のビリオンは、余裕たっぷりだからな。いろいろ使い放題だ。
表示されたウィンドウを工場側に向ける。
複合センサからの取得結果を表示する魔導だ。
防犯カメラとか、赤外線カメラとか、そういう感じの奴と言えばわかりやすいかな?
工場の中、および付近に人がいる。
工場の隅に、座らされている人が結構。10人くらいいる。工場のおっちゃんたちか?
その周りをうろうろしている者が、4、5……8人。
外を流して見ると、こちらからの死角にもう幾人か。
工場の入り口近辺にはいなかった。これはたまたまだな。
向こうからの発見を免れられたようだ。助かった。
よし。
迅速に、排除しよう。
「制圧する。敵は12。中が8。外が4。人質が9。
配置は覚えた?」
「……ああ。行こうか、相棒」
二人、袖を咥えて深く息をする。
ボクらの瞳が、赤く燃え上がる。
――――立て、紫陽蛇獣。
――――起きろ、紫電雷獣。
「外は任せるよ、相棒」
「わかった。制圧したら、こちらもカバーに入る」
二人、神器車を飛び出した。
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