4-3.同。~ニトロダッシュ聖域はどうだ~
~~~~マリー向けのクルマは、向こうのオーダーもあって長くかかってる。いいものをあげたい。
「他所の国との緊張が高まるからな。
マリーの魔力流制御は?」
「ありゃまだだ。解析、3分の1くらい」
マリーは、人間が直接魔力流を発生させられるという、謎の力を持っている。
超過駆動ならあり得る。だが魔力流を発生させられる人間は、今のところ彼女以外にはいない。
ボクだって無理だ。
魔力流は、魔力とも魔導とも性質が異なる。発生メカニズムは分かっているが、人間単独では再現できていない。
彼女はそれを使いこなすばかりか、自身より非常に大きな範囲の流れすら作り出す。
現在の魔力流力学からすると、彼女が魔力乱流を使っているときは、本人の大きさが都市級になっていることになる。
意味がわからないので、とにかく本人に使ってもらった上で、データを集めて解析している。
ただ、機構で整調された波ではないので、読み取りが大変だ。
地球向けの例えを出すと、なぜか家電を動かせる落雷を放つ人がいて、その人の雷を解析してるようなもの、かな?
ただ同じものが使えれば、神器の魔力流発生は次のステージに進める。
魔物を退けるのではなく、魔導に勝る対魔物攻撃手段として確立する。
今はこう、どうしても逃げられがちなので……魔力流使うより、そのまま斬った方が早い、ってなっちゃうんだよね。
「時間がかかるな」
「アナログのベタ読みだからね。ストックもやる?」
「目が疲れそうだが、一緒にやるか。あれくらいしかなかろう」
「そうだねぇ……ただそっちもなぁ。ほら、魔導をぶつけられると大変」
「それは偶発発生しないだろう?」
「しない『はず』。故意の発生法は秘匿してるけど、見つけられないとも限らない」
魔力流に魔導がぶつかると、魔導規模が膨れ上がる現象がある。
ボクらは魔導拡大、あるいは単に拡大、と呼んでいる。
前の時間でダリアと研究して、故意の発生方法が実ははっきりしている。
その上で、魔力流側の出力が高いと、偶発的にも発生させやすいという結果も出ている。
マリー級の魔力流が絡んだときの話だから、あまり現実的ではないんだけどね。
「魔力流の代わりになる、対魔物の掃討法はなかろう……」
「んー……代わりである必要はないかも」
「どういうことだ」
「発想の転換だよ。なんで今の聖域では、魔物の掃討ができないのさ?」
「ん?逃げられるからだろ?」
「聖域が猛ダッシュで魔物追いかけたらどうだ」
ストックが思いっきり吹いた。
気持ちはわかるけどさぁ、落ち着け令嬢。
クルマはようやく中心の交差点まで来たので、右折させていく。
「いや真面目な話。上の街が保護されてればさ、そういう高速移動はありじゃないか」
「どうやって実現するんだ」
「ロケットスタート」
「お前がいつもやってる、あれか……」
ディレクションギアをニュートラルにした状態でアクセルを吹かし、適度に魔力流を溜める。
その後ギアを入れると、タイミングがばっちりならクルマがカッとんで発車する。
アっさんの教えてくれた、運転技術の一つだ。
もちろん、同じことは船でだってできる。実証済みだ。
「あれを人工再現できるようにして、神器船の大機構に設える。
で、魔物の群れに突貫させるようにする。それでひき潰せる」
そんな大質量が人里に向かったら、それはそれで大惨事だが。
実は魔力流干渉ってのがあって、例えば聖域に聖域をぶつけることは不可能だ。
どう物理的にすごい出力を出していても、魔力流同士がぶつかると、反応して止まる。
だからこの案で魔物をひき潰すとして。それを対人に転用しようとした場合。
神器車一台……いや神器一つ置いて展開しておくだけで、その聖域は止められてしまう。
この点でも、神器車ってのは便利なんだよな。
人や物にぶつかったらそりゃ大変だが。
神器車同士は、事故らない。
「上の街の保護はどうする」
「通常の物理保護……か、それに近い魔導か」
「このベルトの発想から、基本的にそのままか」
神器車の各席についてるベルト。シートベルトってやつだ。
「うん。あとは、街の部分を機関部に入れちゃうって手もある。
そうすると、できる保護手段が一気に増えるでしょ?」
「エネルギーはどうするんだ」
「ボクらの機構があるじゃないか」
「…………そうか。
つまり結局、聖域大の構造に対応できるブレイクスルーが要るな」
そうなんだよな。大型化できねぇし。
「要るねぇ。でもほかは埋まったろ?」
「そうだな。マリーの魔力流制御も適用できれば、か」
「その場合はぜひ、魔力流と魔導のかけ合わせの防止手段を用意したいね。
魔力流の方が大出力になるから、危険なことになっちゃう」
「喫緊の課題としては、むしろそっちじゃないか?
今だって、聖域の大出力に魔導を向けられたらまずかろう?」
あれ?
言われて見れば……?
聖域に外側から魔導を打ち込むあほの話は、今のところ聞いたことがない。
だから明らかになっていないだけ、か?
必ず起きるものではないとしても、偶発事故が発生する可能性は、低いとはいえない。
マリーがアナログ大出力の魔力流なら、聖域はデジタル大出力の魔力流だ。
マリーの魔力流が魔導拡大を招きやすいことは、はっきりしている。
聖域の魔力流がそうであるかは、データがない。
……これは無視できないな。
「おおう……大変まずいね。こりゃダリアと相談だ」
次投稿をもって、本話は完了です。




