3-4.同。~彼女は我が上司にして、恩師~
~~~~思ったよりひどい話を聞いた。よくそれで皆、聖域を上下する気になるものだ。
「そういやビオラ様。アっさんとか、こっちだとどうしてるんでしょうね」
「呼んだわよ」
「は?ボク、聞いてないんですけど」
「あれ?リストを……ああ。あれ連邦の方に出したんだっけ」
「写しくらい、持って帰ってきてくれればよかったのに」
「ごめんねぇ。最初期に作ったやつで、その後改定すると思ってたから。
なんか呼んだ人たち全員来たから、改定が要らなくなっちゃって」
「人を呼んで、リストを作って、結局全員来て、改定の必要がなくなったって話自体は聞いた。
じゃあ今度連邦行ったときに、リスト作り直して正式なものにし、それくださいって話して。
……それが今回になっちゃったと」
「向こうの建造に何も問題なかったせいね……」
「それは確かに。あっちは組み立てと動作確認メインですからね。
こっちは実験検証メインだから、問題起きるならこっちでしたし。
でも大事なリストなんですから、共有はしてください」
「はいごめんなさい」
んむ。
「なんかハイディがつよい……」
「ハイディは前からこんなよ。
前の時は、ベルちゃんはあんまり関わることなかったけど」
そうそう。ベルねぇとエリアル様は、途中から船に乗ったからね。
エリアル様がしばらく、魔結晶摘出後のリハビリテーションで大変だったから。
その上で、クレッセントにおける役割も違った。
特にビオラ様が取り仕切っていた間は、ほとんど会うこともなかったんだよね。
よく会って、仕事して、遊んだりもするようになったのは……ビオラ様が亡くなって以降だ。
「そうなんですか?」
「あなたは実働で動いてもらうことが多かったから。頼りになったわ。
エリアルもだけど。ただちょっと私、みんなには頼り過ぎていたわね……」
クレッセントは途中から、魔境を航行する神器船になった。
航路を確保するために、ビオラ様は政治的な折衝に出て船を空けるようになった。
その間に少しずつ、黎明期から船を支えていた人たちは、いなくなっていった。
国元に帰ったり。戦地で亡くなったり。事故に遭ったり。
アっさんが旅に出て。エリアル様が帰らぬ人となって。ビオラ様も、亡くなって。
ボクが小さい頃から知っている人は、いつの間にかベルねぇだけになっていた。
ビオラ様が言っているのは、そのあたりのことだと思う。
この人はやるとなったら率先して折衝に出たけど。
そもそも、魔境を航行することには反対だった。
投資が回収できない、という現実的な理由で。
よくよく考えてみれば、この人は特別な結晶を持ってるんだし。
その気だったら最初から、自分で動かして魔境航行してたよなぁ。
だがそれが身に余ると、始めから理解されていたのだろう。
「出資者が反対してるのに、魔境航行を強硬したアホどもの言うことなんて無視して、船を降りればよかったんですよ」
「あなたを残してはいけないわ」
「そしたらボク、ビオラ様についていきましたよ?
え。そんなに薄情だと思われてました……?」
「思ってた」
なん、だと。
「だって私の論文、鼻で笑ってたし」
「ボクは証拠はどこだって言ったんですよ。
無いって言うから、笑ってやったんです」
「結局笑ってるし。何よう、仮説で論を組んで何が悪いのよう」
「せめて検証手段くらい探したらどうだったんです?
ボク、見つけましたよ?」
「は?え?みつけ、ええ?どこに??」
そういや、言うのすっかり忘れてたや。
作ってすぐにマリーにあげちゃったし、それビオラ様に会う前だしね。
「まだ世に出るのは早いし、記録は焼きました。
現物はマリーが持ってますよ」
「ああああ!!あの子の持ってた神器!!
見たことないのだと思ったら、あなたが作ったのね!?」
「ボクとストックの作です。次に会った時くらいにオーバーホールするんです。
手伝ってくれません?」
「手伝う!絶対やる!おおおお、漲ってきた!!」
この上司め。ほんと、淑女みはどこやった、元王女で元側妃。
……なんかバックミラー向こうのベルねぇがによによしてる。
「……なんでしょ」
「仲いいねぇ。年も離れてるのに、お友達みたい」
「んんー……ミスティだってビオラ様と同じくらいだからねぇ。
でも友達じゃねぇな」
「なぬ!?」
「ボクの先生だもの。何もかもを教わった」
勉強もたくさん。働き方、戦い方、生き方だって。
こら。後ろから適当に頭撫でんなし。髪ぐしゃってなっとるやろが。
……いつもこの人、頭撫でるの下手なんだから。
「ほら、そろそろ着地です。揺れますからね?」
「や。まだ撫で……おごぉ」
振動に負けて、ビオラ様は座席の隙間に崩れ落ちた。
着地はほんとに揺れるんだよ。
普通に座ってれば問題ないけど、お行儀悪い子はひっくり返る。
ベルねぇ、必死に我慢しなくても、笑い飛ばしてあげていいんだよ?
ボクみたいにさ。
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