3.ユリシーズより東へ出発。シャドウを目指して。
――――貴族にメイド、王子に相棒、おまけに上司までついてくる。豊富な旅の道連れだな。
会食が終わってみれば。
なんてこった。
終わってみれば、なんかしっかり王子の応対をさせられた気がするぞ?
げんなりして食堂から出てみれば、新たな来客があった。
「ギンナ、ベルねぇ!それにエリアル様も」
7歳と12歳になって、それぞれ成長したギンナとベルねぇがいよる。
少し長くなった緑の髪を垂らしたギンナは、青を基調とした貴族の……平服姿。
そういやこの子、いつからか青しか着なくなったんだよな……前の時間の、いつだったか。
ギンナはメリアほどではないが、背の高い方だった。すでにその兆候が出ていて、ストックより身長が伸びている。
ベルねぇとエリアル様の親子は、お仕着せは前のまま。髪の長さなんかも変わらないなぁ。
ベルねぇはあんま身長変わってないような?そろそろギンナに抜かれそうに見える……。
もう成長期のはずだけど、前の時間と変わりなく、スレンダー体型。
そしてエリアル様。相変わらず神秘的な雰囲気の方だ。
ベルねぇは……もうちょっとエリアル様分を受け継げればよかったねぇ……。
よそう。あまり体型を見比べるのは、礼も欠くし……こう、残酷だ。
しかし、この方の来訪は予定外だな。非常にありがたい。
「君らがいるなら、安泰か。しばらくぶりだな、ギンナ。ベル。
事情は聞いているか?」
「ええ、ストック。頼もしい味方を連れて来て上げたわよ?」
「お久しぶりです、ストック様。ハイディも」
「うん。久しぶり。エリアル様もお久しぶりです」
「変わりないようね。雑事は私とフィリアルに任せなさい」
うん。ギンナとベルねぇは呼んでたんだよ。
最初からビオラ様が、舟で別ルート予定だったから、そっちに同乗してもらう気だった。
この三年で、どっかで拾った結晶を取り込みおったんだよねギンナ……。
緑の普通の結晶かと思ったら、色が微妙に違ったらしくて。
話に聞いていたものだと考え、やってしまったそうな。
そんなにサンライトビリオン運転したかったのか。したかったんだろうなぁ。
乗らせてあげたとき、めっちゃはしゃいでたからなぁ。
今回も、新型神器船を動かせるとあって大張り切りだ。
何度かファイア領にこちらが行って、説明等は済んでいる。
あとは実際に乗りながら、ビオラ様にご指導いただく予定だ。
なお、そのビオラ様も白い結晶をお持ちだ。
たぶん、ミスティと違って前の時間の記憶があるのは、そのせいなんだろうな。
もちろんこいつを持ってるなら、前の時間でクレッセントも動かせたはずだが、黙っていたらしい。さすが、賢明だ。
さて。ベルねぇはもちろん、エリアル様まで来てくれたんなら、王子たちの世話は大丈夫だろう。
戦力は、ギンナがいる時点で過剰だ。
そして、エリアル様を追加で連れてきて、他に護衛や侍従がいないのは……あれかな。
警戒されているのは、何らかの事件の再現じゃないかな。
この時期、王都で誘拐事件なんてあったかなぁ?
この国……というか半島では。歴史が何度も繰り返されている。
そして一度起こったことが何らかの理由で起こらなくなったり、逆に発生したりしている。
三年前、皇女カレンが誘拐されかかったり、魔女姫サレスが暗殺されかかったりした。
再現時、現地の人間が操られることがあるんだが、これに選ばれるものと、そうでないものがいると見られる。
ボクらは役に対する抵抗力と呼んでいるが、魂の本来の名前を知る者たちには、それが備わっているようなのだ。
王子たち以外の全員が、その辺の事情を知っている。
ボクが知らないだけで、コーカス公や、エリアル様も役ではない「本来の名前」を持っているかもしれない。
この抵抗力は絶対ではないと思われるが、それでもまったくない人間に比べればあるほうがいい。
しかし、事件再現だと、すると。
ちょっと気になるな……。
コニファー王女ってゲーム『揺り籠から墓場まで』には出てこないんだよ。
そこを踏襲するなら、ゲーム開始以前に何かあった、ってことになる。
ボクの知る限り、前の時間でも学園には来ていなかった。
ん……今は王子たちはこっちいないし、聞いておくか。
「ギンナ、ストック。前の時ってボク、コニファー王女は会ったことないんだけど」
「「…………」」
わかりやすく黙るなし二人とも。
あったんだな、誘拐。
そして以降出ていないということは……少なくとも、ゲームでは亡くなった、か。
「分かりやすい反応をありがとう」
「この時期じゃないわよ?11歳のお誕生日直前。
まぁ私は、助け出されたって聞いたけど、その後音沙汰なくてね」
「私もそのように聞いてる」
なるほど。音沙汰ないということは、あれだな。
「ビオラ様と同じだな。おそらく、元の役では亡くなってるんだ。
でも何らかの要因で生き残って――以降、元の関係者から認識されなくなった」
「生きてたかもしれないってこと?」
「今の情報では、ひとまずそう考えていいと思う。
そしてそれは、このままコニファー王女が生き延びた場合にも起きる事態だ」
これは……実績のある、特殊能力者の出番だな。
次の投稿に続きます。




