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2-4.同。~因縁の山を下り、王国へ~

~~~~エリアル様は頼りになるけど、掴み所がさっぱりない。あととってもスパルタ。


 それから。


 言っちゃなんだがしんどい思いをする旅路となった。



 神器車はそこ走れんの?みたいなところも普通に走破するので、山道自体はいいんだが、さすがに気を遣う。


 垂直に近い崖とかは、無理なので。下手に道を踏み外すと、谷底へ真っ逆さまだ。



 その上で、休憩の時は鍛錬だ。


 トウロ……套路という、鍛錬用の型を授かったんだが、これがやるだけで痛い。めっちゃ痛い。


 なんでエリアル様は、普通にやって見せられたんだろう。痛くないのか。コツがあるんか。あるんだな。



 神経に通う生体電流を、魔素で増幅する、らしいんだが。


 その電気と、魔素で強化されて過敏になった神経のダブルパンチで悶えるほど痛い。


 はっきり言って、これに比べれば結晶ぶち込んだのなんて擦り傷みたいなもんだ。



 しかも全然慣れない。というか、痛むようなやり方してるのが、ダメらしい。


 難しい。頭をゆだるほど使ったときより、ずっと集中が要る。


 作戦とか組織運営や、人間関係の問題に頭悩ませるのなんて序の口だった。人の頭ってこんなに使えるんだね。



 こういう、痛みを伴う拷問のような鍛錬が……そのうち、呪縛として結実するらしい。


 そんな馬鹿なという気もするけど、他に思いつくものはないし、やり切ろうと思う。


 今度こそ、真っ当に力を尽くすんだ。そうでなければ、彼女に顔向けできない。



 なお、フィリねぇもちょっとやってみて……早々に挫折していた。


 彼女は別途武術の指導を受けているので、そちらに大人しく戻っていった。


 それがいいと思う。理由がなければ、ボクも御免被りたい。





 数日経って。



 コンクパール山脈を南西にだいたい下りきってくると、高い外壁が見えてきた。


 門と……近くに建屋もある。


 ここで検めを受けないといけない。



「この先が、王国ニキス領のカーボンの街ですね」


「ニキス侯爵が本家で領主、分家筋のカーボン子爵が街を治めてるのだったかしら?


 王国はこの辺り、独特ね」



 王国は正直変わってる。王が家臣に領地と爵位を与える、封建貴族制とは異なる。


 精霊と家の契約がまず先にあり、そこに爵位や領地が役割のように振られている。


 ある意味、王家すらその役割のうちと言っていい。



「そうですね。ボクも感覚的によくわかりません。


 それで、普通に検めを受ければいいんですか?」


「あなたは、王国民が産まれたときにする契約をされているはずよ。


 聖国に浚われていたのを、私たちが連れてきた。


 ただどこから浚われた誰なのかはわからない、と話せばいい。


 私が応対するから、心配しないでいいわよ」


「細かく照会されないんですかね……いや、されないんですね?」



 エリアル様は、知り得ない真実を見抜くことがある。


 自信満々に言う以上、そうなのだろう。


 王国民だとは判断されるが、どこの誰かだとはばれない、と。



「そういうこと。いきましょう。


 目的はニキス領の隣、ファイア領。


 抜けられればいいけど、ダメなら便りを出しましょう」


「はい」



 緩くアクセルを踏んで、門まで降りていく。


 頼れる大人がいてくれて本当によかった。


 ……この方の代わりに、結晶を取り込んだ甲斐があるというものだ。



 前の時のエリアル様は、だいぶ苦しそうだった。


 結晶移植は、魔力なしじゃないと反発が大きいらしい。


 ボクはもう、何の痛みもないんだけどね。不調もまったくない。



「こちらだ!寄せて止まりなさい」



 門番の兵士の誘導に従って、門の手前で端に寄せてクルマを止める。


 全員降りて、扉は閉めずにそのままとした。



 兵士の一人が近寄ってきて……エリアル様が出迎えた。



「お、子どもが運転していたのか……珍しいな。


 王国民ではないな?出身は?」


「私と……こちらの子は聖国の出です。


 そちらの子は、どうも赤子の頃、王国から聖国に拉致されたようでして。


 確認をお願いできますか?」


「おいおい、穏やかじゃないな……本当なのか?」



 疑いの目を向けつつも、別の門番の人が建屋の中に引っ込んでいった。


 確認って確か、精霊使うんじゃなかったかな?


 この国は契約と言葉を司る精霊ウィスプが、行政の様々なことを管轄しているはずだ。



 本来は煙の精霊なんだっけ?細くたなびくとかなんとか。


 それがなぜ、精霊が扱わないという「言葉」を司るのかはよくわからん。



 精霊は人に姿を見せることはあるが、声をかけることはない。


 ただこちらの呼びかけに、魔法をもって応えるだけ。


 彼らが言葉に関わるのは契約とか……予言のようなことを囁くときだけ、らしい。



「はい。そういう穏やかではない事情を聴いてしまって、こちらは追われる身でして。


 神器船に乗って王国を目指していたら、徴税隊にも襲われました」


「それは!大丈夫だったのか?」


「船は、彼らが魔境の中で結晶を破壊したので、残念ながら……。


 私たちはその子が機転を利かせてくれて、逃げ延びることができました。


 徴税隊は魔物に倒されていましたので、今のところ追っ手は来ていません」



 建屋の中から、緑っぽい色の制服を着た男の人が出てきた。


 あの制服は王国の行政機関の人が着るもので、色で省が分かれるはず。


 緑なら契約省だったかな?王国の行政の大部分を担当しているところだ。



 その人がボクのところに来て、左肩に手を翳した。



「失礼……確かに。国民登録の紋がある。間違いない、この子は王国民だ。


 君、今いくつだい?」


「四つです」


「なら他の契約はない、か……。事情はうかがえますか?」


「はい。こちらの知る限りをお答えいたします。


 ただその子が浚われたのは赤子の頃とみられ、記憶もなく、証拠などになるものもありません」


「む。そうなると、このままエングレイブにとどまるなら、この子は領の孤児院に行くことになりますね……」


「できれば、この子も連れてファイア領に行きたいのですが」


「そちらに縁者でもいらっしゃるのですか?」


「はい。この子ではなく、私ですが。ファイア大公と大公夫人に」



 エリアル様が、懐から何かを出した。


 ナイフかな?鞘に入って、豪奢ではないけど、装飾もある……。



「何かあれば、頼って構わないと」


「……確認をとらせていただきたい。お預かりしても?」


「お願いいたします」


「しばらく、この街にご滞在いただくことになると思いますが」


「持ち合わせはありますので、問題ありません」


「わかりました。すみません、後は任せます」


「ああ、わかった」



 役人の人は、門番の兵士に言うと、行ってしまった。


 クルマの方も、ちょうど検めが終わったようだ。



「あー……クルマを運転できるのは、その子だけです?」


「はい。元は我々の持ち物というわけでもありませんので、お持ちいただいて構いません」



 ……………………?


 あ。



 馬鹿なあああああああああああああああ!!!!


 そうか!ボク子どもや!この国で運転できんわ!!


 王国でクルマを持つには、車両契約が要る!普通、成人してからじゃないとできない!!



 思わず膝から崩れ落ちた。



「とりあえず、預からせていただきます。おい、誰か運転できるやつ呼んできてくれ」



 ああああああ……ボクのサンライトビリオンが持っていかれるぅぅぅ。



「まぁまぁ。元気だしなよウィスタリア。しばらくゆっくりできそうだよ?」



 ぐむむ。確かにどうせ動けないんだし、諦めるしか……。


 でも神器車。一財産。王国だといくらくらいだったかなぁ……買うと滅茶苦茶高いのに。


 子どもの身が恨めしい。口から呪いが出そう。

ご清覧ありがとうございます!


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