2-3.同。~急な訪問の目的は~
~~~~ボクはその問題にコミットしている。触れられたならば、戦わねばならない。
「俺の伴侶選びに口を出すのか、コーカス」
「出しますとも。淑女の元に勝手に行かれるくらいは、構いません。逸る気持ちもわかります。
ですが、ただ気に任せて行動に移したところで、お相手を困らせるだけです。
遊びでないと仰るならなおのこと、苦言を呈さざるを得ませんな」
ダン様がちょっとぐむむしている。
まぁ、王子だからとか、立場や建前寄りの話を出されてたら反発しただろうけど。
紳士の作法を出されたら、黙るしかあるまいよ。
幼かろうとも、それが王侯貴族に生まれた男児の価値観ってものだ。
「リィンジア。お前が王子の立場でウィスタリアを娶るなら、どうする」
「はい。ウィスタリアも魔力なしなので、婚姻するとはすなわち王位に至らないということ。
そのためどのような手をとるにしても、自身の継承権放棄を派閥貴族に認めさせないと話になりません。
彼らに、継承争いに負けても足る利益と納得を提供する。
その見立てがつけば多少の自由が得られますから、ウィスタリアのそばに行けるようになります。
そうしてやっとウィスタリアと親密になれる……可能性が出て来ます。
あとは何とかしてウィスタリアに騎士爵か勲章を得てもらえれば、婚姻が叶うかもしれませんね」
「長い苦難の道だな。それでも、今お前が歩んでる道に比べれば平易か?」
「大差ありません。ウィスタリアに振り向いてもらえる――それが最も難しいですから。
あとのことは、些事です」
……ボクがめんどくさい女だってこと、よくわかってるじゃないかストック。
そしてめんどくさい女の喜ばせ方が、よくわかってるじゃないか。
君が為してくれたことの数々を、ボクは些事なんて片付けらんねーぞ?
「何せ、気に食わなかったら半島丸ごとに反旗を翻しますし。
それでもだめなら、半島の外に一人逃げ出すでしょう。
今ここにいてくれるのが、奇跡のようなものです」
吹きそうなこと言うのやめていただけませんかね。
お?ぐむむ王子がそっと嘆息して……。
「わかった。非礼を働いてすまなかったな、ウィスタリア」
「いえ……」
「そのような面白い女を、場の勢いでものにしようなどと間違っていた。
改めて、策を練るとしよう」
そういう話じゃねえから。
「それがよろしいかと」
よろしくねえから大公閣下。
「楽しみにしております。王子殿下」
挑戦を受けるなしストック。
「フン。俺が挑戦者か。いいだろうリィンジア。
お前から奪って見せるとも」
盛り上がんな王子座ってろ。
ストックもめっちゃいい笑顔で迎え撃つな。
くそっ。淑女みを投げ出して、馬鹿なぁ!って言いたい。
◇ ◇ ◇
そうして食堂に移り、もてなし。
一通り供した後、歓談となったわけだが。
「……ウィスタリア、何か聞きたいことが?」
ストックに促された。
ボクはそんなに、何か言いたげな顔してたかね?
……みなさんこっち注目しちゃったし、こりゃ聞かないわけにもいかないか。
ストックに目配せを返す。彼女が、使用人たちを下げてくれた。
軽いジャブで聞くつもりだが、勘が働いている。
たぶんえぐい答えが返ってくる。
さて。
「私は、今回の王子がたの訪問目的を聞いていないのですが。
まだデビュー前の皆様が、王国領とはいえ、国外に出てこられたのはなぜでしょう?」
「それか……」
あ。大公が微妙な顔をした。
これシリアスであかんやつだ。
「聞かなかったことにしたいのですが」
「そう言うな、聞いていけ」
「えぇ~……」
今すぐ逃げ出したいくらい嫌です。
この後がっつり予定が入ってるんじゃが?
ボクらの休暇って名前の予定が、たっぷりと。
「俺が誕生日の祝いが煩わしいから、言い訳をつけて逃げ出しただけだ」
あ、わかった。これださっき引っかかったの。年齢だ。
ダン王子は……今日が誕生日なんだよ。
普通、派閥に担がれてる王子が誕生祝にほかの用事で外に出てるとか、ないから。
聖域の視察なんて、今日出てこられる訳がない。
本人が嫌がろうとも、派閥貴族が許さんて。
でもこれ、コーカス様がついてきてるんだから、派閥公認である。
となると……
次投稿をもって、本話は完了です。




