2-2.同。~八歳児相手だから落ち着いて応対したい……無理だった~
~~~~王子ちっちゃい。そして前みたときとあんま変わらん。
「ほう……」
ダン様の赤い目が、ボクの全身をじろじろと見る。
…………申し訳ないが、ちょっとこいつの教育係をぶん殴りたい。
おそらくは王城で雇われてる、礼法の教師の方だろうけど。
失礼ながら、これはいかんだろう。
王侯貴族が、そんな露骨な視線を向けるな。
場合によっては、それで悲劇が起きたり、死人が出ることもあるんだぞ?
勝手な忖度をするやつってのはいつの時代もいるんだから、高貴な身の上は表現に気をつけなくてはだめだ。
特に視線ってやつは、簡単に気取られる上に誤解されやすい。
ボクは貴族教育は受けていないが、淑女教育の一環として真っ先に矯正された。
当時のボクは前の時間で、六歳くらいだったはずだ。
それに確か……貴族の教えでは、もっと注意され、強く矯正を受ける。
視線が、魔導起動のキーになるからだ。
目を向けることは、ときに魔導での攻撃の意思とすら受け取られる。
だから高位貴族ほど茫洋と見る。簡単に目を合わせない。
今日は何でか姿が見えないが……ダン王子の後見貴族、コーカス・ファイア大公様なんかはそうだったな。
ダン王子、前の時間の学園で会った頃にはここまで露骨ではなかったから、どっかで教育されたんだろうがなぁ。
こうやって、国内とはいえ外に出るんなら、これはまずかろうに。
まぁ本人が悪いとは言わない。まだ八歳なんだから、大人が悪い。
その点を言えば、まだデビューしてない王子が、なんで視察で出歩いてるんだろうな。
この国では、10歳で公契約を結ぶまでは完全な子ども扱いで、貴族なら外には出さないはずなんだが……。
はて??
「お前でもいいな」
品定めするように見ていた王子が、改めてボクを見てにやりとした。
「面白そうだ」
は?なんだと??
「そうすればリィンジアもついてくるだろう?」
何を言い出すのこの馬鹿お……王子。
「お戯れを、殿下。
正妃以外をもったら、国王にはなれませんよ」
これもそういうもの、らしい。
王家精霊は仲良し夫婦が大好きっぽい。
側室、妾はダメ。隠れた浮気はもっとダメだ。
すぐ見つかって、王位はく奪となるんだと。
もちろん、王座につく前なら継承権がなくなる。
「王になることにこだわりはせん。
俺は俺の望むことをする」
先のは王族どころか貴族でもアウトなんだが、なんだその理屈は。
市井に下るつもりか?
だが何より。
「そのお言葉は、聞かなかったことにさせていただきます。
ファイア大公に不義理は働けません」
彼の後見貴族のファイア大公のために、よろしくない。
神輿が、王になる気がねぇような発言しちゃだめだ。
ここは王城の中ではない。国の所属だが、国の外ですらある。
「ならばそれは取り下げよう。
だがそれはそれとして、俺のものになれ、ウィスタリア」
――――っ。
瞬間、脳裏が真っ赤に染まったような気がして。
よっしストック。いいな?これはいいだろう?
君を見るまでもないよな。
ボクと君の間に入ろうとする奴は、敵だ。
これは宣戦布告ってやつだ。つまり。
戦争だ。
ボクの体から、宿業の赤い光が漏れ出し――――
「それは承認できませんな、殿下」
ボクは聞こえた声に、慌てて居住まいを正し、扉の方を向いて礼をとった。
足を大きく引き、裾を両手でつまんで、精霊に敬意を捧げるように、深く頭を下げる。
息をし、気を整える。
「ファイア大公閣下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
魔素を制御し、神経のすべてに至るまでを礼につぎ込む。
ロイドの二人も、礼をとったようだ。
扉から入ってきたのは、コーカス・ファイア大公閣下。エングレイブ王国南方領領主。
赤い長髪の美丈夫は、そろそろ結構な御年のはずだが、衰えをまったく感じさせない。
この人、姿勢がいいんだよね。武を修めてる方ではないはずなんだけど。
王子が三人だけで来てるはずがないんだから、そりゃこの人もいて然るべきよな。
今までどこにいたんだろう?
それにしても。
ちょっと確かにむかっと来たけどさ。
宿業?今、確かに赤い光が漏れかかったよね??
どういうこと、だろう。
ボクはストックにも、何か因縁を感じてるのか?
それとも……。
「ああ。まだ八つだというのに、美しくなったな?ウィスタリア。リィンジアも。
キリエに見習わせたい。
それから……ビオラと名乗っていると聞いた。久方ぶりだ」
「はい。大公閣下」
歳は離れてるが、ヴァイオレット様の妹だからかな。
ビオラ様とコーカス様は知り合いらしい。
それはそれとして、ちょっとこう、顔に来ます。
この御仁に美しい、とか。世辞でも言われると、ですね。
少々ゆっくりめに直りつつ、心拍を整える。顔が赤くないだろうか。大丈夫かボク。
次の投稿に続きます。
#本日分の残り、計3000字分ほどは朝投下いたします。
本日は合計6000字程度なので、少な目です。




