2.聖域ユリシーズ。接待と旅立ちの相談。
――――急な来客には気をつけろ。隙を見て淑やかに迎撃するんだ。
そうしてめっちゃ装わされて、応接にてお客様を出迎えたわけだが。
「久しいな、リィンジア」
「はい、ダン王子。お久しぶりです」
ストックは、ダン王子と面識があったのか。
まぁ宰相の娘だしな?何かの折に会っていたとしても、おかしくはない。
「そう固くならずとも良い。まずは紹介しよう。
弟のカーティスとバイロンだ」
「カーティスです」
「バイロンです。初めまして」
二人が胸に手を当てて礼をとる。
赤髪赤目のダン様が第一王子。
黒髪赤目のカーティス様が第二王子。
緑髪緑目のバイロン様が第三王子だ。
見事な正装の王子様が揃い踏みだ。
幼児とはいえ、ある種の迫力というか、オーラがあるな。
……ボクの苦手な、キラキラ感だ。
しかし八歳、七歳、六歳にしては上出来では?いい礼だ。
それはそれとして、三人そろってくるとはどういうことだ、とは思うが。
一人じゃねーのかよ。
ん、というか今嫌な感じが……。何か引っかかったな。
何に勘が働いたし、ボク。
「リィンジア・ロイドです。こちらからも紹介させていただきます。
叔母のビオラ・ロイド。
それから、当家に招いている神職のウィスタリアです」
「ビオラです。王子がた。初めまして」
「ウィスタリアと申します」
ボクこと「ウィスタリア」の公式な身分としては、国の認めた巫女である。
これはストック……リィンジア様も一緒。
ただドーン所属ではなく、モンストン侯爵預かりとなっている。
ちなみに巫女や神職というのは、神器船を動かせることの証明資格のようなものだ。
巫女や神主と呼ばれる人なら、中型神器船までなら一人で動かせる。
大型神器船――聖域の運用にかかわることもできる。
どの国でも引っ張りだこな、非常に需要の高い人材だ。
「新型の神器船にお前と乗ると聞いていたのは、そちらか」
「ええ。お耳が早いですね、王子」
「宰相の娘であることは抜いても、お前はここ数年の王都社交界での話題の的だからな。
何かすれば、話はいくらでも流れてくる。
例えば――――婚約を控えている伴侶がいる、とかな?」
耳ざといこと。
なおボクの実家に問題があるため、まだ「控えている」どまりである。
あと二年くらいでなんとかならないかなぁ。
貴族は10歳から公式の場にも出るようになるから、このままだとストックが困ったことになってしまう。
そう、例えば――
「ただの噂であれば、一蹴してその身を搔っ攫うところだが」
こういう。
宰相と、王国最強の武人の娘。
次代のこの国を担いたい者にとっては、伴侶にぜひ迎えたい女だろうさ。
だが言い回しが悪かった。
ボクとストック、そしてビオラ様の逆鱗に触れたな?
ボクらの間で、浚うってのは大きなNGワードだ。
まぁしょうがないさ。
ボクやビオラ様のそれは秘された事情ではあるし。
ストックのは未来にあるはずだった出来事。
だから、すぐ怒りはしない。
ストックを少し見る。彼女もこちらを見ていた。
少し、視線を交錯させる。
ここは穏便に流すのが是だが、真っ向からお断りが良だな。
そしてボクから言うのが角が立たない。
「……王子殿下。発言をよろしいでしょうか」
「良い。気にせず申せ」
「は。リィンジア様は魔力なし。王国の家々を継ぐ資格がございません。
これは、王家であっても同じ」
「法や旧弊の問題であれば、取り除くが?」
自信たっぷりに言えるあたりは、別に見栄じゃなかろうしまぁいいわ。
けど無理なんだよなぁ。
「精霊契約の問題なので、不可能です。
特に、王家精霊は夫妻両方との契約を絶対とする精霊。
伴侶に魔力がない場合、継承に至りません。
数件の前例が記録されています」
これはほんと。有名な話なので、本に載ってる。
でも誰もが知ってる話ではないので、リィンジア様宛にはそりゃあ縁談が舞い込むだろう。
次の投稿に続きます。




